温経湯とは?月経不順・更年期・冷えのぼせに使う漢方薬

温経湯(うんけいとう)は、古典『金匱要略』婦人雑病篇に記載される処方で、「経(けいらく)を温め、血の巡りを整える」ことを中心に組み立てられた婦人科の代表処方です。下腹部は冷えているのに、手足はほてり、唇がカサカサに乾く、という一見ちぐはぐな状態に向きます。KanpoNowでは、この処方を「下腹部の冷えと、手足のほてり・唇の乾燥が同時にある、月経不順・更年期の漢方薬」として整理します。
- 足腰は冷えるのに、手足がほてり、唇や口がかわく
- 生理の後半〜終了後に、お腹がシクシク痛む・だるい
- 月経不順・月経困難・おりものの悩みがある
- 更年期の冷えのぼせ、乾燥肌・手あれがある
- 体力は中等度以下で、血と潤いが不足しているタイプ
反対に、便秘が強くがっちり体型で、のぼせが激しい実証の瘀血タイプ、体に熱とヘドロ(湿熱)がこもり炎症が強いタイプには向きません。胃腸が極端に弱い方は、当帰・阿膠などの重い生薬で胃もたれや下痢が出ることがあります。
温経湯とは
温経湯は、麦門冬、半夏、当帰、甘草、桂皮、芍薬、川芎、人参、牡丹皮、呉茱萸、生姜、阿膠の12種類の生薬から構成される漢方薬です。温める・潤す・血を巡らせるという複数の方向を、絶妙なバランスでまとめているのが特徴です。代表的には、体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわく方の、月経不順、月経困難、こしけ(おりもの)、更年期障害、足腰の冷えなどに用いられます。
「婦人科の漢方」として知られていますが、漢方薬剤師の視点では、より正確には「下半身は冷えているのに、上半身や手足はほてり、潤いが不足して乾く」という、冷えとほてりが同居する複雑な状態に向く処方です。症状名だけでなく、下腹部の冷え、手足のほてり、唇や口の乾燥が重なっているかを確認して選ぶことが大切です。
古典における温経湯の位置づけ
温経湯は、古典『金匱要略』婦人雑病篇に登場する処方です。古典では、50歳前後の女性で、不正出血がダラダラと続き、夕方になると微熱が出出て、下腹部が突っ張って張り、手のひらが熱くほてり、唇がカサカサに乾燥する状態に用いると記されてきました。
現在では、月経不順や月経困難、不妊への応用、更年期障害など、「下腹部は冷えているのに、手足はほてって唇が乾く」という複雑な婦人科の不調に広く応用されています。冷えと乾燥・ほてりが同時にある、捉えにくいタイプを一つの方針で整える点が、この処方の特徴です。
漢方的な病態とメカニズム
東洋医学では、温経湯が合う状態を、子宮・卵巣の冷えと栄養不足(衝任虚寒)に、古い血の滞り(瘀血)と潤い不足(陰虚)が合併した状態と考えます。
- 衝任虚寒:骨盤内(子宮・卵巣)が冷え切り、血流が滞っている状態
- 血虚:血が不足し、生理の後半〜終了後にお腹がシクシク痛む状態
- 瘀血:冷えで古い血が滞り、巡りが悪くなっている状態
- 陰虚の虚熱:冷えで追い出された熱が上半身へ逃げ、手足のほてりや唇の乾燥として現れている状態
温経湯は、呉茱萸・桂皮で子宮を温め、当帰・川芎・芍薬で血を補い巡らせ、牡丹皮で古い血を動かしながら虚熱を冷まし、麦門冬・阿膠で体を潤して乾燥とほてりを鎮め、人参・甘草・生姜・半夏で胃腸を支える、という方向で組み立てられています。だからこの処方を選ぶときは、「冷えかどうか」だけでなく、冷えとほてり・乾燥が同居しているかを見ることが重要です。
構成生薬と配合バランス
温経湯は、温めて血を巡らせる軸、潤して虚熱を冷ます軸、胃腸を支え調和する軸で構成されています。構成生薬は12個ですが、全体としては「『温める』『潤す』『巡らせる』を一つにまとめた、冷えとほてりが同居する婦人科の不調のための」処方です。











※配合比率は、麦門冬4g・半夏4g・当帰3g・桂皮2g・川芎2g・芍薬2g・牡丹皮2g・阿膠2g・人参2g・甘草2g・呉茱萸1g・生姜1gを基準にしたイメージ(合計の都合で端数を丸めています)。実際の配合量は製品により異なります。
温経湯の味・香り・服用時の体感
温経湯の体験は、ばらばらに「香り」「味」「見た目」を見るより、飲む前から飲んだ後までの流れで捉えると分かりやすくなります。温めながら潤すという複数の方向を持つ処方であり、その性格は香り・味・飲後感にも複雑に表れます。
シナモンと漢方の香り
桂皮(シナモン)の甘い香りに、呉茱萸や当帰の少しツンとした漢方らしい香りが混ざり合います。
淡い黄褐色
粉末・顆粒は淡い褐色〜黄褐色。お湯に溶かすと、落ち着いた色合いになります。
甘み・辛み・コク
麦門冬・甘草のしっかりした甘みの中に、桂皮・呉茱萸のピリッとした辛み、阿膠による少しもったりとしたコクを感じる、複雑で奥深い味です。
温まり、潤う
飲むと胃のあたりから下腹部にかけてジンワリ温かさが広がり、同時に、カサついていた唇や喉の奥が潤っていくような感覚があります。
体験の流れ:シナモンと漢方の香り → 淡い黄褐色の湯 → 甘み・辛み・コクの複雑な味 → 下腹部が温まり、唇や喉の奥が潤う。下腹部が冷えて、唇や手足が乾いてほてるときほど、この温まりと潤いの両方が心地よく感じられることがあります。
症状別の向き・不向き
温経湯は、症状名だけで選ぶ漢方薬ではありません。見るべきポイントは、下腹部が冷えているか、手足のほてりや唇の乾燥があるか、生理の後半〜終了後に不調が出るかです。これらが揃うほど、処方の輪郭ははっきりします。
生理後半〜終了後の痛み・だるさ
生理で血を失い、子宮が栄養不足になってシクシク痛む(血虚)タイプに、血を補いながら温める本領が出ます。
判断ポイント:生理の後半〜終了後に痛み・だるさが出る。ほてり・唇の乾燥を伴う月経不順
手足がほてり、唇が乾くのに下腹部は冷えるタイプの月経不順に向きます。子宮の冷えを取り、血と潤いを補うため、不妊への応用でも重視される処方です。
判断ポイント:冷えとほてり・乾燥が同居している。更年期の冷えのぼせ・乾燥肌
下半身は冷えるのに顔や手足は熱く、肌や唇がカサカサに乾く更年期症状に候補になります。
判断ポイント:上下のアンバランス(冷えのぼせ)と乾燥がある。足腰の冷え・しもやけ・手あれ
下半身の冷えや、乾燥を伴う手あれ・しもやけが、婦人科の不調と一緒に出る場合に候補になります。
判断ポイント:冷えと乾燥した皮膚症状が結びついている。胃腸が弱い人
当帰・阿膠・麦門冬など油分が多く消化に負担のかかる生薬を含むため、胃腸が弱いと胃もたれ・腹痛・下痢が出ることがあります。食後や量の調整が必要です。
判断ポイント:重い生薬に胃腸がついていけるか。実熱・実証の瘀血
便秘が強く、がっちり体型で、のぼせが激しいタイプは、古い血を強く動かす方向の処方が向きます。温めて潤す温経湯では、熱と血が滞って悪化することがあります。
判断ポイント:便秘・のぼせが激しい実証には向かない。体質別の向き・不向き
温経湯は、血と潤いが不足し、下半身が冷えた虚証寄りの体質に向く処方です。温めて潤し補う薬なので、体質との相性を見ることが重要です。
血虚+陰虚
栄養(血)と潤い(陰)の両方が不足し、乾燥とほてりが生じているタイプです。温経湯の中心的な体質像です。
判断ポイント:乾燥・ほてりと、血の不足がそろう。陽虚(下腹部の冷え)+血瘀
子宮や卵巣が冷え切り、古い血が滞っているタイプを、温めて巡らせる方向に向きます。
判断ポイント:下腹部の冷えと血の滞りがある。冷えのぼせ・上下のアンバランス
下は冷えるのに上はほてる、という上下のアンバランスがあるタイプでは候補になります。
判断ポイント:冷えとほてりが上下で分かれている。気虚・著しい胃腸虚弱
人参など胃腸を助ける生薬は入っていますが、当帰・阿膠など重い生薬が多いため、極端に胃腸が弱いと下痢や胃もたれを起こすことがあります。
判断ポイント:胃腸が重い生薬に耐えられるか。湿熱(ドロドロ・炎症)
体内に熱とヘドロ(湿熱)が充満し、炎症が強いタイプに、強く温めて潤す薬を用いると、炎症を悪化させることがあります。
判断ポイント:強い熱・炎症のサインがあるときは避ける。効能・効果
温経湯の効能・効果は製品により表現が異なりますが、代表的には次のような内容が記載されています。
体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:
月経不順、月経困難、こしけ(おりもの)、更年期障害、不眠、神経症、湿疹・皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手あれ(手の湿疹・皮膚炎)
※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。
服用上の注意
温経湯は、体質に合えば一定期間続けて使われることもある処方ですが、油分の多い補血・潤燥の生薬や甘草を含むため、胃腸の状態や長期服用には注意が必要です。
補血・潤燥の生薬による胃腸への注意
温経湯には、当帰・麦門冬・阿膠など、油分が多く消化に負担をかける生薬が含まれます。胃腸が弱い方では、次のような症状が出ることがあります。
- 胃もたれ
- 腹痛
- 軟便・下痢
- 食欲不振
食欲不振や軟便・下痢が現れた場合は、食後に服用する、回数を減らすなどの調整を、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。
甘草による注意
温経湯には甘草も含まれます。甘草を含む漢方薬を複数併用したり、長期間服用したりすると、偽アルドステロン症と呼ばれる副作用に注意が必要です。
- 手足のむくみ
- 血圧上昇
- 体重増加
- だるさ、脱力感
- こむら返り、筋肉のけいけいれん
受診を優先したいサイン
- 不正出血が続く、量が多い、急に増えた
- 強い下腹部痛、発熱がある
- 急な体調の変化や、しこりに気づいた
- むくみ、血圧上昇、脱力感、こむら返りが出た
- 発疹、かゆみ、強い胃部不快感が出た
症状から理解を深める
温経湯が気になる方は、月経の悩みだけでなく、更年期・肌の乾燥・冷え・ほてりとの関係も確認すると理解が深まります。
似ている漢方薬・構成生薬
温経湯と似た場面で使われる婦人科の処方でも、冷えと水滞を整えるのか、ストレスと熱を冷ますのか、血の熱を冷ますのか、実証の瘀血を強く動かすのかで選び方が変わります。
よくある質問
Q. 温経湯はどんな人に向いていますか?
足腰は冷えるのに手足がほてり、唇が乾くタイプの方の、生理後半〜終了後の痛み、月経不順、更年期の冷えのぼせ・乾燥などに向きやすい漢方薬です。便秘が強くのぼせが激しい実証タイプには向きません。
Q. 冷えるのにほてるのはなぜですか?
漢方では、下半身が冷えて血が滞り栄養が不足する一方で、その冷えによって追い出された熱が上半身へ逃げ、手足のほてりや唇の乾燥(虚熱)として現れると考えます。温経湯は、この上下のアンバランスを一つの方針で整えようとする処方です。
Q. 不妊にも使われますか?
子宮の冷えを取り除き、血と潤いを補う方向から、月経不順や不妊への応用で用いられることがある処方です。ただし不妊は専門的な評価が必要なため、自己判断せず医療機関に相談してください。妊娠が成立した場合の服用継続の可否も、医師・薬剤師に確認してください。
Q. 胃にもたれませんか?
当帰・阿膠・麦門冬など油分が多く消化に負担のかかる生薬を含むため、胃腸が弱い方では胃もたれや下痢が出ることがあります。食後に飲む、回数を減らすなどの調整を相談してください。
Q. 温経湯は長く飲み続けてもよいですか?
体質改善を目的に一定期間続けることがある処方ですが、甘草を含むため、漫然と長く続けるのは避けたほうがよい場合があります。経過を見ながら使い、体調の変化があれば相談してください。
参考・出典
- PMDA「医療用医薬品 添付文書等情報検索」
- PMDA「一般用医薬品・要指導医薬品 添付文書等情報検索」
- 古典:『金匱要略』婦人雑病篇
温経湯が合うか迷った方へ
温経湯は、婦人科の不調によく使われる漢方薬ですが、すべての冷えや月経の悩みに合うわけではありません。下腹部の冷え、手足のほてりや唇の乾燥, 血や潤いの不足、体力、胃腸の状態、甘草への注意点まで含めて判断することが大切です。

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AI漢方診断をする免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。不正出血が続く・量が多い場合、強い下腹部痛や発熱がある場合、症状が長引く・悪化する場合、基礎疾患がある場合、妊娠中・授乳中、不妊治療中の場合は、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。
堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師
光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。
著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。