人参養栄湯とは?病後・術後の体力低下・疲労倦怠・食欲不振に使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月10日 監修:堀口和彦

人参養栄湯(にんじんようえいとう)は、病後・術後、加齢、過労などで気と血が消耗し、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血などが出る方に用いられる漢方薬です。十全大補湯と同じく気血を補う処方ですが、人参養栄湯は、胃腸、呼吸器、精神面の虚弱にも配慮した構成です。KanpoNowでは、この処方を「弱り切った胃腸を動かしながら、全身に栄養を届け、心身の回復力を養う漢方薬」として整理します。

人参養栄湯はこんな人に向いています
  • 病後・術後・産後などで体力が大きく落ちている
  • 疲れやすく、少し動いただけで息切れする
  • 食欲がなく、食べても力になりにくい
  • 手足が冷え、顔色が悪く、貧血傾向がある
  • 寝汗がある、長引く咳がある、体力の漏れを感じる
  • 疲れているのに眠れない、不安感、物忘れが気になる

反対に、体力があり、便秘、のぼせ、口渇、赤ら顔、炎症、熱感、湿疹悪化などが中心の実熱・湿熱タイプでは、補い温める人参養栄湯は慎重に考えます。

人参養栄湯とは

人参養栄湯は、地黄当帰白朮茯苓人参桂皮遠志芍薬陳皮黄耆甘草五味子から構成される漢方薬です。

人参・黄耆・白朮・茯苓・甘草は気を補い、胃腸の働きを助けます。当帰・地黄・芍薬は血を補い、体を潤し養います。桂皮は体を温め、陳皮は胃腸の動きを助け、遠志は精神面を支え、五味子は汗や咳などの漏れを引き締めます。

ポイント:人参養栄湯は、単に元気を出す処方ではありません。気と血を補いながら、胃腸・呼吸器・精神面まで含めて、消耗した体を回復方向へ導く処方です。

古典における位置づけ

人参養栄湯は、中国宋代に編纂された『和剤局方』を出典とする処方です。名前は、人参を中心に、全身の栄養である「営・栄」を養う、つまり体のすみずみに栄養を行き渡らせることに由来します。

古典的には、病後や長い消耗のあとに、気と血が不足し、食欲不振、疲労、冷え、寝汗、咳、不眠、不安感などが出る状態を考えます。十全大補湯と同じく気血を補う処方ですが、人参養栄湯は、胃腸を動かす陳皮、精神を支える遠志、汗や咳を引き締める五味子を含む点が特徴です。

現代では、病後・術後などの体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血、フレイル傾向の虚弱、疲労に伴う不眠や不安感で比較されます。

人参養栄湯らしさ:疲れ切っている。食べられない。食べても力にならない。冷える。寝汗がある。咳が長引く。疲れているのに眠れない。この「気血両虚+胃腸・心肺の弱り」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、人参養栄湯が合う状態を、気血両虚、脾気虚、心血虚、肺気虚が重なった状態として考えます。病気、老化、過労、産後、術後などで体力が落ちると、体を動かす気と、体を養う血が同時に不足します。

  • 気虚:体を動かす力が足りず、疲れやすい、息切れする、食欲がない状態
  • 血虚:全身を養う血が不足し、冷え、貧血傾向、不眠、不安感が出やすい状態
  • 脾気虚:胃腸が弱り、食べても気血を作れない状態
  • 心血虚:心を養う血が不足し、眠りが浅い、不安、物忘れが出やすい状態
  • 肺気虚:呼吸器や皮膚の守りが弱り、咳、息切れ、寝汗が出やすい状態

人参・黄耆・白朮・茯苓・甘草は、胃腸を立て直して気を補います。当帰・地黄・芍薬は、血を補い、体と心を養います。桂皮は冷えを温め、陳皮は胃の動きを助けて、補う生薬によるもたれを防ぎます。遠志は心を安定させ、五味子は寝汗や咳など、漏れ出る力を引き締めます。

そのため人参養栄湯は、「気を補う」「血を補う」「胃腸を動かす」「心を安らげる」「肺と皮膚の漏れを引き締める」という複合的な方向を持つ処方です。

注意:急な体重減少、発熱が続く、血痰、息苦しさ、強い胸痛、強い貧血症状、黒色便、不正出血などがある場合は、人参養栄湯で様子を見ず医療機関に相談してください。

構成生薬と配合バランス

人参養栄湯は、12種類の生薬で構成される補益処方です。ツムラ一般用製品では、地黄・当帰・白朮・茯苓各2.0g、人参1.5g、桂皮1.25g、遠志・芍薬・陳皮各1.0g、黄耆0.75g、甘草・五味子各0.5gから抽出したエキスを含む構成が示されています。構成理解用の円グラフでは、地黄・当帰・白朮・茯苓を各13%、人参10%、桂皮8%、遠志・芍薬・陳皮を各7%、黄耆5%、甘草・五味子を各3%として合計100%に整理しています。

人参養栄湯の構成を、地黄13%、当帰13%、白朮13%、茯苓13%、人参10%、桂皮8%、遠志7%、芍薬7%、陳皮7%、黄耆5%、甘草3%、五味子3%として合計100%で示した構成イメージです。 人参養栄湯
地黄13%
当帰13%
白朮13%
茯苓13%
人参10%
桂皮8%
遠志7%
芍薬7%
陳皮7%
黄耆5%
甘草3%
五味子3%
人参養栄湯の内部構造
気血を補い、胃腸・心・肺を支え、消耗した体を養う構成です。
補気健脾の軸 人参・黄耆・白朮・茯苓・甘草 胃腸を助け、気を補い、疲労倦怠、食欲不振、息切れ、体力低下を支えます。
補血滋潤の軸 当帰・地黄・芍薬 血を補い、貧血傾向、冷え、顔色の悪さ、心身の回復の遅さを整えます。
安神・収斂・理気の軸 遠志・五味子・陳皮・桂皮 心を安らげ、汗や咳などの漏れを引き締め、胃腸の動きと温まりを助けます。

※円グラフは、人参養栄湯の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:人参養栄湯は、病後・術後・加齢・過労で気血が枯れ、食べる力も眠る力も回復する力も落ちた方を、内側から養う処方です。

人参養栄湯の味・香り・服用時の体感

人参養栄湯は、人参・甘草の甘みに、陳皮の柑橘系の香り、五味子のわずかな酸味、桂皮の温かいスパイス感、当帰・地黄の重みが重なる処方です。補益薬の中では比較的甘く、香りも温かみがあります。

甘み・酸味・温かい辛味

人参・甘草の甘み、五味子の酸味、桂皮のスパイス感が重なります。

桂皮と陳皮の香り

シナモン様の桂皮、柑橘系の陳皮、人参の甘い香りが立ち上がります。

淡褐色〜褐色

製品により異なりますが、粉末・顆粒では淡褐色から褐色に見えます。

じわじわ力が戻る感覚

合う方では、食欲が少しずつ戻り、疲労感が軽くなり、眠りや不安感が整う感覚があります。

体験の流れ:甘みと温かい香りを感じる → 胃腸が少しずつ動く → 食欲が戻る → 体の重さが軽くなる → 疲れているのに眠れない状態が、自然な眠りへ向かう感覚。人参養栄湯は、急に押し上げるより、消耗した体をじわじわ養う処方です。

症状別の向き・不向き

人参養栄湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、体力低下、疲労倦怠、食欲不振、冷え、貧血傾向、寝汗、咳、不眠・不安感、胃腸が受け止められるかです。

病後・術後・産後の体力低下

大きく消耗し、疲労倦怠、食欲不振、冷え、貧血傾向が重なるタイプに向きます。

判断ポイント:気血が両方不足している。

疲労に伴う不眠・不安感・物忘れ

疲れているのに眠れない、精神的に不安定、集中力や記憶力が落ちたタイプで比較します。

判断ポイント:心血虚・心気虚を伴う。

食欲不振・フレイル傾向

食べる力が落ち、動く力も落ち、体力を回復する材料を作れないタイプに向きます。

判断ポイント:胃腸から気血を作れない。

長引く咳・寝汗

体力低下に伴い、寝汗が出る、咳が長引く、息切れしやすい場合に比較します。

判断ポイント:肺気虚と漏れを伴う。
×

実熱・湿熱タイプ

便秘、のぼせ、口渇、赤み、熱感、炎症、臭いの強い便があるタイプには不向きです。

判断ポイント:補うと熱を助長しないか。
×

急な強い症状・原因不明の消耗

急な体重減少、発熱、血痰、黒色便、強い貧血症状などがある場合は受診が優先です。

判断ポイント:隠れた病気を見逃さない。

体質別の向き・不向き

人参養栄湯は、気虚、血虚、脾気虚、心血虚、肺気虚が重なる、消耗の深いタイプに向きます。体力があり、熱や老廃物が余っているタイプに使う処方ではありません。

気血両虚タイプ

気力・体力がなく、血色が悪く、疲れやすく、手足が冷えるタイプです。

判断ポイント:エネルギーと栄養が両方足りない。

脾気虚・胃腸虚弱タイプ

食欲が落ち、食べても力にならず、疲労回復が遅いタイプです。

判断ポイント:気血を作る胃腸が弱っている。

心血虚・心気虚タイプ

疲れているのに眠れない、不安感、物忘れ、精神的な消耗があるタイプです。

判断ポイント:心を養う血が不足している。

胃腸が極端に弱く下痢しやすいタイプ

陳皮で胃腸に配慮していますが、地黄・当帰などが胃に重く感じられることがあります。

判断ポイント:補剤を消化できるか。
×

実熱・湿熱タイプ

体力があり、熱感、便秘、炎症、口渇、赤み、老廃物の停滞が中心の場合には不向きです。

判断ポイント:足りないのか、余っているのか。

効能・効果

人参養栄湯の効能・効果は、代表的には次のように整理できます。

体力虚弱なものの次の諸症:病後・術後などの体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

人参養栄湯は、体力低下や気血両虚を補う処方ですが、甘草、地黄、当帰、遠志、五味子などを含むため、胃腸虚弱、持病、併用薬がある方では注意が必要です。ツムラ医療用添付文書では、偽アルドステロン症、ミオパチー、肝機能障害・黄疸、過敏症、消化器症状への注意が示されています。

甘草による偽アルドステロン症への注意

甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感などに注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

胃腸虚弱への注意

胃腸が弱り下痢しやすい方は、服用前に専門家に相談してください。服用後に胃部不快感、食欲不振、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などが出る場合は、服用を中止して相談します。

肝機能障害・黄疸への注意

発熱、かゆみ、発疹、黄疸、褐色尿、全身のだるさ、食欲不振などが出た場合は、肝機能障害の可能性もあるため、服用を中止して医療機関に相談してください。

補中益気湯・十全大補湯との鑑別

補中益気湯は、疲労倦怠感、胃下垂、内臓下垂、声に力がないなど、気虚と下垂が中心です。十全大補湯は、気血両虚をしっかり補いますが、地黄などで胃にもたれる方もいます。人参養栄湯は、気血両虚に加えて、胃腸の弱さ、不眠・不安感、寝汗、長引く咳が目立つ場合に比較します。

消化力に見合った食事

体力をつけるために、焼肉やうなぎなど重い食事を無理に食べると、弱った胃腸には負担になります。お腹が空いたと感じてから、お粥、うどん、スープ、煮物など、温かく消化のよいものを少量ずつ、よく噛んで食べます。

睡眠で血を補う

血虚や心血虚がある方では、夜更かしがさらに血を消耗します。疲れているのに眠れない、不安感がある場合ほど、スマホやパソコンを早めに閉じ、日付が変わる前の就寝を意識します。

相談・受診を優先したいサイン

  • 急な体重減少、発熱が続く、強い寝汗が続く
  • 血痰、息苦しさ、胸痛、強い咳が長引く
  • 黒色便、血便、不正出血、強い貧血症状がある
  • 食欲不振が続き、水分も食事もとれない
  • 服用後に発疹・発赤・かゆみ、発熱、褐色尿、黄疸が出る
  • 胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢が出る
  • むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下が出る
すぐ相談:体力低下や寝汗でも、感染症、がん、消化管出血、心肺疾患、重い貧血が隠れていることがあります。急な体重減少、発熱、血痰、黒色便、強い息切れがある場合は、人参養栄湯で様子を見ず医療機関に相談してください。

症状から理解を深める

人参養栄湯が気になる方は、疲労、食欲不振、不眠、不安、冷えとの関係を確認すると理解が深まります。

補剤にも種類があります。気を補うのか、気血を補うのか、胃腸が受け止められるか、不眠・不安・咳・寝汗を伴うかで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 人参養栄湯はどんな疲れに向いていますか?

病後・術後・加齢・過労などで体力が落ち、疲労倦怠、食欲不振、手足の冷え、貧血傾向、寝汗などが重なるタイプに向きます。単なる一時的な疲れより、消耗が深い状態で比較します。

Q. 補中益気湯との違いは何ですか?

補中益気湯は、気虚と下垂、疲労倦怠が中心です。人参養栄湯は、気虚だけでなく血虚もあり、食欲不振、冷え、貧血傾向、寝汗、不眠・不安感、長引く咳などを伴う場合に比較します。

Q. 十全大補湯との違いは何ですか?

どちらも気血を補う処方です。十全大補湯は気血両虚をしっかり補いますが、胃腸が弱い方には重く感じることがあります。人参養栄湯は、陳皮や遠志、五味子を含み、胃腸・精神・呼吸器の虚弱にも配慮した処方です。

Q. 不眠や不安感にも使えますか?

疲労や血虚に伴い、眠りが浅い、不安感がある、物忘れが気になるタイプで比較されます。ただし、強い焦燥、うつ症状、希死念慮、パニック発作がある場合は医療機関への相談が必要です。

Q. 胃腸が弱くても飲めますか?

人参養栄湯は胃腸に配慮した補剤ですが、地黄や当帰を含むため、人によっては胃部不快感や下痢が出ることがあります。胃腸が弱く下痢しやすい方は専門家に相談してください。

参考・出典

人参養栄湯が合うか迷った方へ

人参養栄湯は、病後・術後などの体力低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血に使われる漢方薬ですが、すべての疲労に合うわけではありません。気血両虚なのか、気虚だけなのか、胃腸が受け止められるか、熱や湿熱がここもっていないかまで含めて判断することが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。急な体重減少、発熱が続く、血痰、息苦しさ、胸痛、黒色便、血便、不正出血、強い貧血症状がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後に発疹・発赤・かゆみ、発熱、黄疸、褐色尿、胃部不快感、食欲不振、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

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堀口和彦(漢方薬剤師) 監修:堀口 和彦(漢方薬剤師)

執筆: KanpoNow編集部

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