五淋散とは?頻尿・排尿痛・残尿感に使う漢方薬を体質別に解説

五淋散(ごりんさん)は、頻尿、排尿痛、残尿感、尿のにごりなど、尿路に熱と湿がこもったような排尿トラブルに用いられる漢方薬です。漢方では、膀胱や尿道など下腹部まわりに「湿」と「熱」が停滞し、尿の通り道を刺激している状態を「下焦の湿熱」と考えます。KanpoNowでは、この処方を「尿路の熱を冷まし、尿の通りをなめらかにし、排尿後のジーンとした不快感や残尿感を整える漢方薬」として整理します。
- トイレに行ってもすぐまた行きたくなる
- 排尿時にしみる、痛む、熱感がある
- 排尿後にジーンとした違和感や残尿感が残る
- 尿が濃い、にごる、すっきり出ない感じがある
- 冷えよりも、下腹部や尿路の熱っぽさ・炎症感が気になる
反対に、夜間頻尿、尿漏れ、冷え、足腰の弱りが中心の高齢者タイプでは、五淋散より八味地黄丸料や牛車腎気丸などの補腎・温陽系処方を比較します。血尿、発熱、腰背部痛、強い排尿痛がある場合は、漢方だけで様子を見ず受診を優先してください。
五淋散とは
五淋散は、茯苓、黄芩、滑石、甘草、地黄、車前子、沢瀉、当帰、木通、山梔子、芍薬から構成される漢方薬です。
尿の通りを良くする茯苓・沢瀉・滑石・車前子・木通、熱を冷ます黄芩・山梔子、血を補い巡らせる当帰・芍薬・地黄、痛みを緩和し全体を調和する甘草が組み合わさっています。尿路の熱と湿をさばきながら、排尿時の痛みや不快感を和らげる方向の処方です。
古典における位置づけ
五淋散は、中国宋代に編纂された『太平恵民和剤局方』を出典とする処方です。「五淋」とは、熱淋、血淋、石淋、気淋、膏淋など、尿が渋る、痛む、濁る、血が混じる、砂や石のようなものが関係する排尿異常をまとめて表す言葉です。
古典的には、膀胱や尿道に熱と湿が停滞し、尿の通り道がふさがれたり刺激されたりすることで、排尿痛、頻尿、残尿感、尿のにごり、血尿、下腹部痛などが起こると考えられてきました。
現在の日本で使われる五淋散は、古典の基本構成から発展し、利水通淋、清熱、補血・活血、調和の生薬を合わせた11味構成として整理されます。現代では、膀胱炎や尿道炎にみられるような、頻尿、排尿痛、残尿感、尿のにごりといった尿路症状で比較されます。
漢方的な病態とメカニズム
東洋医学では、五淋散が合う状態を、膀胱や尿道など下焦に湿熱がこもった状態として考えます。湿は余分な水分や濁り、熱は炎症や刺激感です。湿と熱が尿路に停滞すると、尿の通りが悪くなり、痛み、頻尿、残尿感、にごりとして現れます。
- 下焦湿熱:下腹部、膀胱、尿道に熱と湿がこもり、排尿時の痛みや熱感が出る状態
- 淋証:尿が渋る、痛む、出し切れない、にごる、血が混じるなどの排尿異常をまとめた考え方
- 水道不利:尿の通り道がスムーズに働かず、頻尿、残尿感、排尿困難が出る状態
- 血分の消耗・滞り:炎症や痛みが長引くことで、局所の修復力や巡りが落ちる状態
五淋散は、滑石・車前子・沢瀉・茯苓・木通で尿の流れを助け、尿路に停滞した湿熱を外へ出す方向に働きます。黄芩・山梔子は熱を冷まし、当帰・芍薬・地黄は血を補い巡らせて、痛みや違和感の長引きを和らげる方向に働きます。甘草は痛みを緩め、全体のバランスを整えます。
ただし、発熱、腰背部痛、血尿、強い排尿痛がある場合は、腎盂腎炎や尿路感染症など、医療対応が必要な状態も考えます。五淋散は、受診が必要な症状を隠して長く飲み続ける処方ではありません。
構成生薬と配合バランス
五淋散は、利水通淋、清熱、補血・活血、調和の4つの軸で構成されます。尿路の湿熱を尿とともに洗い流しながら、排尿時の痛みやジーンとした不快感を和らげる構成です。











※円グラフは、五淋散の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。
五淋散の味・香り・服用時の体感
五淋散は、黄芩や山梔子の苦み、地黄・当帰・甘草の甘みや少しもったりした味、滑石・沢瀉・車前子などの淡いミネラル感が重なる処方です。尿路の熱や湿をさばく処方らしく、強い甘さや香りよりも、苦み・渋み・淡い後味が印象に残ります。
苦みと淡い甘み
黄芩・山梔子の苦み、甘草や地黄の甘み、少しもったりしたえぐみが混ざります。
当帰系の生薬香
当帰のセロリ様の香りと、清熱・利水系の漢方薬らしい生薬の香りがあります。
黄褐色〜褐色
現代のエキス製剤では、黄褐色から褐色系の粉末・顆粒として流通します。
尿の通りが軽くなる感覚
合う方では、排尿後のジーンとした痛みや、すぐまた行きたくなる不快感が少しずつ軽くなる感覚があります。
体験の流れ:苦みと淡い甘み → 水分をとりながら服用 → 尿の通りが少しずつ滑らかになる → 排尿後のジーンとした痛みや残尿感が軽くなる感覚。五淋散は「温める」よりも、「冷まして流す」方向の処方です。
症状別の向き・不向き
五淋散は、排尿トラブルの中でも、頻尿、排尿痛、残尿感、尿のにごりがあり、下焦に湿熱がこもるタイプで候補になります。
膀胱炎・尿道炎の初期にみられる頻尿・排尿痛・残尿感
トイレに行ってもすぐ行きたくなる、排尿時にしみる、出し終わったあとにジーンとするタイプで候補になります。
判断ポイント:頻尿・排尿痛・残尿感・尿の熱感。尿のにごり・濃さを伴う排尿トラブル
湿と熱が尿に反映され、尿が濃い、にごる、すっきり出ないタイプで比較します。水分摂取と休養も重要です。
判断ポイント:尿のにごり・濃さ・熱っぽさ。排尿時の違和感が長引くタイプ
激しい痛みではないものの、排尿後の不快感、残尿感、尿道の違和感がだらだら続く場合に候補になります。
判断ポイント:強烈ではないが、湿熱の違和感が続く。排尿痛が激しく、尿が濃く、下腹部の熱感が強い
炎症感が強く、体力があり、こしけや下腹部の熱感も目立つ場合は、竜胆瀉肝湯などを比較します。
判断ポイント:熱と痛みが強ければ、より強い清熱処方を比較。夜間頻尿・尿漏れ・冷えが中心の高齢者
冷え、足腰の弱り、夜間尿、尿漏れが中心の場合は、腎陽虚を考えます。五淋散のように冷ます処方は合わないことがあります。
判断ポイント:熱ではなく冷えと衰えなら不向き。発熱・腰背部痛・強い血尿を伴う尿路症状
腎盂腎炎や強い尿路感染症など、医療機関での確認が必要な状態も考えます。漢方だけで様子を見ないでください。
判断ポイント:発熱・腰背部痛・血尿は受診。体質別の向き・不向き
五淋散は、湿熱体質、特に下腹部や尿路に熱と湿がたまるタイプに向きます。冷えが強い方、胃腸が極端に弱い方、慢性的な腎虚タイプでは慎重に考えます。
湿熱タイプ
尿が濃い、にごる、しみる、熱っぽい、下腹部に不快感があるタイプです。五淋散の中心像です。
判断ポイント:湿と熱が尿路にこもる。血虚・血瘀が軽く重なるタイプ
排尿時の違和感が長引き、局所の回復力や血流の滞りも関係する場合に比較します。当帰・芍薬・地黄が支えます。
判断ポイント:炎症後の違和感が長引く。脾気虚・胃腸虚弱
黄芩・山梔子などの冷ます生薬、地黄の重さで、胃もたれや下痢が出ることがあります。胃腸が極端に弱い方は慎重に考えます。
判断ポイント:冷ます力と地黄を受け止められるか。腎陽虚・冷えタイプ
腰から下が冷え、夜間尿、尿漏れ、足腰の弱りが中心のタイプです。五淋散より温めて補う処方を比較します。
判断ポイント:熱ではなく冷えと衰え。陰虚・乾燥が強く尿が少ないタイプ
潤い不足で尿が濃い、ほてりや口渇が中心の場合は、五淋散だけでなく猪苓湯や知柏地黄丸系など別方向も比較します。
判断ポイント:湿熱か、潤い不足か。効能・効果
五淋散の効能・効果は製品により表現が異なる場合がありますが、KanpoNowでは代表的に次のように整理しています。
体力中等度のものの次の諸症:頻尿、排尿痛、残尿感、尿のにごり
※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。
服用上の注意
五淋散は、尿路の湿熱に用いられる処方ですが、甘草、黄芩、山梔子、地黄を含むため、短期間で状態を見ながら使うことが大切です。症状が数日で改善しない場合や、危険サインがある場合は、漢方で引き延ばさず医療機関へ相談してください。
水分摂取と排尿を我慢しないこと
膀胱炎様の症状では、尿量を確保し、尿路に停滞した熱や刺激を洗い流すことが大切です。水分は、胃腸に負担をかけない範囲で、常温または温かいものを少しずつ摂りましょう。排尿を我慢することは避けてください。
湿熱を悪化させる生活習慣を避ける
アルコール、辛いもの、脂っこいもの、甘いもの、夜更かし、過労は、湿熱を助長し尿路の刺激を悪化させることがあります。排尿痛や残尿感がある時期は、刺激物を控え、休養を優先してください。
甘草による偽アルドステロン症への注意
五淋散には甘草が含まれます。むくみ、血圧上昇、低カリウム血症、筋力低下、こむら返り、だるさなどが出る場合は、服用を中止し専門家に相談してください。他の漢方薬や甘草を含む製品との併用にも注意が必要です。
黄芩による肝機能障害・間質性肺炎への注意
黄芩を含む漢方薬では、まれに肝機能障害や間質性肺炎などが問題になることがあります。発熱、から咳、息切れ、強いだるさ、黄疸、尿の色が濃い、発疹などが出た場合は、すぐに服用を中止し医療機関に相談してください。
山梔子を含む処方としての注意
山梔子を含む漢方薬では、長期連用時に腸間膜静脈硬化症が問題となることがあります。五淋散は急性期・症状がある時期を中心に考える処方であり、自己判断で長く飲み続ける処方ではありません。
地黄による胃腸障害への注意
地黄は血や潤いを支える生薬ですが、胃腸が弱いた方では胃もたれ、食欲低下、腹部膨満、下痢を起こすことがあります。胃腸が弱く下痢しやすい方は、服用前に相談してください。
相談・受診を優先したいサイン
- 発熱、悪寒、腰や背中の痛みがある
- 血尿が強い、尿が出にくい、排尿痛が激しい
- 吐き気、嘔吐、強いだるさを伴う
- 数日服用しても頻尿・排尿痛・残尿感が改善しない
- 妊娠中、授乳中、小児、高齢者、腎臓病・心臓病・高血圧がある
- 服用後にむくみ、血圧上昇、こむら返り、発疹、息切れ、から咳、黄疸が出る
症状から理解を深める
五淋散が気になる方は、尿路症状だけでなく、むくみ、湿熱、痛風、冷え、腹痛との関係も確認すると理解が深まります。
似ている漢方薬・構成生薬
排尿トラブルに使う処方でも、炎症の強さ、体力、冷え、虚弱、再発傾向、尿路の乾燥感によって選び方が変わります。
よくある質問
Q. 五淋散は膀胱炎に使えますか?
頻尿、排尿痛、残尿感、尿のにごりなど、膀胱炎様の初期症状で候補になります。ただし、発熱、腰背部痛、血尿が強い、症状が改善しない場合は、医療機関で確認してください。
Q. 猪苓湯との違いは何ですか?
猪苓湯は水熱をさばきながら潤いを守るシンプルな処方です。五淋散は、清熱、利水通淋に加えて、当帰・芍薬・地黄などで血分も整えるため、尿のにごりや排尿後の違和感がだらだら続くタイプで比較します。
Q. 竜胆瀉肝湯との違いは何ですか?
竜胆瀉肝湯は、体力があり、下腹部の熱感、排尿痛、こしけ、強い湿熱が目立つ場合に比較します。五淋散は、そこまで激しくない尿路の湿熱や、残尿感・にごりが続くタイプに向きます。
Q. 夜間頻尿にも五淋散でよいですか?
夜間頻尿でも、排尿痛や熱感、尿のにごりがある湿熱タイプなら候補になることがあります。一方、冷え、足腰の弱り、尿漏れ、加齢による排尿トラブルが中心なら、八味地黄丸料や牛車腎気丸などを比較します。
Q. 長く飲み続けてもよいですか?
五淋散は、急性期や症状がある時期を中心に考える処方です。甘草、黄芩、山梔子、地黄を含むため、自己判断で長く続けず、症状が改善しない場合や再発を繰り返す場合は専門家に相談してください。
参考・出典
- PMDA「医療用医薬品 添付文書等情報検索」
- PMDA「一般用医薬品・要指導医薬品 添付文書等情報検索」
- 古典:『太平恵民和剤局方』五淋散関連条文
- 名城大学「漢方処方解説 五淋散」
- 一般用漢方製剤製造販売承認基準
五淋散が合うか迷った方へ
五淋散は、頻尿、排尿痛、残尿感、尿のにごりに使われる漢方薬ですが、すべての排尿トラブルに合うわけではありません。尿路の熱と湿が主役なのか、冷えと腎虚が主役なのか、胃腸が弱いタイプなのか、炎症が強く受診が必要な状態なのかまで含めて判断することが大切です。

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AI漢方診断をする免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。発熱、腰背部痛、強い血尿、強い排尿痛、尿が出ない、吐き気・嘔吐、脱水、症状の悪化がある場合は、医療機関にご相談ください。妊娠中・授乳中、小児、高齢者、腎臓病・心臓病・高血圧などの基礎疾患がある方、他のお薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。服用後にむくみ、血圧上昇、筋力低下、こむら返り、発疹、から咳、息切れ、黄疸、強い胃部不快、下痢などがある場合は、服用を中止して相談してください。
堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師
光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。
著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。