補中益気湯とは?疲労倦怠・胃腸虚弱・食欲不振・ねあせに使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月4日 監修:堀口和彦
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)は、胃腸の働きを補い、不足した気を益す代表的な漢方薬です。元気がなく、胃腸の働きが衰え、疲れやすく、食欲が落ち、病後や術後に体力が戻りにくい方に用いられます。KanpoNowでは、この処方を「弱った胃腸から気を作り直し、下がった気を上へ持ち上げる漢方薬」として整理します。

補中益気湯はこんな人に向いています
  • 疲れやすく、朝から体が重い
  • 食欲がなく、胃腸の働きが弱っている
  • 病後・術後に体力がなかなか戻らない
  • 手足がだるく、食後に横になりたくなる
  • 胃下垂、脱肛、内臓が下がるような感じがある
  • 寝汗をかきやすい、風邪をひきやすい

強い発熱、長引く咳、息切れ、急な体重減少、食欲不振が続く、血便・黒色便、強い腹痛、動悸や血圧上昇がある場合は、漢方だけで様子を見ず医療機関に相談してください。

補中益気湯とは

補中益気湯は、黄耆蒼朮人参当帰柴胡大棗陳皮甘草升麻生姜から構成される漢方薬です。

人参と黄耆は、気を補う中心です。柴胡と升麻は、下がった気を上へ引き上げます。蒼朮・陳皮・生姜・大棗は胃腸の働きを整え、食べ物から気を作る土台を支えます。当帰は血を養い、気を支える栄養面を補います。甘草は処方全体を調和します。

ポイント:補中益気湯は、単なる疲労回復薬ではありません。胃腸が弱って気を作れず、さらに気が下がることで、疲労、食欲不振、寝汗、風邪をひきやすい、胃下垂・脱肛のような下垂症状が出るタイプに向く処方です。

古典における位置づけ

補中益気湯は、金・元時代の名医である李東垣が著した『脾胃論』を出典とする処方です。胃腸を中心に気を補い、弱った体を立て直す代表処方として知られています。

処方名の「補中」は、お腹の中心である脾胃を補うこと、「益気」は気を増すことを意味します。別名として「医王湯」と呼ばれることもあり、気虚・脾気虚の基本処方として広く用いられてきました。

現代では、虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒などで比較されます。胃腸を立て直しながら、全身の気力を回復させる処方です。

補中益気湯らしさ:元気がない。疲れやすい。食欲がない。食後に眠い。病後に回復しない。寝汗が出る。風邪をひきやすい。内臓が下がる感じがある。この「脾気虚+中気下陥」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、補中益気湯が合う状態を、気虚、脾気虚、中気下陥、表虚として考えます。気は、活動する力、内臓を支える力、汗を調節する力、外敵から身を守る力に関わります。

  • 気虚:生命活動のエネルギーが不足し、疲れやすく、動くほど消耗する状態
  • 脾気虚:胃腸の働きが弱く、食べ物から気を作れない状態
  • 中気下陥:気が下がり、胃下垂、脱肛、内臓の重だるさにつながる状態
  • 表虚:皮膚のバリア機能が弱く、寝汗や風邪をひきやすさが出る状態

胃腸が弱ると、食べても気が作れず、筋肉、脳、内臓がガス欠のような状態になります。そのため、手足がだるい、食後に横になりたい、朝から体が重い、病後に体力が戻らないといった症状が出ます。

補中益気湯は、人参・黄耆で気を補い、柴胡・升麻で下がった気を引き上げ、蒼朮・陳皮・生姜・大棗で胃腸を整えます。さらに当帰で血を補い、甘草で全体を調和します。気を作り、気を上げ、気を漏らさない方向へ整えるのが特徴です。

注意:疲労倦怠や食欲不振は、貧血、甲状腺疾患、糖尿病、心疾患、感染症、うつ病、悪性疾患、薬剤性などが関係することがあります。長引く強い疲労、体重減少、発熱、息切れ、胸痛、黒色便などがある場合は医療機関で確認してください。

構成生薬と配合バランス

補中益気湯は、黄耆・蒼朮・人参・当帰・柴胡・大棗・陳皮・甘草・升麻・生姜の10生薬で構成されます。補気、升提、健胃、補血、調和の働きが組み合わされた、気虚に対する代表処方です。

補中益気湯の構成イメージを示す円グラフです。 補中益気湯
黄耆20%
蒼朮20%
人参20%
当帰15%
柴胡10%
大棗5%
陳皮5%
甘草3%
升麻1%
生姜1%
補中益気湯の内部構造
胃腸を補い、気を増し、下がった気を上へ持ち上げる構成です。
補気固表の軸 人参・黄耆・甘草 不足した気を補い、体力・防御力・汗を調節する力を支えます。
升提の軸 柴胡・升麻 下がった気を上へ持ち上げ、胃下垂、脱肛、内臓の重だるさを整える方向へ働きます。
健胃補血の軸 蒼朮・陳皮・生姜・大棗・当帰 胃腸の消化吸収を助け、血を養い、気を作る土台を整えます。

※実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:補中益気湯は、胃腸が弱って気を作れず、疲れやすく、下がりやすく、漏れやすい状態を立て直す処方です。

補中益気湯の味・香り・服用時の体感

補中益気湯は、人参・黄耆・甘草・大棗による甘み、陳皮の柑橘系の香り、柴胡のわずかな苦味、生姜の軽い辛味が重なります。強く苦い処方ではなく、比較的甘く飲みやすい印象です。

甘みと軽い苦味

人参・黄耆・甘草・大棗の甘みに、柴胡のわずかな苦味が加わります。

甘い香りと柑橘

人参の甘い香りに、陳皮の爽やかな香り、生姜の軽い香りが重なります。

褐色〜黄褐色

製品により異なりますが、粉末・顆粒では褐色から黄褐色に見えます。

体に芯が入る感覚

合う方では、お腹が温まり、重だるかった体に一本芯が通るように感じることがあります。

体験の流れ:甘みと陳皮の香りを感じる → お腹がじんわり立ち上がる → 食後のだるさや横になりたい感覚が軽くなる → 姿勢が少しシャキッとし、風邪をひきにくい方向へ体力が戻る感覚。補中益気湯は、気を作り、持ち上げ、守る処方です。

症状別の向き・不向き

補中益気湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、疲労倦怠、胃腸虚弱、食欲不振、病後の衰弱、ねあせ、風邪をひきやすい、下垂感です。

著しい疲労倦怠感

手足がだるい、朝から重い、食後に横になりたいような、脾気虚の疲労に向きます。

判断ポイント:動くほど消耗する疲れ。

病後・術後の衰弱

病気や手術の後に、食欲や体力が戻らず、日常生活で疲れやすい状態に比較します。

判断ポイント:回復力そのものが落ちている。

胃下垂・脱肛・下垂感

気が下がり、内臓や肛門を支える力が落ちている中気下陥タイプに比較します。

判断ポイント:柴胡・升麻で持ち上げる証。

寝汗・風邪をひきやすい

体表の守りが弱く、汗が漏れたり、外邪を防ぎにくい表虚タイプで比較します。

判断ポイント:黄耆で表を固める。
×

胃のポチャポチャ感・吐き気・食欲不振が前面

同じ気虚でも、胃内停水や湿痰が強い場合は、六君子湯を比較します。

判断ポイント:全身疲労か、胃の水か。
×

ガッチリ体型・便秘・のぼせ・赤ら顔

湿熱・実熱タイプでは、補うことで熱やのぼせが悪化することがあります。

判断ポイント:補う段階か、出す段階か。

体質別の向き・不向き

補中益気湯は、気虚・脾気虚・中気下陥の基本処方です。体が弱って気を作れない、支えられない、漏れやすいという方向に向きます。熱や老廃物がたまった実証・湿熱では慎重に考えます。

気虚・脾気虚タイプ

疲れやすく、食欲がなく、胃腸の働きが落ち、日常生活で気力が続かないタイプです。

判断ポイント:気を作る力が弱い。

中気下陥タイプ

胃下垂、脱肛、内臓の重だるさ、姿勢が保てないような下がる症状で比較します。

判断ポイント:下がった気を上げる。

表虚・易感染タイプ

汗が漏れやすい、寝汗をかく、風邪をひきやすい、病後に体調が戻りにくいタイプです。

判断ポイント:体表の守りが弱い。

陰虚・ほてりタイプ

補中益気湯は補って上げる処方のため、ほてりや寝汗が陰虚中心の場合は別処方を比較します。

判断ポイント:気虚の寝汗か、陰虚の寝汗か。
×

湿熱・実熱タイプ

便秘、のぼせ、赤ら顔、太鼓腹、熱感があるタイプでは、補うことで火に油を注ぐことがあります。

判断ポイント:熱と老廃物が詰まっていないか。

効能・効果

補中益気湯の効能・効果は、KanpoNowページおよび添付文書では次のように整理されています。

体力虚弱で、元気がなく、胃腸のはたらきが衰えて、疲れやすいものの次の諸症:虚弱体質、疲労倦怠、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

補中益気湯は、気虚・脾気虚の代表処方ですが、長期連用や他の漢方薬との併用では注意が必要です。特に甘草を含むため、偽アルドステロン症やミオパチーに注意します。また、添付文書上、間質性肺炎や肝機能障害などにも注意が必要です。

甘草による偽アルドステロン症への注意

甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感などに注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

間質性肺炎・肝機能障害への注意

発熱、空咳、息切れ、息苦しさ、黄疸、褐色尿、強いだるさ、食欲不振、発疹、かゆみが出た場合は、服用を中止して専門家に相談してください。

食事指導:消化力に見合った食事

気虚の人は、消化する力そのものが不足しています。体力をつけようとして、焼肉、うなぎ、脂っこいものを無理に食べると、胃腸に負担がかかります。空腹を感じてから、温かく消化のよいものを、よく噛んで少量ずつ摂ることが大切です。

休むことも治療

補中益気湯が合う方は、気を消耗しやすい状態です。激しい運動や無理な仕事量は、回復を遅らせます。翌日に疲れが残らない程度の散歩、ストレッチ、深呼吸から始めます。

六君子湯との使い分け

補中益気湯は、全身の倦怠感、下垂感、寝汗、風邪をひきやすさが中心です。六君子湯は、胃のポチャポチャ感、吐き気、胃もたれ、食欲不振など、胃の水と消化機能の弱さが前面に出る場合に比較します。

相談・受診を優先したいサイン

  • 疲労倦怠が長く続き、日常生活に支障がある
  • 急な体重減少、発熱、寝汗が強い
  • 息切れ、胸痛、動悸がある
  • 食欲不振が長く続く、黒色便・血便がある
  • むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下がある
  • 発熱、空咳、息切れ、黄疸、褐色尿、強いだるさが出る
  • 1か月程度服用しても改善しない、又は悪化する
すぐ相談:補中益気湯は虚弱体質や疲労倦怠に使う処方ですが、体重減少、発熱、息切れ、胸痛、黒色便、強い寝汗、むくみ悪化、筋力低下、空咳、黄疸がある場合は、医療機関や専門家に相談してください。

症状から理解を深める

補中益気湯が気になる方は、食欲不振、冷え、不眠、ストレス、むくみ、症状一覧をあわせて見ると、気虚・脾気虚・中気下陥の全体像がつかみやすくなります。

疲労倦怠に使う漢方薬でも、気虚が中心なのか、胃の水が中心なのか、血虚が強いのか、心身の不安が強いのかで選び方が変わります。補中益気湯は、胃腸から気を作り、下がった気を持ち上げる処方です。

よくある質問

Q. 補中益気湯はどんな疲れに向いていますか?

胃腸が弱く、食欲がなく、動くほど疲れ、手足がだるく、食後に横になりたいような気虚・脾気虚の疲れに向きます。

Q. 六君子湯との違いは何ですか?

補中益気湯は、全身の倦怠感、気力低下、下垂感、寝汗、風邪をひきやすさが中心です。六君子湯は、胃もたれ、吐き気、胃のポチャポチャ感、食欲不振など胃の症状が前面に出る場合に比較します。

Q. 風邪予防にも使いますか?

体力虚弱で、胃腸の働きが衰え、風邪をひきやすい方に比較されます。ただし、発熱や強い咽頭痛など急性感染症の症状がある場合は、状態に応じた対応が必要です。

Q. 寝汗にも使えますか?

気虚・表虚で汗が漏れやすいタイプの寝汗に比較されます。ほてり、口渇、乾燥、不眠が強い陰虚の寝汗では、別の処方を考えます。

Q. 甘草の注意はありますか?

補中益気湯は甘草を含みます。長期連用や他の漢方薬との併用では、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下などに注意してください。

参考・出典

補中益気湯が合うか迷った方へ

補中益気湯は、疲労倦怠、虚弱体質、病後・術後の衰弱、食欲不振、ねあせ、感冒に使われる漢方薬ですが、すべての疲れに合うわけではありません。気虚なのか、血虚なのか、胃内停水なのか、湿熱なのか、睡眠やストレスの問題が強いのかを見極めることが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。強い疲労倦怠が長く続く、発熱、急な体重減少、息切れ、胸痛、黒色便、強い寝汗、食欲不振が続く場合は、医療機関にご相談ください。服用後に発疹、発赤、かゆみ、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、空咳、息切れ、発熱、黄疸、褐色尿、強いだるさ、食欲不振などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。