人参湯とは?胃腸虚弱・冷えによる下痢・嘔吐・胃痛に使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月10日 監修:堀口和彦
人参湯(にんじんとう)

人参湯(にんじんとう)は、『傷寒論』『金匱要略』に記される、冷えて弱った胃腸を内側から温めて立て直す漢方薬です。別名「理中丸(りちゅうがん)」とも呼ばれ、冷えて働きが落ちたお腹の中、つまり中焦を整える処方です。KanpoNowでは、この処方を「胃腸のストーブに火を入れ、冷えによる下痢・嘔吐・胃痛・腹痛を整える漢方薬」として整理します。

人参湯はこんな人に向いています
  • 体力が弱く、疲れやすい
  • 手足やお腹が冷えやすい
  • 冷たい飲み物やアイス、ビールでお腹を壊しやすい
  • 痛みが強くない、水のような下痢が出やすい
  • 胃もたれ、食欲不振、嘔吐、胃痛、腹痛が冷えで悪化する
  • 高齢者や虚弱体質で、慢性的に胃腸が弱い

反対に、臭いの強いベトベトした便、腹部膨満、熱感、口渇、便秘と下痢の反復、みぞおちのつかえとストレス性の胃腸症状が中心の場合は、半夏瀉心湯や別の処方を比較します。

人参湯とは

人参湯は、乾姜甘草蒼朮人参から構成される漢方薬です。

乾姜は、冷え切った胃腸の芯を温めます。人参は、弱った胃腸の気を補い、消化吸収の推進力を支えます。蒼朮は、胃腸にたまりやすい余分な水分をさばきます。甘草は、胃腸をいたわりながら全体を調和します。

ポイント:人参湯は、胃腸の冷えを温める処方です。水のような下痢、冷えて起こる腹痛、嘔吐、胃もたれに向きます。熱や湿熱がこもった下痢を温める処方ではありません。

古典における位置づけ

人参湯は、『傷寒論』『金匱要略』に記される処方です。古典では「理中丸」とも呼ばれ、「中」、つまり胃腸・脾胃の働きを「理(おさ)める」処方として扱われてきました。

胃腸は、食べ物や水分から気を作る工場です。この工場が冷え切ると、消化吸収が落ち、飲食物や水分を処理できず、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、胃もたれが出やすくなります。人参湯は、冷え切った胃腸を温め、弱った働きを立て直す処方です。

現代では、体力虚弱で、疲れやすく、手足やお腹が冷えやすい方の胃腸虚弱、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、急・慢性胃炎で比較されます。

人参湯らしさ:お腹が冷える。水のような下痢が出る。温めると楽。食欲が落ちる。胃腸が弱く、疲れやすい。この「脾胃の冷えと虚弱」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、人参湯が合う状態を、脾陽虚、脾胃虚寒として考えます。胃腸の温める力が落ちると、食べ物を消化して気を作る力が弱くなり、水分の吸収・代謝も止まりやすくなります。その結果、飲食物や水分が十分に処理されず、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、胃もたれが出ます。

  • 脾陽虚:胃腸を温める力が不足し、芯から冷えて働きが落ちる状態
  • 脾気虚:胃腸の気が不足し、食欲不振、疲れやすさ、胃もたれが出る状態
  • 水様下痢:水分を吸収・代謝できず、水のような便が出る状態
  • 中焦虚寒:お腹の中心が冷え、温めると楽になる胃腸症状が出る状態

乾姜は、冷え切った胃腸を深部から温めます。人参は、胃腸の気を補い、消化吸収の力を立て直します。蒼朮は、胃腸に停滞した湿をさばきます。甘草は、胃腸の緊張を和らげ、全体の働きを調和します。

そのため人参湯は、「中を温める」「気を補う」「湿をさばく」「胃腸を再起動する」という4つの方向を持つ処方です。

注意:血便、黒色便、高熱、激しい腹痛、脱水、強い嘔吐、意識がぼんやりする、急な体重減少を伴う胃腸症状では、人参湯で様子を見ず医療機関に相談してください。

構成生薬と配合バランス

人参湯は、4種類の生薬で構成されるシンプルな処方です。KanpoNow商品ページでは、乾姜、甘草、蒼朮、人参で構成されています。古典や製剤によっては白朮で説明されることがありますが、ここではKanpoNowの商品構成に合わせて蒼朮で統一します。

人参湯の構成を、乾姜25%、甘草25%、蒼朮25%、人参25%として合計100%で示した構成イメージです。 人参湯
乾姜25%
甘草25%
蒼朮25%
人参25%
人参湯の内部構造
冷えた胃腸を温め、気を補い、余分な水をさばく構成です。
温中散寒の軸 乾姜 冷え切った胃腸を芯から温め、水様下痢、腹痛、嘔吐、冷え腹を整えます。
補気健脾の軸 人参・甘草 弱った胃腸の気を補い、食欲不振、疲れやすさ、胃腸虚弱を支えます。
燥湿・調和の軸 蒼朮・甘草 胃腸に停滞した湿をさばき、処方全体を穏やかに調和します。

※円グラフは、人参湯の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:人参湯は、お腹の中が冷えて胃腸の働きが止まり、水のような下痢・嘔吐・胃痛・腹痛が出るタイプを、温めて立て直す処方です。

人参湯の味・香り・服用時の体感

人参湯は、人参と甘草の甘みのあとに、乾姜のピリッとした辛味を感じる処方です。蒼朮の薬草らしい香りもありますが、構成がシンプルなため、比較的味の方向性は分かりやすい漢方薬です。

甘みと辛味

人参・甘草の甘みに、乾姜のピリッとした辛味が重なります。

人参と乾姜の香り

人参の甘い香りと、乾姜のスパイシーな香り、蒼朮の薬草香があります。

淡黄褐色

製品により異なりますが、粉末・顆粒では淡い黄褐色に見えます。

お腹が温まる感覚

合う方では、白湯で飲むと胃のあたりがじんわり温まり、ゴロゴロ感や水様下痢が落ち着く感覚があります。

体験の流れ:甘みと辛味を感じる → 胃のあたりがじんわり温まる → お腹の冷えとゴロゴロ感がやわらぐ → 水のような下痢や嘔吐が落ち着く感覚。人参湯は、白湯で飲むと処方の温める方向と相性がよくなります。

症状別の向き・不向き

人参湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、冷え、虚弱、水様下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、温めると楽か、熱や湿熱があるかです。

冷たい飲食後の水様下痢

アイス、冷たい飲み物、ビールなどでお腹が冷え、水のような下痢が出るタイプに向きます。

判断ポイント:冷えで悪化し、水っぽい。

高齢者・虚弱者の慢性下痢

体力が弱く、お腹が冷えやすく、痛みは強くないのに下痢が続くタイプで比較します。

判断ポイント:脾陽虚と慢性化。

冷えによる胃痛・腹痛・嘔吐

温めると楽になり、冷えると胃痛・腹痛・吐き気が出やすいタイプに向きます。

判断ポイント:温めると楽か。

胃腸虚弱・胃もたれ

胃腸が疲れやすく、少し食べると胃が重い、食欲が落ちるタイプで比較します。

判断ポイント:胃腸の気が不足している。
×

みぞおちがつかえ、ストレスでゴロゴロ鳴る下痢

上熱下寒や寒熱錯雑の胃腸症状では、温めるだけの人参湯より半夏瀉心湯を比較します。

判断ポイント:みぞおちのつかえと胃の熱。
×

臭いが強いベトベト便・湿熱下痢

熱や老廃物がこもった湿熱タイプでは、人参湯で温めると悪化することがあります。

判断ポイント:冷えの下痢か、熱の下痢か。

体質別の向き・不向き

人参湯は、脾陽虚、脾気虚、脾胃虚寒が中心のタイプに向きます。熱がこもった実熱・湿熱タイプを冷ます処方ではありません。

脾陽虚タイプ

お腹が芯から冷え、胃腸の働きが落ち、水様下痢や嘔吐が出やすいタイプです。

判断ポイント:胃腸のストーブが消えている。

脾気虚タイプ

食欲がない、疲れやすい、胃もたれしやすい、消化吸収が弱いタイプです。

判断ポイント:気を作る力が弱い。

虚寒の胃腸タイプ

冷えると胃痛・腹痛・下痢が出て、温めると楽になるタイプです。

判断ポイント:冷えと虚弱が主役。

陰虚・のぼせタイプ

乾姜で温めるため、ほてり、口渇、寝汗、のぼせが強い方では慎重に考えます。

判断ポイント:温めてよい体か。
×

実熱・湿熱タイプ

腹部膨満、臭い便、便秘、口渇、熱感が中心の場合は、温め補う方向とは異なります。

判断ポイント:熱と老廃物を助長しない。

効能・効果

人参湯の効能・効果は、代表的には次のように整理できます。

体力虚弱で、疲れやすくて手足などが冷えやすいものの次の諸症:胃腸虚弱、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛、急・慢性胃炎

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

人参湯は、冷えて弱った胃腸を温める処方ですが、甘草を含むため、長期連用や他の漢方薬との併用では注意が必要です。また、下痢・嘔吐では脱水や感染症の見極めも大切です。

甘草による偽アルドステロン症への注意

甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感などに注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

熱や湿熱の下痢には注意

人参湯は、冷えを温める処方です。発熱、強い腹痛、臭いの強い便、血便、便に膿や粘液が混じる、強い口渇がある場合は、温めて様子を見るのではなく医療機関に相談してください。

飲食の指導

冷えが原因の胃腸症状では、生野菜、刺身、冷たい飲み物、アイス、ビールなどを避け、火を通した温かいものを少量ずつ摂ることが大切です。白湯や温かいお茶を一口ずつ飲むようにします。

下痢・胃腸炎時の食事

下痢や嘔吐が強い時は、無理に食べるより胃腸を休ませることが大切です。脱水を避けるために少量ずつ水分をとり、回復期にはお粥、うどん、スープなど消化のよい温かいものから戻します。

妊娠中・授乳中・小児・高齢者

妊娠中または妊娠している可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、医師の治療を受けている方、持病や併用薬がある方は、自己判断で服用せず専門家に相談してください。

相談・受診を優先したいサイン

  • 血便、黒色便、膿や粘液の混じる便がある
  • 高熱、激しい腹痛、強い嘔吐がある
  • 尿が少ない、口が強く渇く、ぐったりするなど脱水が疑われる
  • 下痢や嘔吐が続き、食事や水分がとれない
  • 急な体重減少、強い胃痛、飲み込みにくさがある
  • 服用後に発疹・発赤・かゆみ、胃部不快感、悪心、下痢が出る
  • むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下が出る
すぐ相談:下痢や嘔吐でも、高熱、血便、黒色便、激しい腹痛、脱水、強い嘔吐がある場合は、人参湯で様子を見ず医療機関に相談してください。

症状から理解を深める

人参湯が気になる方は、下痢、胃もたれ、腹痛、冷え、食欲不振との関係を確認すると理解が深まります。

胃腸の漢方薬でも、冷えが中心か、ストレスとみぞおちのつかえが中心か、胃腸虚弱と痰湿が中心か、激しい冷え腹が中心かで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 人参湯はどんな下痢に向いていますか?

お腹が冷え、温めると楽で、水のような下痢が出るタイプに向きます。冷たい飲食後の下痢や、高齢者・虚弱者の慢性下痢で比較します。

Q. 半夏瀉心湯との違いは何ですか?

人参湯は、胃腸全体が冷えて弱った虚寒タイプに向きます。半夏瀉心湯は、みぞおちのつかえ、腹鳴、軟便・下痢、胃の熱と腸の冷えが混ざった寒熱錯雑タイプで比較します。

Q. 胃もたれにも使えますか?

冷えと胃腸虚弱を背景にした胃もたれでは比較されます。食べすぎ、熱感、胸やけ、口臭、臭い便などが強い場合は、温める人参湯とは方向が異なることがあります。

Q. 白湯で飲んだ方がよいですか?

冷えによる胃腸症状では、白湯での服用が処方の方向と合います。冷水で飲むより、ぬるめの白湯で飲む方が、お腹を冷やしにくくなります。

Q. 甘草の副作用は心配ですか?

甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、脱力感には注意します。高血圧、心臓病、腎臓病がある方や、他の漢方薬との併用では専門家に相談してください。

参考・出典

人参湯が合うか迷った方へ

人参湯は、冷えによる胃腸虚弱、下痢、嘔吐、胃痛、腹痛に使われる漢方薬ですが、すべての胃腸症状に合うわけではありません。冷えた虚寒タイプなのか、熱や湿熱がこもるタイプなのか、みぞおちのつかえが中心なのかを見極めることが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。血便、黒色便、高熱、激しい腹痛、脱水、強い嘔吐、急な体重減少、強い胃痛がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後に発疹・発赤・かゆみ、胃部不快感、悪心、下痢、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。