茵蔯蒿(いんちんこう)とは?黄疸・湿熱のかゆみに使う生薬を体質別に解説

更新日:2026年6月29日 監修:堀口和彦
茵蔯蒿(いんちんこう)

茵蔯蒿(いんちんこう)は、キク科カワラヨモギの頭花を用いる生薬です。胆の働きを助け(利胆)、体にこもった湿熱を冷まして除く働きから、黄疸や、湿熱による皮膚のかゆみ・じんましんのケアに用いられてきました。KanpoNowでは、この生薬を「胆を助け、湿熱を冷まして除く、清熱利湿の生薬」として整理します。「茵陳蒿」とも表記されます。

まずは要点
  • 茵蔯蒿は、キク科カワラヨモギの頭花からつくられる生薬です
  • 主成分はクマリン誘導体(エスクレチン、6,7-ジメトキシクマリン)やカピラリシンなどです
  • 漢方では、胆を助け(利胆)、湿熱を冷まして除く(清熱利湿)働きで用いられます
  • 茵蔯蒿を含む方剤には山梔子配合のものがあり、長期投与で腸間膜静脈硬化症の注意喚起があります

方剤によって注意点が異なります。体質・持病・併用薬がある場合は、自己判断での服用を避け、腹痛や黄疸症状が続く場合は専門家に相談してください。

茵蔯蒿とは

茵蔯蒿(いんちんこう)は、キク科のカワラヨモギ(Artemisia capillaris)の頭花を乾燥させた生薬で、日本薬局方にも収載されています。河原などに自生するカワラヨモギから採られ、特異なかおりを持つことで知られます。

漢方薬剤師の視点では、茵蔯蒿は「黄疸の薬」だけではありません。胆の働きを助けて、体にこもった湿(余分な水分)と熱が合わさった「湿熱」を冷まして除く生薬として位置づけられます。とくに、湿熱が肝・胆にこもって生じる黄疸や、湿熱による皮膚のかゆみに向くとされます。

ポイント:茵蔯蒿は「胆を助ける」「湿熱を冷まして除く」生薬です。黄疸や、湿熱によるじんましん・皮膚のかゆみが気になるタイプに用いられてきました。

基原・成分データ

茵蔯蒿の基本データを整理します。クマリン誘導体を含むこと、利胆・消炎の働きを持つことが、用いられ方を理解する鍵になります。

茵蔯蒿(インチンコウ)の生薬
茵蔯蒿の基礎データ
キク科カワラヨモギの頭花を用いる生薬。胆を助け、湿熱を冷まして除く働きがあります。
読み インチンコウ
基原・由来 キク科カワラヨモギ(Artemisia capillaris)の頭花。日本薬局方収載 *①
主成分 クマリン誘導体(エスクレチン、6,7-ジメトキシクマリン)、イソクマリン誘導体(カピラリシン)など *①

性味・帰経でみる性質

漢方では、生薬の性質を「性味(せいみ)」と「帰経(きけい)」で捉えます。性味は味と温度の傾向、帰経は主にどの臓腑に働きかけるかを示します。茵蔯蒿は、苦くやや冷やす性質で、脾・胃・肝・胆にこもった湿熱を除く方向に働きます。

味(五味)
甘 辛 酸 苦 鹹

「苦」は、熱や湿をさばいて取り除き、たまったものを乾かす方向の味です。

性(四気)
熱 温 平 涼 寒

「微寒(やや寒)」はおだやかに冷やす性質で、こもった熱を冷ます方向に働きます。

帰経(働きかける臓腑)
脾 胃 肝 胆

脾・胃の湿をさばき、肝・胆にこもった湿熱を除く方向に働きます。黄疸(肝・胆)に関わります。

漢方的な働きの軸

茵蔯蒿の働きは、大きく三つの軸で整理できます。湿熱を除く軸、胆を助ける軸、皮膚のかゆみを和らげる軸が重なり、湿熱がこもった状態を冷まして除きます。

湿熱を除く軸 清熱利湿 体にこもった湿と熱(湿熱)を冷まして小便とともにさばき、黄疸やだるさを整えます。
胆を助ける軸 利胆退黄 胆の働きを助け、湿熱による黄疸(からだや白目が黄色くなる状態)を退ける方向に働きます。
かゆみを和らげる軸 清熱止痒 湿熱によるじんましんや皮膚のかゆみを、熱と湿をさばくことで和らげる方向に働きます。
一言でいうと:茵蔯蒿は「湿熱を冷まして除き、胆を助ける」生薬です。黄疸や、湿熱によるじんましん・皮膚のかゆみのタイプに輪郭がはっきりします。

伝統的な使われ方

茵蔯蒿は古くから、利胆・清熱除湿を目的に用いられてきました。胆の働きを助け、湿熱を除く作用から、湿熱がこもって生じる黄疸(炎症性黄疸、流行性肝炎など)のケアに配合された歴史があります。とくに、茵蔯蒿と山梔子を組み合わせると、利胆・消炎の働きが期待されます。

また、湿熱による皮膚のかゆみやじんましんにも用いられました。湿熱を小便とともにさばくことで、体にこもった熱と湿をやわらげる方向で使われます。

形状・味・使われ方の体感

茵蔯蒿は、見た目・かおり・味に特徴があります。糸状の細かい花と葉が集まった姿が、独特の風合いをつくります。

形

糸状の細かい頭花

淡緑色〜淡黄褐色の小さな頭花と、糸状の細い葉からなります。質は軽く、かさばります。

香

特異な弱いかおり

ヨモギに通じる独特の弱いかおりがあります。良品は、この特有のかおりが強いとされます。

味

やや辛く苦い

味はやや辛く、わずかに麻痺性があります。漢方では苦・微寒の性味として扱われます。

体質別の向き・不向き

茵蔯蒿は湿熱を冷まして除く生薬です。こもった湿熱があるか、また冷えや胃腸の状態を見極めることが大切です。

◎

湿熱による黄疸

湿熱が肝・胆にこもって生じる黄疸(からだや白目が黄色くなる、尿が濃いなど)のケアに向きます。茵蔯蒿の中心的な使い道です。

判断ポイント:湿熱がこもり、黄疸傾向がある。
◯

湿熱によるじんましん・皮膚のかゆみ

湿熱がこもって生じる、じんましんや皮膚のかゆみのケアに用いられてきました。じくじくと湿っぽい皮膚トラブルで候補になります。

判断ポイント:湿っぽく、熱を帯びた皮膚のかゆみ。
△

胃腸が弱く冷えやすい体質

苦く冷やす性質のため、胃腸が弱く冷えやすい方では、冷えや胃部不快感が出ることがあります。服用後の様子を確認しながら用います。

判断ポイント:冷え・胃部不快感が出たら相談。
×

山梔子配合製剤の長期連用

茵蔯蒿を含む方剤のうち、山梔子を配合するもの(茵蔯蒿湯など)は、長期(多くは5年以上)の投与で腸間膜静脈硬化症の注意喚起があります。漫然と続けないことが大切です。

判断ポイント:山梔子配合の長期連用は避ける。

安全性と受診の目安

茵蔯蒿は方剤によって注意点が異なります。とくに山梔子を含む製剤(茵蔯蒿湯など)は、長期投与で腸間膜静脈硬化症の注意喚起があります。体質・持病・併用薬がある場合は、自己判断での使用を避けてください。

  • すぐに相談:腹痛・血便など消化器症状が続く、黄疸症状が強い
  • 服薬中:持病がある、ほかの薬を併用している場合は、継続・中止を自己判断せず専門家に相談する
すぐ相談:黄疸症状が強い場合、長期服用中に腹痛・下痢・便秘・腹部膨満が続く場合は、自己判断で続けず、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。

※このページは一般的な情報提供を目的としています。診断や治療の決定には医療専門家の判断が必要です。

症状から理解を深める

茵蔯蒿が気になる方は、湿熱による皮膚のかゆみ、肌荒れとの関係も確認すると理解が深まります。

茵蔯蒿を含む漢方薬

茵蔯蒿は、湿熱による黄疸や皮膚のかゆみを整える処方に配合されます。同じ茵蔯蒿を含む処方でも、組み合わせる生薬によって向く症状は変わります。

よくある質問

Q. 茵蔯蒿はどんなときに使われますか?

伝統的に、湿熱のこもり(黄疸、湿熱による皮膚のかゆみなど)に対して、利胆・清熱除湿を狙って配合されます。

Q. 性味・帰経は?

性味は苦・微寒、帰経は脾・胃・肝・胆とされます。胆を助け、湿熱を冷まして除く働きがあります。

Q. 副作用が心配です

方剤ごとに注意点が異なります。とくに山梔子を含む製剤(茵蔯蒿湯など)では、長期投与による腸間膜静脈硬化症の注意喚起があります。体調の変化を感じたら早めに専門家へ相談してください。

参考・出典

自分に合う漢方薬を知りたい方へ

茵蔯蒿は、湿熱を冷まして除く生薬ですが、黄疸や皮膚のかゆみの背景は人によって異なり、向く漢方薬も変わります。自分の体質にどんな処方が合うのかを知りたい方は、AI漢方診断をご利用ください。

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免責:本ページは生薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。黄疸症状、皮膚症状が続く、日常生活に支障があるといった場合は、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。症状が長引く・悪化する場合、基礎疾患がある場合、妊娠中・授乳中、他のお薬を服用中の場合も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。