滋陰降火湯とは?乾いた咳・気管支炎・のどの乾燥に使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月8日 監修:堀口和彦
滋陰降火湯(じいんこうかとう)

滋陰降火湯(じいんこうかとう)は、体力が低下し、のどに潤いがなく、痰が切れにくく咳こむ方に用いられる漢方薬です。乾いた咳、長引く咳、気管支炎、のどの乾燥、夕方から夜のほてり、寝汗など、体の潤いが不足して熱が浮く状態を考える処方です。KanpoNowでは、滋陰降火湯を「肺とのどを潤し、陰虚による虚熱を冷まして、長引く乾いた咳を整える漢方薬」として整理します。

滋陰降火湯はこんな人に向いています
  • のどが乾いて、痰が少ない、または粘って切れにくい
  • コンコンと乾いた咳が長引き、夕方から夜に悪化しやすい
  • 寝汗、手足のほてり、口の渇き、微熱感がある
  • 体力が落ち、皮膚や粘膜が乾燥しやすい
  • 水っぽい痰ではなく、乾燥・消耗・虚熱が背景にある

反対に、水っぽい鼻水や薄い痰が大量に出る咳、冷えで悪化する咳、胃腸が極端に弱い方、下痢しやすい方では、滋陰降火湯が合わないことがあります。

滋陰降火湯とは

滋陰降火湯は、蒼朮地黄芍薬陳皮天門冬当帰麦門冬黄柏甘草知母から構成される漢方薬です。

「滋陰」とは、体の潤いである陰液を補うこと。「降火」とは、潤い不足によって浮き上がった虚熱を鎮めることです。肺・気管支・のどの乾燥によって咳が長引く状態や、体力低下に伴うほてり・寝汗・皮膚乾燥を、潤しながら冷ます方向で整えます。

ポイント:滋陰降火湯は、咳を無理に止める薬ではありません。乾いて過敏になったのど・肺を潤し、虚熱を冷まして、咳が続く土台を整える処方です。

古典における位置づけ

滋陰降火湯は、中国明代の医学書『万病回春』などに記載が見られる処方です。四物湯のように血を補う考え方、二陳湯のように胃腸を整えて痰をさばく考え方に、天門冬・麦門冬・知母・黄柏などの滋陰清熱薬を加えた構成として理解できます。

古典的には、体の潤いが枯れて熱が浮き、肺やのどが乾いて咳が続く状態を整える処方です。慢性化した咳、気管支炎、のどの乾燥、痰が切れにくい咳、体力低下を伴う虚熱に向けて組み立てられています。

現代では、気管支炎、長引く咳、痰が切れにくい咳、のどの乾燥、夕方から夜のほてり、寝汗、乾燥傾向の皮膚や便秘傾向などを伴う方で比較されます。

滋陰降火湯らしさ:乾いた咳が長引く。痰が少ない、または粘って切れにくい。のどが乾く。寝汗がある。夕方から夜にほてる。体力が落ちている。皮膚が乾燥しやすい。この「陰虚・虚熱+肺燥」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、滋陰降火湯が合う状態を、陰虚、血虚、肺燥、虚熱として考えます。体を潤し冷ます陰液が不足すると、のどや気管支の粘膜が乾き、少しの刺激でも咳が出やすくなります。さらに冷却水不足による虚熱が加わると、寝汗、ほてり、微熱感、夜間の咳が出やすくなります。

  • 肺陰虚:肺とのどの潤いが不足し、乾いた咳、のどの乾燥、痰の切れにくさが出る状態
  • 虚熱:潤い不足で熱が浮き、夕方の微熱、ほてり、寝汗が出る状態
  • 血虚:血が不足し、皮膚や粘膜を養えず、乾燥・回復力低下が出る状態
  • 痰の停滞:痰が多いというより、少量で粘り、のどにへばりついて切れにくい状態

天門冬・麦門冬・地黄は、肺とのど、体の奥の潤いを補います。当帰・芍薬は血を補い、乾燥しやすい粘膜や皮膚を支えます。知母・黄柏は、陰虚から生じる虚熱を冷まします。陳皮・蒼朮・甘草は、重い滋陰薬で胃腸がもたれないよう助け、痰や気の巡りも整えます。

そのため、滋陰降火湯は「乾いた咳に使う処方」ですが、単純な咳止めではなく、乾燥・消耗・虚熱・胃腸の受け止めまで含めて整える処方です。

注意:咳が長引く場合は、咳喘息、気管支喘息、感染症、肺炎、結核、COPD、間質性肺炎、逆流性食道炎、薬剤性咳嗽などの確認が必要になることがあります。血痰、息苦しさ、胸痛、高熱、体重減少、強い寝汗がある場合は医療機関に相談してください。

構成生薬と配合バランス

滋陰降火湯は、10種類の生薬から構成されます。医療用製剤では、蒼朮3.0g、地黄・芍薬・陳皮・天門冬・当帰・麦門冬が各2.5g、黄柏・甘草・知母が各1.5gという配合が確認されています。

滋陰降火湯の構成を、蒼朮13%、地黄11%、芍薬11%、陳皮11%、天門冬11%、当帰11%、麦門冬11%、黄柏7%、甘草7%、知母7%として合計100%で示した構成イメージです。 滋陰 降火湯
蒼朮13%
地黄11%
芍薬11%
陳皮11%
天門冬11%
当帰11%
麦門冬11%
黄柏7%
甘草7%
知母7%
滋陰降火湯の内部構造
潤いを補い、虚熱を冷まし、胃腸で受け止めながら乾いた咳を整える構成です。
肺と体を潤す軸 天門冬・麦門冬・地黄 のど・気管支・体の奥の潤いを補い、乾燥性の咳や口渇を整えます。
虚熱を冷ます軸 知母・黄柏 潤い不足で浮いた熱、寝汗、夕方のほてり、微熱感を鎮める方向です。
胃腸と血を支える軸 当帰・芍薬・蒼朮・陳皮・甘草 血を補い、胃腸の受け止めを助け、滋陰薬によるもたれを防ぎます。

※円グラフは、滋陰降火湯の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:滋陰降火湯は、体力低下と潤い不足で、のど・気管支が乾き、痰が切れにくく咳こむ状態を、潤しながら虚熱を冷まして整える処方です。

滋陰降火湯の味・香り・服用時の体感

滋陰降火湯は、地黄・麦門冬・天門冬のもったりした甘みと、知母・黄柏の苦み、陳皮の香り、甘草の甘みが混ざります。医療用製剤では「甘くて渋い」とされることがあります。

甘みと渋苦さ

滋陰薬の甘みと、知母・黄柏の苦み、陳皮のほろ苦さが重なります。

陳皮と生薬の香り

陳皮の柑橘系の香りに、地黄や麦門冬の重い生薬香が混ざります。

灰褐色の顆粒

医療用製剤では灰褐色の顆粒として確認されます。製品により色調は異なります。

のどが潤う感覚

合う方では、のどのイガイガ感、乾いた咳、夕方以降のほてりや寝汗が少しずつ落ち着く感覚があります。

体験の流れ:甘く渋い味 → のどの奥の乾燥感が少し和らぐ → 痰が切れやすくなる → 夜のほてり・寝汗・空咳が徐々に落ち着く感覚。滋陰降火湯は、即効の咳止めというより、乾燥した粘膜の土台を整える処方です。

症状別の向き・不向き

滋陰降火湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、長引く乾いた咳、のどの乾燥、痰の切れにくさ、体力低下、寝汗、ほてり、便秘傾向、皮膚乾燥です。

乾いた咳・痰が切れにくい咳

のどに潤いがなく、少量の粘る痰が切れにくく、咳こむタイプで候補になります。

判断ポイント:乾く・粘る・長引く。

気管支炎・風邪後に残るしつこい咳

体力が低下し、風邪の後から咳だけが残り、のどが乾いて痰が切れにくい場合に比較します。

判断ポイント:病後の乾燥性咳嗽。

寝汗・夕方のほてり・微熱感

潤い不足による虚熱があり、夜間の寝汗、手足のほてり、夕方の熱感を伴う場合に候補になります。

判断ポイント:陰虚の熱症状がある。

皮膚乾燥・便秘傾向を伴う咳

体内の潤い不足が、のどだけでなく皮膚や腸にも出ている場合に比較します。

判断ポイント:全身の乾燥サイン。

激しい咳き込みが主役の空咳

顔を赤くして発作的に咳き込む局所の乾燥咳では、麦門冬湯が合う場合があります。

判断ポイント:局所の咳か、全身の陰虚か。
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水っぽい痰・鼻水が多い咳

透明で薄い痰や鼻水が多く、冷えで悪化するタイプでは、小青竜湯など水毒・寒飲をさばく処方を比較します。

判断ポイント:乾燥ではなく水が多い。

体質別の向き・不向き

滋陰降火湯は、陰虚、血虚、虚熱に向く処方です。胃腸虚弱が強い方、冷えが主役の方、水っぽい痰が多い方では慎重に考えます。

陰虚・肺燥タイプ

のどや気管支の潤いが不足し、乾いた咳、口渇、痰の切れにくさ、寝汗が出るタイプです。滋陰降火湯の中心像です。

判断ポイント:肺とのどが乾いている。

血虚+虚熱タイプ

体力低下、皮膚乾燥、便秘傾向、ほてり、微熱感があり、血と潤いの不足から熱が浮くタイプで候補になります。

判断ポイント:乾燥と熱が同居する。

高齢者・慢性化した咳の虚弱タイプ

体力が落ち、粘膜の潤いと修復力が弱り、咳が長引くタイプで比較します。

判断ポイント:消耗と慢性化。

脾気虚・胃腸虚弱タイプ

地黄や麦門冬などの潤す生薬は胃腸に重く感じることがあります。食欲不振、悪心、下痢が強い方では慎重に見ます。

判断ポイント:滋陰薬を受け止められるか。
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陽虚・寒飲タイプ

冷えが強く、透明で水っぽい痰や鼻水が多いタイプでは、滋陰降火湯でさらに重くなることがあります。

判断ポイント:冷えと水が主役なら不向き。

効能・効果

滋陰降火湯の効能・効果は製品により表現が異なる場合がありますが、KanpoNowでは代表的に次のように整理しています。

体力虚弱で、のどにうるおいがなく、たんが切れにくくてせきこみ、皮膚が浅黒く乾燥し、便秘傾向のあるものの次の諸症:気管支炎、せき

※医療用製剤では「のどにうるおいがなく痰の出なくて咳こむもの」と記載されるものもあります。実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

滋陰降火湯は、潤いを補って虚熱を冷ます処方ですが、甘草を含み、また地黄・麦門冬・天門冬など胃腸に重い生薬も含みます。長期服用や併用では、体質と副作用の確認が必要です。

甘草による偽アルドステロン症への注意

滋陰降火湯には甘草が含まれます。むくみ、血圧上昇、低カリウム血症、筋力低下、こむら返り、だるさなどが出る場合は、服用を中止し専門家に相談してください。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用にも注意が必要です。

胃腸虚弱の方への注意

著しく胃腸が弱い方、食欲不振、悪心、嘔吐がある方では、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢などが出ることがあります。服用後に胃腸症状が続く場合は、自己判断で継続しないでください。

水っぽい痰・冷え咳には注意

滋陰降火湯は潤す処方です。透明で水っぽい痰や鼻水が多い、冷えると咳が悪化する、体が冷えて下痢しやすいタイプでは、かえって痰や重だるさが増えることがあります。

水分補給と睡眠の養生

陰虚タイプでは、一度に大量に水を飲むより、少量をこまめに飲む方が合う場合があります。また、夜更かしは陰液を消耗します。日付が変わる前の就寝、寝る前のスマホ時間を減らすこと、室内の乾燥対策が大切です。

相談・受診を優先したいサイン

  • 咳が3週間以上続く、または悪化している
  • 血痰、胸痛、息苦しさ、高熱、強い倦怠感がある
  • 体重減少、強い寝汗、微熱が長く続く
  • 喘鳴、呼吸困難、夜間の強い咳込みがある
  • 服用後にむくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下が出る
  • 服用後に食欲不振、悪心、嘔吐、下痢が悪化する
すぐ相談:血痰、胸痛、息苦しさ、高熱、体重減少、強い寝汗、呼吸困難、服用後のむくみ・血圧上昇・筋力低下がある場合は、滋陰降火湯で様子を見ず医療機関に相談してください。

症状から理解を深める

滋陰降火湯が気になる方は、咳・喘息、気管支炎、ほてり、不眠、更年期のホットフラッシュとの関係も確認すると理解が深まります。

咳に使う漢方薬でも、乾燥が主役か、水っぽい痰が主役か、炎症が主役か、体力低下が主役かで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 滋陰降火湯はどんな咳に向いていますか?

体力が低下し、のどに潤いがなく、痰が少ない、または粘って切れにくく咳こむタイプに向きます。乾いた咳、風邪後に長引く咳、夕方から夜に悪化する咳で比較します。

Q. 麦門冬湯との違いは何ですか?

麦門冬湯は、喉・肺の局所乾燥による発作的な咳込みに向きます。滋陰降火湯は、咳に加えて、寝汗、ほてり、体力低下、皮膚乾燥、便秘傾向など、全身の陰虚・虚熱がある場合に比較します。

Q. 水っぽい痰が出る咳にも使えますか?

基本的には向きにくいです。透明で薄い痰や鼻水が多い咳、冷えで悪化する咳では、小青竜湯など水毒・寒飲をさばく処方を比較します。滋陰降火湯は潤す処方なので、水が多いタイプでは重くなることがあります。

Q. 寝汗やほてりにも関係しますか?

はい。滋陰降火湯は、陰虚による虚熱を冷ます方向を持つため、咳に加えて寝汗、夕方のほてり、口渇、微熱感がある場合に候補になります。

Q. 甘草は入っていますか?

はい。滋陰降火湯には甘草が含まれます。むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、だるさなどが出る場合は、服用を中止して専門家に相談してください。他の漢方薬との併用時は甘草の重複にも注意が必要です。

参考・出典

  • PMDA「医療用医薬品 添付文書等情報検索」
  • ツムラ「滋陰降火湯エキス顆粒(医療用)添付文書」
  • ツムラ「漢方ビュー|滋陰降火湯」
  • 古典:『万病回春』滋陰降火湯関連記載
  • 公益社団法人 東京生薬協会・富山大学 和漢医薬学総合研究所等の生薬資料

滋陰降火湯が合うか迷った方へ

滋陰降火湯は、乾いた咳、痰が切れにくい咳、気管支炎、のどの乾燥に使われる漢方薬ですが、すべての咳に合うわけではありません。乾燥型なのか、水っぽい痰型なのか、炎症型なのか、虚弱・陰虚があるのかまで含めて判断することが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。咳が長引く、血痰、胸痛、息苦しさ、高熱、強い倦怠感、体重減少、強い寝汗、喘鳴、呼吸困難、服用後のむくみ・血圧上昇・こむら返り・筋力低下・食欲不振・悪心・嘔吐・下痢などがある場合は、医療機関にご相談ください。妊娠中・授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、基礎疾患がある方、他のお薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。