平胃散とは?食べ過ぎ・胃もたれ・腹部膨満感に使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月13日 監修:堀口和彦
平胃散(へいいさん)

平胃散(へいいさん)は、宋代の医書『和剤局方』に記される、胃の中にたまった湿気や未消化物をさばき、胃腸の働きを平らかに整える漢方薬です。食べ過ぎ・飲み過ぎで胃が重い、お腹が張る、げっぷが出る、食欲がわかないような状態を、胃の中の湿と食滞を乾かして動かすことで整えます。KanpoNowでは、この処方を「食べ過ぎ・飲み過ぎで渋滞した胃を、乾かして動かす漢方薬」として整理します。

平胃散はこんな人に向いています
  • 食べ過ぎ・飲み過ぎで胃が重い
  • 胃が張って苦しく、げっぷが出る
  • 脂っこいもの、冷たいもの、アルコールの後に胃もたれする
  • 舌の苔が厚く、口の中がすっきりしない
  • 腹部膨満感、消化不良、食欲不振がある
  • もともと弱いというより、飲食の不摂生で胃が詰まっている

強い腹痛、繰り返す嘔吐、吐血、黒色便、急な体重減少、長引く食欲不振、飲み込みにくさがある場合は、漢方だけで様子を見ず医療機関に相談してください。

平胃散とは

平胃散は、蒼朮厚朴陳皮大棗甘草生姜から構成される漢方薬です。

蒼朮は胃腸に停滞した湿を乾かし、厚朴は胃の張りやつかえを下へ動かします。陳皮は気を巡らせ、げっぷや胃もたれを整えます。大棗・甘草・生姜は、胃腸を保護しながら処方全体を調和し、燥湿薬の強い働きを支えます。

ポイント:平胃散は、胃腸虚弱をじっくり補う処方ではなく、食べ過ぎ・飲み過ぎで胃に湿と未消化物がたまった状態を動かす処方です。体力がある程度あり、「胃が詰まって重い」時に比較します。

古典における位置づけ

平胃散は、宋代の官撰医書『和剤局方』を出典とする処方です。名前の通り、荒れた胃の働きを平らかにし、胃腸の気の通りを整える処方として理解されます。

古典的には、飲食の不摂生、脂っこい食事、冷たいもの、酒などによって、脾胃に湿が停滞し、胃腸の働きが鈍った状態に用いられてきました。

現代では、胃もたれ、消化不良、食欲不振、急性胃カタル、慢性胃カタル、胃アトニー、腹部膨満感、げっぷなどで比較されます。

平胃散らしさ:食べ過ぎた。飲み過ぎた。胃が重い。張って苦しい。げっぷが出る。舌苔が厚い。食欲がわかない。この「湿滞・食滞+体力中等度以上」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、平胃散が合う状態を、湿滞、食滞、脾胃湿困、気滞として考えます。食べ過ぎや飲み過ぎで胃腸の処理能力を超えると、胃の中に未消化物と湿気がたまり、胃の動きが重く鈍くなります。

  • 湿滞:胃腸に余分な水分や湿気がたまり、重だるさ、胃もたれ、舌苔の厚さが出る状態
  • 食滞:食べ過ぎや飲み過ぎで未消化物が胃に停滞し、張りやげっぷが出る状態
  • 脾胃湿困:湿が胃腸の働きを邪魔し、食欲不振や消化不良を起こす状態
  • 気滞:胃に詰まったものが気の流れを止め、腹部膨満感やげっぷにつながる状態

胃の中で飲食物が渋滞すると、ガスが生じ、げっぷや腹部膨満感が出ます。湿が多いと、舌の苔が厚くなり、体も重く感じやすくなります。

平胃散は、蒼朮で湿を乾かし、厚朴・陳皮で気を動かし、大棗・甘草・生姜で胃腸を守ります。胃の中を「乾かして、動かして、下へ流す」ことが、この処方の中心です。

注意:胃もたれ、食欲不振、げっぷ、腹部膨満感は、胃炎、胃潰瘍、逆流性食道炎、胆膵疾患、感染症、薬剤性、悪性疾患などが関係することがあります。長引く症状、体重減少、吐血・黒色便、強い腹痛がある場合は医療機関で確認してください。

構成生薬と配合バランス

平胃散は、蒼朮・厚朴・陳皮・大棗・甘草・生姜の6生薬で構成されます。湿を乾かす蒼朮、気を動かす厚朴・陳皮、胃腸を守る大棗・甘草・生姜が組み合わされた、胃の停滞を整える基本処方です。

平胃散の構成イメージを示す円グラフです。 平胃散
蒼朮38%
厚朴25%
陳皮19%
大棗7%
甘草7%
生姜4%
平胃散の内部構造
胃の湿を乾かし、気を巡らせ、停滞した内容物を下へ流す構成です。
燥湿化痰の軸 蒼朮 胃腸に停滞した湿を乾かし、胃もたれ、重だるさ、厚い舌苔を整えます。
理気除満の軸 厚朴・陳皮 胃に詰まった気を動かし、腹部膨満感、げっぷ、つかえを下へ流します。
調和健胃の軸 大棗・甘草・生姜 胃腸を守りながら、燥湿薬・理気薬の働きを調和します。

※実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:平胃散は、食べ過ぎ・飲み過ぎで胃に湿と未消化物がたまり、重い・張る・げっぷが出る状態を整える処方です。

平胃散の味・香り・服用時の体感

平胃散は、蒼朮と厚朴の苦味・えぐみに、陳皮の柑橘系の香り、大棗・甘草の甘み、生姜の辛味が混ざります。胃にたまった湿を動かす処方らしく、香りと苦味が比較的はっきりしています。

苦味と甘み

蒼朮・厚朴の苦味に、甘草・大棗の甘み、生姜の辛味が重なります。

柑橘と芳香

陳皮の爽やかな香りと、厚朴の独特な芳香が立ちます。

褐色〜黄褐色

製品により異なりますが、粉末・顆粒では褐色から黄褐色に見えます。

胃が下へ動く感覚

合う方では、胃の重さや張りが抜け、げっぷとともに停滞感が軽くなる感覚があります。

体験の流れ:陳皮と厚朴の香りを感じる → 胃のムカムカが落ち着く → げっぷが出やすくなる → 胃の中に停滞していた内容物が下へ動く感覚。平胃散は、弱った胃を長期的に補う処方というより、食べ過ぎ・飲み過ぎで詰まった胃を一度すっきりさせる処方です。

症状別の向き・不向き

平胃散は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、食べ過ぎ・飲み過ぎ、胃の重さ、腹部膨満感、げっぷ、厚い舌苔、体力中等度以上、湿滞・食滞です。

食べ過ぎ・飲み過ぎで胃が重い

飲食物が胃に停滞し、胃が重い、苦しい、動かない感じがある時に比較します。

判断ポイント:飲食の不摂生後に出る胃もたれ。

腹部膨満感・げっぷ

胃に湿と気が詰まり、張って苦しい、げっぷが出る、ガスがたまるようなタイプに向きます。

判断ポイント:厚朴・陳皮で動かす張りがある。

舌苔が厚く、口の中がすっきりしない

舌にべったりした苔があり、胃の中に湿が停滞しているサインがある時に比較します。

判断ポイント:湿滞のサイン。

消化不良・食欲不振

食べ過ぎ後に胃が重く、空腹感が出ず、食欲が戻らない場合に比較します。

判断ポイント:弱りより湿の停滞。
×

もともと胃腸が弱く、少し食べただけで張る

脾気虚が中心の胃腸虚弱では、平胃散の乾かして動かす力が負担になることがあります。

判断ポイント:食滞ではなく気虚なら六君子湯側。
×

みぞおちがつかえ、腹鳴と下痢を伴う

上熱下寒・寒熱錯雑の胃腸不調では、半夏瀉心湯を比較します。

判断ポイント:腹鳴・下痢・みぞおちのつかえ。

体質別の向き・不向き

平胃散は、湿滞・食滞が中心で、体力が中等度以上あるタイプに向きます。胃腸が弱いから何でも平胃散、ではありません。胃に余分なものがたまっているか、胃腸の力そのものが不足しているかを分けます。

湿滞・食滞タイプ

食べ過ぎ・飲み過ぎで、胃に湿と未消化物がたまり、重い・張る・げっぷが出るタイプです。

判断ポイント:胃に余分なものがたまっている。

体力中等度以上の胃もたれタイプ

ある程度体力があり、胃を動かして湿をさばす力に耐えられるタイプで比較します。

判断ポイント:攻めて動かせる体力がある。

腹部膨満を伴う気滞タイプ

胃に湿がたまり、気の流れも止まって、張りやげっぷが出るタイプです。

判断ポイント:湿と気滞が同時にある。

陰虚・乾燥タイプ

蒼朮・厚朴など乾かす生薬が中心のため、口渇、乾燥、胃液不足が強い方では慎重に考えます。

判断ポイント:乾かしてよい湿があるか。
×

脾気虚・胃腸虚弱タイプ

食べられない、少しで満腹、疲れやすい、食後に眠い方では、六君子湯など補う処方を比較します。

判断ポイント:胃が弱いのか、胃に詰まっているのか。

効能・効果

医療用平胃散の効能・効果は、外部添付文書では次のように整理されています。

胃がもたれて消化不良の傾向のある次の諸症:急性胃カタル・慢性胃カタル、胃アトニー、消化不良、食欲不振

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

平胃散は、食べ過ぎ・飲み過ぎによる湿滞・食滞に使う処方ですが、胃もたれや食欲不振の背景には医療機関で確認すべき疾患が隠れることがあります。また、甘草を含むため、長期連用や他の漢方薬との併用では注意が必要です。

頓服的な活用を考える

平胃散は、「食べ過ぎた」「飲み過ぎた」「胃が重い」という時に、胃の中の停滞を動かす処方です。症状が落ち着いた後も、漫然と飲み続ける薬ではありません。

六君子湯との使い分け

平胃散は、体力があり、食べ過ぎや飲み過ぎで胃が重く、張って苦しい時に比較します。六君子湯は、もともと胃腸が弱く、食べられない、少し食べると張る、食後に眠い、疲れやすいタイプに比較します。

胃腸を休ませる食事

胃もたれがある時は、無理に食べて体力をつけようとすると、かえって消化にエネルギーを使います。空腹感が戻るまで胃腸を休ませ、回復期はお粥、うどん、温かい汁物などを少量ずつ摂ります。

甘草による偽アルドステロン症への注意

平胃散は甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感などに注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

胃もたれ・食欲不振の受診目安

胃もたれや食欲不振が長く続く、体重が減る、吐血や黒色便がある、強い胃痛がある、飲み込みにくい、嘔吐を繰り返す場合は、胃炎・胃潰瘍・逆流性食道炎・胆膵疾患・悪性疾患などの確認が必要です。

相談・受診を優先したいサイン

  • 吐血、黒色便、血便がある
  • 強い胃痛、腹痛、繰り返す嘔吐がある
  • 食欲不振や胃もたれが長く続く
  • 急な体重減少がある
  • 飲み込みにくい、食べ物がつかえる
  • むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下がある
  • 服用しても改善しない、又は悪化する
すぐ相談:胃もたれや食欲不振は、単なる食べ過ぎだけではないことがあります。黒色便、吐血、体重減少、強い腹痛、長引く食欲不振がある場合は医療機関を優先してください。

症状から理解を深める

平胃散が気になる方は、食欲不振、腹痛、下痢、便秘、症状一覧をあわせて見ると、湿滞・食滞と胃腸の停滞の全体像がつかみやすくなります。

胃腸に使う漢方薬でも、食べ過ぎで詰まっているのか、もともと胃腸が弱いのか、寒熱がこじれているのか、胃に水と気が停滞しているのかで選び方が変わります。平胃散は、体力がある程度あり、飲食の不摂生で胃に湿と食滞がたまったタイプで比較します。

よくある質問

Q. 平胃散はどんな胃もたれに向いていますか?

食べ過ぎ・飲み過ぎの後に、胃が重い、張って苦しい、げっぷが出る、舌苔が厚いタイプに向きます。胃腸虚弱より、湿滞・食滞が中心です。

Q. 六君子湯との違いは何ですか?

六君子湯は、もともと胃腸が弱く、食欲がない、少し食べると張るタイプに使います。平胃散は、体力があり、食べ過ぎ・飲み過ぎで胃に湿と食滞がたまった時に比較します。

Q. 頓服で使う処方ですか?

食べ過ぎ・飲み過ぎ後の胃もたれでは、頓服的に考えやすい処方です。症状が落ち着いた後に漫然と続けるより、胃腸を休ませる養生も一緒に行います。

Q. 下痢傾向にも使えますか?

湿が腸へ流れて軟便・下痢傾向になる場合に比較されます。ただし、冷えが強い水様便や、腹鳴と下痢を伴う寒熱錯雑では、人参湯や半夏瀉心湯など別の処方も考えます。

Q. 甘草の注意はありますか?

平胃散は甘草を含みます。長期連用や他の漢方薬との併用では、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下などに注意してください。

参考・出典

平胃散が合うか迷った方へ

平胃散は、食べ過ぎ・飲み過ぎによる胃もたれ、腹部膨満感、消化不良に使われる漢方薬ですが、すべての胃腸不調に合うわけではありません。食滞なのか、胃腸虚弱なのか、寒熱錯雑なのか、胃内停水なのかを見極めることが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。吐血、黒色便、血便、強い腹痛、繰り返す嘔吐、体重減少、飲み込みにくさ、長引く食欲不振がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後に胃部不快感、食欲不振、下痢の悪化、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。