加味帰脾湯とは?不眠・不安・貧血に使う漢方薬

更新日:2026年7月6日 監修:堀口和彦
加味帰脾湯(かみきひとう)

加味帰脾湯(かみきひとう)は、心身が疲れ、血色が悪く、不眠・不安・貧血傾向が重なる方に用いられる漢方薬です。胃腸の働きが弱り、気血を十分に作れなくなった「心脾両虚」を土台に、考えすぎ、緊張、軽いイライラ、のぼせ、熱感が加わった状態を考えます。KanpoNowでは、この処方を「気血を補い、心を養いながら、疲れた神経の高ぶりを整える漢方薬」として整理します。

加味帰脾湯はこんな人に向いています
  • 疲れているのに眠れない、眠りが浅い
  • 不安感、緊張、動悸、考えすぎがある
  • 血色が悪く、貧血傾向、立ちくらみがある
  • 食欲が落ち、胃腸が弱く、疲れが抜けにくい
  • 夢が多い、物忘れが増えた、心が落ち着かない
  • 疲労を背景に、軽いイライラ・のぼせ・熱感を伴う

強い不眠、うつ状態、希死念慮、激しい動悸、胸痛、息切れ、急な体重減少、出血、重い貧血が疑われる場合は、漢方だけで様子を見ず医療機関に相談してください。

加味帰脾湯とは

加味帰脾湯は、黄耆柴胡酸棗仁蒼朮人参茯苓竜眼肉遠志山梔子大棗当帰甘草生姜木香から構成される漢方薬です。

胃腸を支えて気を補う生薬、血を補って心を養う生薬、不眠や不安を落ち着かせる生薬、軽い熱感やイライラを整える生薬が組み合わされています。帰脾湯に柴胡と山梔子を加えた処方であるため、気血不足だけでなく、疲労を背景にした軽い神経の高ぶりにも対応しやすい構成です。

ポイント:加味帰脾湯は、単なる睡眠薬ではありません。胃腸を立て直して気血を作れる体に近づけ、心を養いながら、不眠・不安・動悸・血色不良を整える処方です。

古典における位置づけ

加味帰脾湯は、帰脾湯を土台に、柴胡と山梔子を加えた処方です。帰脾湯は、心労や過労によって胃腸の働きが弱り、気血が不足し、心が落ち着かなくなる状態を整えるために用いられてきました。

「帰脾」という名前は、弱った脾、つまり消化吸収の土台に力を戻すという意味で理解できます。漢方でいう脾は、現代医学の脾臓そのものではなく、食べたものから気血を作り、全身と心を養う働きとして考えます。

加味帰脾湯では、帰脾湯の「気血を補い、心を養う」働きに、柴胡・山梔子による「気の滞りや軽い熱感を鎮める」方向性が加わります。そのため、疲れているのに眠れない、弱っているのに焦る、血色が悪いのにほてる、という複雑な状態に使いやすい処方です。

加味帰脾湯らしさ:疲れている。胃腸が弱い。血色が悪い。眠れない。不安がある。動悸がする。軽いイライラやのぼせもある。この「心脾両虚+軽い熱感」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、加味帰脾湯が合う状態を、気虚、血虚、心脾両虚、軽い気滞・虚熱として考えます。悩みすぎや過労によって胃腸が弱ると、食べたものから気血を作る力が落ちます。すると、体は疲れやすくなり、心を養う血も不足して、眠りや安心感が不安定になります。

  • 気虚:疲れやすい、気力が出ない、食欲が落ちる、回復が遅い状態
  • 血虚:顔色が悪い、眠りが浅い、動悸、不安、物忘れ、夢が多い状態
  • 心脾両虚:胃腸が弱り、心を養う血が不足して、不眠・不安・健忘が出る状態
  • 軽い虚熱・気滞:疲れているのに、焦る、イライラする、頭が熱い、考えが止まらない状態

加味帰脾湯は、人参・黄耆・蒼朮・茯苓などで胃腸を立て直し、当帰・竜眼肉・酸棗仁・遠志で血と心を養い、柴胡・山梔子で軽い熱感や気の滞りを整えます。補うだけでも、冷ますだけでもなく、疲れて弱った心身の土台を支えながら、神経の高ぶりを鎮める構成です。

注意:不眠や不安が強い、日常生活に支障がある、涙が止まらない、希死念慮がある、動悸や胸痛が強い場合は、漢方だけで抱え込まず、医療機関や専門家に相談してください。

構成生薬と配合バランス

加味帰脾湯は、14種類の生薬で構成される、補気・補血・安神・理気清熱の処方です。胃腸を支えて気を補い、血を補って心を養い、不眠や不安を落ち着かせ、疲労を背景にした軽い熱感やイライラを整えます。

加味帰脾湯の構成を、補気34%、安神補血28%、理気清熱22%、調和16%として合計100%で示した構成イメージです。 加味 帰脾湯
補気34%
安神補血28%
理気清熱22%
調和16%
加味帰脾湯の内部構造
気血を補い、心を養い、軽い熱感と気の滞りを整える構成です。
胃腸を支える軸 人参・黄耆・蒼朮・茯苓 気を補い、胃腸の働きを支え、疲れやすさと回復力の低下を整えます。
心を養う軸 当帰・竜眼肉・酸棗仁・遠志 血を補い、心を養い、眠りの浅さ、不安、動悸、健忘を支えます。
熱感を整える軸 柴胡・山梔子・木香 疲労を背景にした軽いイライラ、のぼせ、考えすぎ、気の滞りを整えます。

※円グラフは、加味帰脾湯の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:加味帰脾湯は、疲れて眠れない、不安が強い、血色が悪い、胃腸が弱い方を、気血と心の両面から立て直す処方です。

加味帰脾湯の味・香り・服用時の体感

加味帰脾湯は、人参・大棗・甘草・竜眼肉による穏やかな甘みに、柴胡・山梔子の軽い苦味、木香の芳香が重なります。補う生薬が多い一方で、柴胡・山梔子・木香が入ることで、重すぎず、気の巡りも意識した処方になっています。

甘みと軽い苦味

人参・大棗・甘草・竜眼肉の甘みに、柴胡・山梔子の軽い苦味が混ざります。

甘い香りと木香の芳香

補う処方らしい甘い香りに、木香のややスパイシーな香りが重なります。

淡褐色〜褐色

製品により異なりますが、粉末・顆黎では淡褐色から褐色に見えます。

心身がほどける感覚

合う方では、胃腸の底力が戻り、不安、焦り、眠りの浅さが少しずつ穏やかになります。

体験の流れ:やわらかな甘みを感じる → 胃腸と体力が支えられる → 胸の不安や動悸が落ち着く → 眠りが少しずつ深くなる感覚。加味帰脾湯は、眠れる心身の土台を作る処方です。

症状別の向き・不向き

加味帰脾湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、疲労、胃腸虚弱、血色不良、不眠、不安、動悸、軽いイライラ・のぼせが重なっているかどうかです。

疲れているのに眠れない不眠

体力が落ち、気血が不足し、心が養われないことで眠りが浅くなるタイプに向きます。

判断ポイント:疲れているのに眠れない。

不安・動悸・考えすぎ

血虚と心脾両虚により、胸が落ち着かず、不安、動悸、考えすぎが出る場合に比較します。

判断ポイント:不安と疲労が同時にある。

血色不良・貧血傾向・立ちくらみ

顔色が悪い、疲れやすい、動悸、立ちくらみ、眠りの浅さが重なる血虚タイプに向きます。

判断ポイント:血の不足が見える。

産後・育児疲れの不安定さ

産後の血の消耗、睡眠不足、胃腸の弱り、不安、イライラが重なる場合に比較します。

判断ポイント:消耗と不安が中心。
×

体力があり、怒り・便秘・強い実熱が目立つ

顔が赤く、便秘が強く、怒りや興奮が前面に出るタイプでは、補う処方が重くなることがあります。

判断ポイント:虚証か実証か。
×

胃もたれ・痰湿が強いタイプ

補う生薬が多いため、舌苔が厚い、胃もたれ、悪心、痰が多いタイプでは重く感じることがあります。

判断ポイント:補える胃腸か。

体質別の向き・不向き

加味帰脾湯は、気虚・血虚・心脾両虚に向く処方です。疲労と不安が重なり、胃腸の弱り、血色不良、不眠、動悸がある方で比較します。

気虚タイプ

疲れやすい、気力が出ない、食欲が落ちる、回復が遅いタイプです。

判断ポイント:胃腸と体力の弱り。

血虚タイプ

顔色が悪い、眠りが浅い、動悸、不安、夢が多い、物忘れがあるタイプです。

判断ポイント:心を養う血が不足。

心脾両虚タイプ

考えすぎや心労で胃腸が弱り、気血不足から不眠・不安・動悸が出るタイプです。

判断ポイント:胃腸と心の両方が弱る。

軽い気滞・虚熱タイプ

疲労ベースに、焦り、軽いイライラ、のぼせ、頭の熱感が加わる場合に比較します。

判断ポイント:虚が土台の高ぶり。
×

実熱・湿熱タイプ

便秘、強い口渇、赤ら顔、強い怒り、炎症が目立つ場合は、別方向の処方を比較します。

判断ポイント:補うより瀉す状態か。

効能・効果

加味帰脾湯は、一般に、体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの、不眠症、精神不安、神経症、貧血などに用いられる処方として整理されます。

体力中等度以下で、心身が疲れ、血色が悪く、ときに熱感を伴うものの次の諸症:貧血、不眠症、精神不安、神経症

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

加味帰脾湯は、気血を補い心を養う処方ですが、甘草、山梔子を含むため、長期服用や併用時には注意が必要です。また、不眠・不安・貧血傾向は、医療機関での確認が必要な場合があります。

甘草による偽アルドステロン症への注意

甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感などに注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

山梔子による長期服用リスク

山梔子を含む漢方薬では、長期服用により腸間膜静脈硬化症が報告されています。長期服用中に、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満、便潜血陽性などが続く場合は、医師・薬剤師に相談してください。

胃もたれ・食欲低下への注意

補気・補血の生薬が多いため、体質によっては胃もたれ、食欲低下、悪心、腹痛、下痢などが出ることがあります。服用後に胃腸症状が出る場合は、無理に続けず相談してください。

睡眠薬・抗不安薬・抗うつ薬との併用

加味帰脾湯は、西洋薬の代わりに自己判断で使うものではありません。睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬を服用中の方は、自己判断で中止・減量せず、医師または薬剤師に相談してください。

相談・受診を優先したいサイン

  • 不眠や不安が強く、日常生活に支障がある
  • 気分の落ち込みが強い、希死念慮がある
  • 胸痛、強い動悸、息切れ、失神がある
  • 出血、重い貧血、急な体重減少がある
  • むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下がある
  • 腹痛、下痢、便秘、腹部膨満が長く続く
  • 服用しても改善しない、又は悪化する
すぐ相談:強い不眠、不安、抑うつ、希死念慮、胸痛、強い動悸、息切れ、重い貧血が疑われる場合は、加味帰脾湯で様子を見ず医療機関に相談してください。

症状から理解を深める

加味帰脾湯が気になる方は、不眠、不安、貧血、動悸、更年期の不眠、症状一覧をあわせて見ると、心脾両虚・気虚・血虚の全体像がつかみやすくなります。

不眠や不安に使う漢方薬でも、気血不足なのか、実証の緊張なのか、気滞なのか、陰虚のほてりなのかで選び方が変わります。加味帰脾湯は、疲労・胃腸虚弱・血色不良を土台にした不眠・不安に向く処方です。

よくある質問

Q. 加味帰脾湯はどんな不眠に向いていますか?

疲れているのに眠れない、眠りが浅い、夢が多い、考えごとが止まらない、不安や動悸を伴う不眠に向きます。体力があり、便秘や強い熱感が前面に出る不眠では別処方を考えます。

Q. 加味帰脾湯は更年期にも使えますか?

疲労、血色不良、不安、不眠が土台にあり、軽いほてりやイライラが重なる更年期タイプでは候補になります。強いのぼせ、便秘、怒り、実熱が目立つ場合は体質確認が必要です。

Q. 睡眠薬を飲んでいても相談できますか?

相談は可能ですが、睡眠薬を自己判断で中止・減量しないでください。併用薬、日中の眠気、ふらつき、持病、血圧などを確認したうえで、医師または薬剤師に相談することが大切です。

Q. 長く飲んでもよい漢方薬ですか?

長期服用では、甘草によるむくみ・血圧上昇・低カリウム血症、山梔子含有製剤による腸間膜静脈硬化症に注意が必要です。症状が改善しない場合や長く続ける場合は、専門家の確認を受けてください。

参考・出典

  • ツムラ「加味帰脾湯エキス顆粒(医療用)添付文書」
  • J-STAGE 日本東洋医学雑誌「帰脾湯及び加味帰脾湯の出典」
  • 漢方スクエア「加味帰脾湯(かみきひとう)」
  • PMDA「医療用医薬品 添付文書等情報検索」

加味帰脾湯が合うか迷った方へ

加味帰脾湯は、不眠、不安、疲労感、血色不良、胃腸の弱り、軽いほてりやイライラが重なる方に使われる漢方薬ですが、すべての不眠や不安に合うわけではありません。気血不足なのか、実証の緊張なのか、気滞なのか、陰虚のほてりなのかを見極めることが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。不眠、不安、動悸、貧血傾向、血色不良、疲労感は、うつ病、不安症、甲状腺疾患、心疾患、貧血、消化器疾患などが関係することがあります。強い不眠、不安、抑うつ、希死念慮、胸痛、強い動悸、息切れ、出血、重い貧血が疑われる場合は医療機関にご相談ください。服用後にむくみ、血圧上昇、急な体重増加、こむら返り、筋力低下、脱力感、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満、発疹、発赤、かゆみ、胃部不快感、悪心などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。