安中散とは?胃痛・腹痛・胸やけに使う漢方薬

更新日:2026年6月27日 監修:堀口和彦
安中散(あんちゅうさん)

安中散(あんちゅうさん)は、胃腸が冷えやすく、胃痛・腹痛・胸やけ・げっぷ・食欲不振などが出やすい方に用いられる漢方薬です。単なる「胃薬」というより、胃の冷え、胃腸の弱さ、緊張による痛み、酸のこみ上げ感をあわせて見る処方です。KanpoNowでは、この処方を「冷えてこわばった胃を温め、痛みと不快感をやわらげる漢方薬」として整理します。

安中散はこんな人に向いています
  • 胃痛や腹痛があり、温めると楽になる
  • 胃腸が弱く、食べ過ぎや冷たいもので胃が痛みやすい
  • 胸やけ、げっぷ、胃酸が上がる感じがある
  • 緊張やストレスで胃がきゅっと痛む
  • やせ型または腹部の筋肉がゆるみやすい印象がある

反対に、胃の強い熱感、口の渇き、便秘が強い、出血を伴う、急な激痛がある、黒色便がある場合は、自己判断で漢方薬を使わず医療機関へ相談してください。

安中散とは

安中散は、桂皮延胡索牡蛎茴香縮砂甘草、良姜から構成される漢方薬です。名前の「安中」は、胃腸を中心とするお腹の中を安らかに整える、という意味合いで理解できます。

この処方が合いやすいのは、胃腸が弱く、冷えや緊張によって胃痛や腹痛が出やすいタイプです。胃が冷えると痛む、温かい飲み物で楽になる、空腹時やストレス時に胃がきゅっと痛む、胸やけやげっぷを伴うという方では、処方像に近づきます。

ポイント:安中散は「冷えた胃を温める」「胃の緊張をゆるめる」「痛みや胸やけを整える」という3つの方向を持つ処方です。冷えと痛みが重なる胃腸症状で候補になります。

古典における安中散の位置づけ

安中散は、古典『太平恵民和剤局方』に基づく処方として知られています。『太平恵民和剤局方』は中国・宋代以降に整備された代表的な処方集で、消化器症状を含むさまざまな病態に対する処方が収載されています。

現代的に言い換えると、この処方は、胃腸の冷えや緊張を背景にした胃痛・腹痛・胸やけ・げっぷなどを考える処方です。胃酸を単純に抑えるというより、胃の冷え、痛み、こわばり、気の滞りを総合して見る点が特徴です。

安中散らしさ:冷え、痛み、緊張、胸やけが同居する胃腸症状です。胃が弱いのに、酸が上がるような不快感もある。この矛盾したような状態をまとめて見るのが安中散です。

漢方的な病態とメカニズム

漢方では、安中散が合う状態を「中焦の虚寒」や「気滞を伴う胃痛」として捉えます。中焦とは胃腸を中心とする消化吸収の場です。ここが冷えると、胃腸の動きが乱れ、痛み、張り、げっぷ、胸やけ、食欲不振が起こりやすくなります。

  • 中焦の虚寒:胃腸が冷え、消化力が落ち、痛みやもたれが出やすい状態
  • 気滞:緊張やストレスで胃の気が巡らず、張りや痛み、げっぷが出る状態
  • 胃のこわばり:冷えと緊張で胃がきゅっと縮むように感じる状態
  • 上逆:胃の気が下に降りず、胸やけやげっぷとして上がる状態

安中散は、温める生薬、痛みをやわらげる生薬、胃の気を整える生薬、酸や不快感を受け止める生薬を組み合わせ、胃腸を中心に整える処方です。

注意:胃痛や胸やけがある場合でも、黒色便、吐血、急な激痛、体重減少、強い嘔吐、発熱、食事を取れない状態がある場合は、漢方薬で様子を見ず医療機関を受診してください。

構成生薬と配合バランス

安中散は、胃を温める軸、痛みをやわらげる軸、胸やけや不快感を受け止める軸で構成されています。構成生薬は7つですが、全体としては「胃の冷えと痛みを中心に、気の滞りと胸やけまで見る」処方です。

安中散の構成生薬比率 桂皮28%、延胡索21%、牡蛎21%、茴香10%、縮砂10%、甘草7%、良姜3%の配合比率イメージです。 安中散 配合比率
桂皮28%
延胡索21%
牡蛎21%
茴香10%
縮砂10%
甘草7%
良姜3%
安中散の内部構造
胃の冷えを温め、痛みをやわらげ、胸やけや不快感を整える構成です。
胃を温める軸 桂皮・良姜・茴香 冷えた胃腸を温め、冷えると痛む、温かいもので楽になるタイプを支えます。
痛みと緊張をほどく軸 延胡索・縮砂 胃のきゅっとした痛み、緊張、気の滞りによる不快感をやわらげます。
胸やけと調和の軸 牡蛎・甘草 酸のこみ上げ感や胃の不快感を受け止め、処方全体を穏やかにまとめます。

※配合比率は、桂皮4g・延胡索3g・牡蛎3g・茴香1.5g・縮砂1.5g・甘草1g・良姜0.5gを基準にしたイメージです。実際の配合量は製品により異なります。

一言でいうと:安中散は「冷えた胃を温めながら、痛みと胸やけを整える」処方です。冷え・痛み・緊張・酸のこみ上げが同時にあるとき、処方像がはっきりします。

安中散の味・香り・服用時の体感

安中散は、桂皮、茴香、良姜、縮砂など、香りのある温性生薬を含むため、胃を温める印象が比較的わかりやすい漢方薬です。強い苦みではなく、スパイス様の香りと甘み、少しの辛みが特徴です。

温かい胃薬の印象

お湯に溶かすと、やわらかい茶褐色の印象になります。冷えた胃に入ると、じんわり温まる感じがあります。

桂皮と茴香の香り

甘くスパイシーな香りに、芳香性のある生薬の香りが重なります。胃の気を動かすような印象があります。

甘みと辛み

甘みを土台に、温かい辛みが続きます。人によっては、わずかな苦みや薬草らしさを感じることもあります。

胃がゆるむ感覚

合っている場合、胃の冷えやこわばりが少しずつほどけ、痛みや胸やけが落ち着くように感じることがあります。

体験の流れ:茶褐色の温かい湯 → 甘くスパイシーな香り → 甘みと少しの辛み → 胃のこわばりがゆるむ印象。冷えや緊張で胃が痛む方ほど、安中散の方向性を感じやすいことがあります。

症状別の向き・不向き

安中散は、胃痛や胸やけという症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、冷え、胃腸虚弱、緊張、胸やけやげっぷの出方です。温めると楽になる、空腹時やストレス時に痛む、胃が弱いという特徴があるほど、安中散の輪郭がはっきりします。

冷えを伴う胃痛・腹痛

安中散の中心的な場面です。冷たい飲食や冷えで痛みやすく、温かい飲み物や腹部を温めることで楽になる場合に向きやすいです。

判断ポイント:温めると楽になる胃痛・腹痛。

胸やけ・げっぷを伴う胃の不快感

胃が弱いのに酸が上がる、げっぷが出る、胸やけがするという場合に候補になります。胃酸だけでなく、胃の冷えと気の上逆を見ます。

判断ポイント:胃が弱い、冷える、でも胸やけもある。

緊張やストレスで胃が痛む

ストレスで胃がきゅっと縮む、空腹時に痛む、げっぷや張りを伴う場合に候補になります。気の滞りを伴う胃痛として考えます。

判断ポイント:緊張すると胃が痛い、張る、げっぷが出る.

食欲不振・胃もたれ

胃腸の冷えや弱さが背景にあり、食べると重い、食欲が落ちる、胃が動きにくい印象がある場合に比較対象になります。

判断ポイント:胃が冷えて、動きが弱い感じがある。

強い胸やけ・長引く胃痛

安中散の範囲を超える可能性があります。胃潰瘍、逆流性食道炎、胆のう・膵臓などの病気が隠れることもあるため、長引く場合は受診が必要です。

判断ポイント:症状が続く、悪化する、食事が取れない場合は受診。
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熱感の強い胃痛・口渇・便秘

胃に熱がこもっているタイプでは、安中散の温める方向が合わないことがあります。口が渇く、便秘、強い熱感、イライラが前面にある場合は別の見立てが必要です。

判断ポイント:冷えではなく、熱感と乾きが強い。

体質別の向き・不向き

安中散は、胃腸が弱く冷えやすい方に向きやすい漢方薬です。一方で、強い熱感や炎症, 便秘、のぼせが前面に出るタイプでは合わないことがあります。

陽虚・胃腸の冷え

冷えで胃が痛む、温めると楽になる、冷たいもので悪化するタイプです。安中散の中心的な体質像です。

判断ポイント:冷えと胃痛が結びついている。

気滞・ストレス性の胃痛

緊張すると胃が痛む、張る、げっぷが出るタイプです。冷えや胃腸虚弱が重なると、安中散の候補になります。

判断ポイント:ストレスで胃がきゅっと痛む。

気虚・胃腸虚弱

胃腸が弱く、食欲が落ちやすいタイプです。冷えや痛みが中心なら候補になりますが、疲労感が強い場合は補気の処方も比較します。

判断ポイント:胃腸が弱く、冷えや痛みもある.

湿痰・胃もたれ

胃のちゃぽちゃぽ感、重さ、むくみが中心の場合は、安中散だけでなく、水分代謝を整える処方も比較します。

判断ポイント:痛みよりも重さ・水っぽさが目立つ。
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湿熱・実熱

胃の熱感、口渇、便秘、強い炎症感、赤み、のぼせが目立つ場合は、温める安中散とは方向が合わないことがあります。

判断ポイント:胃の不調に熱感・乾き・便秘が重なる.
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陰虚・乾燥とほてり

口が渇く、寝汗、ほてり、胃の焼けるような感じがある場合は、温める方向が負担になることがあります。

判断ポイント:冷えではなく、乾きとほてりが中心。

効能・効果

安中散の効能・効果は製品により表現が異なりますが、代表的には次のような内容が記載されています。

やせ型で腹部筋肉が弛緩する傾向にあり、胃痛または腹痛があって、ときに胸やけ、げっぷ、食欲不振、はきけなどを伴う次の諸症:
神経性胃炎、慢性胃炎、胃アトニー など

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

安中散は比較的穏やかな印象を持たれやすい漢方薬ですが、甘草を含むため、長期服用や他の漢方薬との併用では注意が必要です。また、胃痛や胸やけの背景に別の病気が隠れている場合もあります。

甘草による注意

安中散には甘草が含まれます。甘草を含む漢方薬を複数併用したり、長期間服用したりすると、偽アルドステロン症と呼ばれる副作用に注意が必要です。

  • 手足のむくみ
  • 血圧上昇
  • 体重増加
  • だるさ、脱力感
  • こむら返り、筋肉のけいれん

胃痛・胸やけで受診を優先したいサイン

  • 急な強い腹痛や、今までにない痛み
  • 吐血、黒色便、血便がある
  • 発熱、強い嘔吐、脱水がある
  • 体重減少や食欲低下が続く
  • 胸痛、息呼吸の苦しさ、冷や汗を伴う
  • 胃痛や胸やけが長引く、悪化している
すぐ相談:服用後に、むくみ、血圧上昇、脱力感、こむら返り、発疹、かゆみ、胃痛の悪化、強い胸やけ、嘔吐などが出た場合は服用を中止し、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

症状から理解を深める

安中散が気になる方は、胃痛・腹痛だけでなく、冷え、食欲不振、下痢、緊張や不安、だるさとの関係も確認すると理解が深まります。

よくある質問

Q. 安中散はどんな胃痛に向いていますか?

冷えると痛む、温めると楽になる、胃腸が弱い、胸やけやげっぷを伴うような胃痛に向きやすい漢方薬です。強い熱感、黒色便、吐血、急な激痛、体重減少がある場合は医療機関への相談を優先してください。

Q. 安中散は胸やけにも使いますか?

胸やけやげっぷを伴う胃の不快感に用いられることがあります。ただし、強い逆流症状が長引く場合や、飲み込みにくさ、体重減少、吐血、黒色便がある場合は、自己判断せず受診が必要です。

Q. 胃腸が弱人でも使えますか?

安中散は胃腸が弱く冷えやすい方に候補となる処方です。ただし、だるさや食欲不振が中心で痛みが少ない場合は、補う処方を比較することがあります。

Q. 安中散と六君子湯はどう違いますか?

安中散は、胃の冷え、痛み、胸やけ、げっぷが中心の処方です。六君子湯は、食欲不振、胃腸虚弱、胃もたれ、疲れやすさが中心の処方です。痛みが主役か、胃腸の弱りが主役かで見立てが変わります。

Q. 安中散は長く飲み続けてもよいですか?

症状や体質によります。甘草を含むため、長期服用や他の漢方薬との併用では、むくみ、血圧上昇、脱力感、こむら返りなどに注意が必要です。症状が改善しない場合は漫然と続けず、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

参考・出典

安中散が合うか迷った方へ

安中散は、胃痛や胸やけという症状名だけで選ぶ漢方薬ではありません。冷え、胃腸虚弱、緊張、げっぷ、胸やけ、食欲不振などをあわせて見て、体質に合うかを判断することが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。症状が強い場合、長引く場合、急な悪化がある場合、吐血・黒色便・血便・体重減少・強い嘔吐・胸痛などがある場合、基礎疾患がある場合、妊娠中・授乳中、小児・高齢者の場合は、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。