猪苓湯とは?排尿痛・残尿感・血尿・膀胱炎後の違和感に使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月9日 監修:堀口和彦
猪苓湯(ちょれいとう)

猪苓湯(ちょれいとう)は、『傷寒論』『金匱要略』に記される、排尿トラブルの代表的な漢方薬です。尿が出にくい、排尿時にしみる、残尿感がある、血尿が気になる、口が渇く、といった状態で比較されます。KanpoNowでは、この処方を「尿路にこもった熱と水の滞りを尿で流しながら、阿膠で粘膜の潤いと修復を支える漢方薬」として整理します。

猪苓湯はこんな人に向いています
  • 排尿時にジリジリ・ツーンとしみる痛みがある
  • トイレに行っても出し切れない残尿感が残る
  • 血尿を伴う、または尿路粘膜が傷ついた感じがある
  • 口が渇くのに、尿がすっきり出ない
  • 膀胱炎の治りかけに、違和感や残尿感だけが残る

反対に、冷えによる夜間頻尿、足腰の冷え、尿漏れ、強い寒がりが中心の場合は、猪苓湯より八味地黄丸料や牛車腎気丸などを比較します。発熱、背部痛、強い血尿、激しい排尿痛がある場合は受診を優先してください。

猪苓湯とは

猪苓湯は、滑石沢瀉猪苓茯苓阿膠から構成される漢方薬です。

猪苓・沢瀉・茯苓は、尿の通りを整え、体内に停滞した水を尿の方向へ導きます。滑石は、尿路にこもった熱を冷まし、排尿時の痛みやしみる感じをやわらげます。阿膠は、他の利水系処方には少ない特徴で、尿路粘膜の乾きや傷つきを潤し、血尿や違和感の背景を支えます。

ポイント:猪苓湯は、ただ尿を出すだけの処方ではありません。尿路の熱を洗い流しながら、阿膠で粘膜を潤して守る点が大きな特徴です。

古典における位置づけ

猪苓湯は、中国古典『傷寒論』および『金匱要略』に記される処方です。名前は、主薬である猪苓に由来します。猪苓はキノコの菌核を用いる生薬で、古くから利水、つまり水の通りを整える目的で用いられてきました。

古典的には、体の内側に熱があり、同時に水の通りが悪く、口が渇くのに尿が出にくい状態、いわゆる水熱互結のような病態を考えます。尿路に熱がこもると、排尿痛、残尿感、血尿、頻尿、尿が渋る感じが出やすくなります。

現代では、膀胱炎や尿道炎の後に残る違和感、排尿痛、残尿感、血尿、尿路結石に伴う痛みや血尿などで比較されます。ただし、発熱や背部痛を伴う場合は、腎盂腎炎などの医療対応が必要な状態もあるため、漢方だけで様子を見るべきではありません。

猪苓湯らしさ:口は渇く。尿はすっきり出ない。排尿時にしみる。出した後も残る。血尿や粘膜の傷つき感がある。この「尿路の熱+水の停滞+潤い不足」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、猪苓湯が合う状態を、陰虚を背景に、下焦、つまり膀胱や尿道などの尿路に熱と水の停滞が絡んだ状態として考えます。下焦に熱がこもると、尿路粘膜が刺激され、排尿痛、残尿感、頻尿、血尿が起こりやすくなります。

  • 陰虚:体の潤いが不足し、粘膜が乾きやすく、熱や刺激に弱くなる状態
  • 下焦湿熱:尿路に湿と熱がこもり、排尿痛、残尿感、頻尿、血尿を生む状態
  • 水熱互結:口が渇くのに尿が出にくい、熱と水の停滞が絡んだ状態
  • 通淋:尿の通りをよくし、尿路の熱や刺激を洗い流す考え方

猪苓・沢瀉・茯苓は、尿の通りを助け、尿路に停滞した水を外へ導きます。滑石は、熱を冷ましながら尿の流れを滑らかにし、しみるような痛みに配慮します。阿膠は、利水によって乾きすぎないように粘膜を潤し、血尿や粘膜の傷つきに関わる部分を支えます。

そのため猪苓湯は、「尿を通す」「尿路の熱を冷ます」「粘膜を潤して守る」という3方向を持つ処方です。

注意:高熱、背部痛、悪寒、吐き気、強い血尿、尿が出ない、激しい排尿痛がある場合は、腎盂腎炎、尿路結石、重い尿路感染症なども考えます。猪苓湯で様子を見ず、泌尿器科など医療機関に相談してください。

構成生薬と配合バランス

猪苓湯は、5種類の生薬で構成されます。医療用エキス製剤では、猪苓、茯苓、滑石、沢瀉、阿膠が同量で配合される構成が代表的です。比率としては、5味がそれぞれ20%ずつのシンプルな構造です。

猪苓湯の構成を、滑石20%、沢瀉20%、猪苓20%、茯苓20%、阿膠20%として合計100%で示した構成イメージです。 猪苓湯
滑石20%
沢瀉20%
猪苓20%
茯苓20%
阿膠20%
猪苓湯の内部構造
尿を通し、尿路の熱を冷まし、阿膠で粘膜の潤いを守る構成です。
利水通淋の軸 猪苓・沢瀉・茯苓 尿の通りを整え、尿路に停滞した水と熱を尿として外へ導きます。
清熱・滑潤の軸 滑石 尿路にこもった熱を冷まし、しみる痛みや尿の渋りをなめらかにします。
滋陰・止血の軸 阿膠 粘膜を潤し、血尿や傷ついた尿路粘膜の回復を支える方向です。

※円グラフは、猪苓湯の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:猪苓湯は、排尿痛・残尿感・血尿を、尿路の熱と水の停滞、そして粘膜の乾きから整える処方です。

猪苓湯の味・香り・服用時の体感

猪苓湯は、強い苦味や香りが前面に出る処方ではありません。滑石の粉っぽさ、猪苓・沢瀉・茯苓の淡い味、阿膠のゼラチン質に由来するわずかなコクや粘りが重なり、漢方薬の中では比較的クセが少ない部類です。

淡い味と粉っぽさ

滑石の粉っぽさ、利水生薬の淡い味、阿膠のわずかな甘みやコクを感じます。

強い香りは少ない

特有の強い芳香は少なく、土のような淡い香りと阿膠由来のわずかな匂いがあります。

淡褐色〜白褐色

製品により異なりますが、粉末・顆粒では淡い褐色から白褐色寄りに見えます。

尿の通りが整う感覚

合う方では、排尿終わりのジリジリ感や残尿感が少しずつ軽くなる感覚があります。

体験の流れ:淡い粉っぽさを感じる → 尿の出方が少しなめらかになる → 排尿後の残る感じが軽くなる → しみる痛みや違和感が落ち着く感覚。猪苓湯は、強く下す処方ではなく、尿路の熱を水で流しながら粘膜を守る処方です。

症状別の向き・不向き

猪苓湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、排尿痛、残尿感、血尿、口渇、尿量減少、むくみ、発熱、背部痛、冷えの有無です。

膀胱炎の治りかけの残尿感・違和感

抗菌薬などで急性症状は落ち着いたものの、排尿時の違和感や残尿感が残る場合に比較します。

判断ポイント:熱のピーク後に粘膜の違和感が残る。

血尿を伴う排尿痛

尿路粘膜が熱で傷つき、血尿やしみる痛みを伴う場合に、阿膠の潤し守る特徴を見ます。

判断ポイント:排尿痛+血尿+口渇。

口渇があり、尿がすっきり出ない

口は渇くのに尿が出にくい、むくむ、尿の通りが悪い場合に、水熱互結として比較します。

判断ポイント:水を飲みたいのに尿が渋る.

尿路結石に伴う血尿・排尿違和感

尿路結石に伴う血尿、排尿時の刺激感、尿の渋りで比較されることがあります。ただし強い痛みは受診を優先します。

判断ポイント:強い疝痛や発熱は医療機関へ。
×

急性膀胱炎のピーク・強い実熱

尿が濃く濁り、熱感と痛みが非常に強い場合は、五淋散や竜胆瀉肝湯との鑑別、受診判断が必要です。

判断ポイント:炎症が強すぎる時は自己判断しない。
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冷えによる夜間頻尿・足腰の冷え

高齢者の夜間頻尿、腰から下の冷え、足腰の弱りが中心の場合は、八味地黄丸料や牛車腎気丸を比較します。

判断ポイント:熱か冷えかを見分ける。

体質別の向き・不向き

猪苓湯は、陰虚と下焦湿熱が重なるタイプに向きます。利水薬だけで構成されるのではなく、阿膠が入ることで、尿を出しながら潤いを守る処方になっています。

陰虚+湿熱タイプ

口渇、尿の渋り、排尿痛、血尿があり、潤い不足と尿路の熱が同時にあるタイプです。

判断ポイント:乾きと尿路の熱が同時にある。

下焦湿熱タイプ

膀胱・尿道まわりに熱と湿がこもり、尿がしみる、近い、出し切れないタイプです。

判断ポイント:排尿時の熱感・痛み。

粘膜が傷つきやすいタイプ

血尿、乾燥、粘膜の弱さがあり、阿膠の滋陰・止血の方向が合う場合に比較します。

判断ポイント:血尿や粘膜の傷つき感。

胃腸虚弱・湿が多いタイプ

阿膠は粘性があり、胃腸が弱い方では胃もたれや胃部不快感につながることがあります。

判断ポイント:胃が重くならないか。
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陽虚・寒冷タイプ

冷え、夜間尿、尿漏れ、足腰の弱りが中心の方には方向が異なります。

判断ポイント:冷え頻尿なら補腎温陽系を比較。

効能・効果

猪苓湯の効能・効果は製品により表現が異なる場合がありますが、代表的には次のように整理できます。

尿量減少、小便難、口渇を訴えるものの次の諸症:尿道炎、腎臓炎、腎石症、淋炎、排尿痛、血尿、腰以下の浮腫、残尿感、下痢

※一般用製品では「体力に関わらず使用でき、排尿異常があり、ときに口が渇くものの次の諸症:排尿困難、排尿痛、残尿感、頻尿、むくみ」などと表現される場合があります。実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

猪苓湯は、排尿痛、残尿感、血尿、むくみなどで比較される処方ですが、尿路感染症や腎盂腎炎、尿路結石など、医療機関での確認が必要な状態を見逃さないことが重要です。

発熱・背部痛・強い血尿は受診優先

発熱、悪寒、背中や腰の痛み、吐き気、強い血尿、強い排尿痛、尿が出ない場合は、腎盂腎炎、尿路結石、重い尿路感染症などの可能性があります。猪苓湯で様子を見るのではなく、医療機関に相談してください。

五苓散との鑑別

五苓散も「口が渇くのに尿が少ない」状態で使われますが、五苓散はむくみ、めまい、吐き気、下痢、頭痛など全身の水分代謝の偏りを見ます。猪苓湯は、排尿痛、残尿感、血尿など、尿路粘膜の熱と刺激がはっきりしている場合に比較します。

五淋散・竜胆瀉肝湯との鑑別

尿路の熱や湿が強く、尿の濁り、強い痛み、下腹部の熱感が目立つ場合は、五淋散や竜胆瀉肝湯との鑑別が必要です。体力があり、湿熱が強い急性炎症では、猪苓湯だけで考えない方が安全です。

妊娠中・授乳中・小児・高齢者

妊娠中または妊娠している可能性がある方、授乳中の方、小児、高齢者、持病のある方、医師の治療を受けている方は、自己判断で服用せず、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。高齢者では一般に生理機能が低下しているため、用量や継続に注意します。

水分補給と食事の注意

膀胱炎や尿道炎のような尿路の炎症では、水分をこまめに摂り、尿を出して洗い流すことが大切です。ただし、一度に大量に飲むのではなく、こまめに摂取します。アルコール、辛いもの、脂っこいもの、甘いものは炎症や尿路刺激を悪化させることがあるため、症状がある間は控えます。

相談・受診を優先したいサイン

  • 発熱、悪寒、背中や腰の痛みがある
  • 強い血尿、尿が出ない、激しい排尿痛がある
  • 吐き気、ぐったり感、強い下腹部痛を伴う
  • 排尿痛や残尿感を繰り返す
  • 妊娠中、妊娠の可能性がある、授乳中
  • 小児、高齢者、腎臓病、糖尿病、免疫低下がある
  • 服用後に発疹、発赤、かゆみ、胃部不快感が出る
すぐ相談:発熱、背部痛、強い血尿、尿が出ない、強い排尿痛、吐き気を伴う場合は、猪苓湯で様子を見ず泌尿器科など医療機関に相談してください。

症状から理解を深める

猪苓湯が気になる方は、口の渇き、むくみ、腹痛、冷え、症状一覧から関連症状を確認すると理解が深まります。

排尿痛や頻尿に使う漢方薬でも、湿熱が強いのか、粘膜の乾きがあるのか、水滞が主役なのか、冷えと腎虚が主役なのかで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 猪苓湯は膀胱炎に使えますか?

排尿痛、残尿感、頻尿、血尿、口渇があり、尿路粘膜に熱と刺激が残るような場合に比較されます。ただし発熱、背部痛、強い血尿、強い痛みがある場合は、医療機関での確認を優先してください。

Q. 五苓散との違いは何ですか?

五苓散は全身の水分代謝の偏り、むくみ、めまい、吐き気、下痢などを見ます。猪苓湯は、排尿痛、残尿感、血尿など、尿路の熱と粘膜の傷つきが目立つ場合に比較します。

Q. 五淋散との違いは何ですか?

五淋散は尿路の湿熱が強く、尿のにごり、強い熱感、排尿後のジーンとした不快感がある場合に比較します。猪苓湯は、口渇や血尿、粘膜の乾きや傷つきが目立つ場合に特徴が出ます。

Q. 血尿があっても飲んでよいですか?

血尿は原因確認が重要です。猪苓湯には阿膠が含まれ、血尿を伴う排尿痛で比較されることがありますが、強い血尿、痛み、発熱、背部痛がある場合は必ず医療機関に相談してください。

Q. 冷えによる夜間頻尿にも使えますか?

冷え、足腰の弱り、夜間尿、尿漏れが中心なら、猪苓湯より八味地黄丸料や牛車腎気丸などを比較します。猪苓湯は、尿路の熱やしみる痛み、口渇、血尿が目立つタイプに寄ります。

参考・出典

猪苓湯が合うか迷った方へ

猪苓湯は、排尿痛、残尿感、血尿、頻尿、むくみ、口渇に使われる漢方薬ですが、すべての尿トラブルに合うわけではありません。尿路の熱なのか、全身の水滞なのか、冷えと腎虚なのか、医療機関での確認が必要な感染症・結石なのかを見極めることが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。発熱、悪寒、背部痛、強い血尿、尿が出ない、激しい排尿痛、吐き気、強い下腹部痛、症状の反復がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後に発疹・発赤・かゆみ、胃部不快感などがある場合も、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、腎臓病、糖尿病、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。