遠志(おんじ)とは?不安・不眠・もの忘れに使う生薬を体質別に解説

更新日:2026年7月2日 監修:堀口和彦
遠志(おんじ)

遠志(おんじ)は、ヒメハギ科イトヒメハギの根または根皮を用いる生薬です。心を落ち着け、精神を安らかにする働き(安神)と、心と腎のつながりを整えて頭をすっきりさせる働き(益智)から、不安・動悸・不眠・もの忘れのケアに用いられてきました。近年は中年期以降のもの忘れ改善でも知られます。KanpoNowでは、この生薬を「心を落ち着け、頭をすっきりさせる、安神の生薬」として整理します。

まずは要点
  • 遠志は、ヒメハギ科イトヒメハギ(Polygala tenuifolia)の根または根皮からつくられる生薬です
  • 主成分はサポニン(オンジサポニン)、キサントン類、フェノール配糖体などです
  • 漢方では、心を落ち着け精神を安らかにし(安神益智)、たんをさばく(去痰)働きで用いられます
  • 遠志を含む漢方薬の服用は、血液検査値(血中1,5-AG)に影響することが報告されています

胃の弱い方では胃部の不快が出ることがあります。血液検査を控えている方、持病や併用薬のある方、妊娠・授乳中の方は、自己判断での使用を避け、専門家に相談してください。

遠志とは

遠志(おんじ)は、ヒメハギ科のイトヒメハギ(Polygala tenuifolia)の根、または木部を抜き去った根皮を乾燥させた生薬で、日本薬局方にも収載されています。根の中心の木部を抜くと真ん中に穴が通ったようになることから「遠志通」とも呼ばれ、芯を除いた肉厚のものが良品とされます。

漢方薬剤師の視点では、遠志は代表的な「安神薬(精神を安らかにする生薬)」です。「志を遠大にする」「智を益す」という名の由来のとおり、心を落ち着けて不安や動悸をしずめ、心と腎のつながりを整えて頭をすっきりさせるとされます。あわせて、たんをさばく去痰の働きももちます。近年は、中年期以降の軽いもの忘れの改善でも注目されています。

ポイント:遠志は「心を落ち着ける」「頭をすっきりさせる」「たんをさばく」生薬です。不安・動悸・不眠・もの忘れなどが気になるタイプに用いられてきました。

基原・成分データ

遠志の基本データを整理します。サポニンを含むこと、安神薬に分類されることが、用いられ方を理解する鍵になります。

遠志(オンジ)の生薬
遠志の基礎データ
ヒメハギ科イトヒメハギの根・根皮を用いる生薬。心を落ち着け、頭をすっきりさせる働きがあります。
読み オンジ(遠志通とも)
基原・由来 ヒメハギ科イトヒメハギ(Polygala tenuifolia)の根または根皮。日本薬局方収載 *①②
主成分 サポニン(オンジサポニン)、キサントン類、フェノール配糖体、オリゴ糖など *①②

性味・帰経でみる性質

漢方では、生薬の性質を「性味(せいみ)」と「帰経(きけい)」で捉えます。性味は味と温度の傾向、帰経は主にどの臓腑に働きかけるかを示します。遠志は、苦く辛く、ほんのり温かで、心・腎・肺に働きます。

味(五味)
甘 辛 酸 苦 鹹

「辛」は巡らせほぐす味、「苦」はさばいて下げる味とされます。うっ滞した気をほぐし、たんをさばく働きと結びつきます。

性(四気)
熱 温 平 涼 寒

「温(微温)」はおだやかに温める性質で、冷えを助長しにくく、幅広い体質に合わせやすい傾向です。

帰経(働きかける臓腑)
心 腎 肺

心を落ち着け(心)、心と腎のつながりを整え(腎)、肺のたんをさばきます(肺)。不安・不眠(心)、もの忘れ(心腎)に関わります。

漢方的な働きの軸

遠志の働きは、大きく三つの軸で整理できます。心を落ち着ける軸、頭をすっきりさせる軸、たんをさばく軸が重なり、心の不安定さと頭の重さを整えます。

心を落ち着ける軸 寧心安神 心にたかぶりや不安があって落ち着かない状態をしずめ、不安・動悸・不眠をやわらげます。
頭をすっきりさせる軸 交通心腎・益智 心と腎のつながりを整え、もの忘れや集中しにくさなど、頭の働きの低下を支える方向に働きます。
たんをさばく軸 去痰 肺にからんだたんをさばき、たんの多い咳をやわらげ、気の巡りを整える方向にも働きます。
一言でいうと:遠志は「心を落ち着け、頭をすっきりさせ、たんをさばく」生薬です。不安・動悸・不眠に、もの忘れが重なるタイプに輪郭がはっきりします。

伝統的な使われ方

遠志は古くから、安神益智・去痰・散鬱を目的に用いられてきました。心を落ち着ける働きから、心の不安定さによる不安・動悸・不眠・驚きやすさや、もの忘れのケアに配合された歴史があります。『神農本草経』の上品に収載され、「智を益し、志を強くする」と伝えられています。

気血を補う生薬と組み合わせて、心血を養いつつ精神を安定させる目的で、加味帰脾湯・帰脾湯・人参養栄湯などに配合されます。また、たんをさばく働きから、たんの多い咳にも応用されました。近年は、中年期以降の軽いもの忘れの改善を目的とした製剤にも用いられています。

形状・味・使われ方の体感

遠志は、見た目・味・使われ方に特徴があります。芯を抜いた管状の根皮が特徴です。

形

芯を抜いた管状の根皮

木部を抜き去り、中央に穴が通った管状の根皮。肉厚で、芯が除かれた円筒状のものが良品とされます。

味

わずかにえぐみ

弱いにおいがあり、味はわずかにえぐみがあります。のどを刺激する性質があるとされます。

用

煎じて用いる

煎じ液として、気血を補う安神系の処方に配合されます。単味の製剤として用いられることもあります。

体質別の向き・不向き

遠志は心を落ち着け頭をすっきりさせる生薬です。心の不安定さがあるか、また胃腸の状態や検査予定を確認することが大切です。

◎

心の不安定(不安・動悸・不眠)

心が落ち着かず、不安、動悸、驚きやすさ、寝つきの悪さが出るタイプに向きます。遠志の中心的な使い道です。

判断ポイント:不安・動悸で落ち着かない・眠れない。
◯

もの忘れ・たんの多い咳

心と腎のつながりの乱れによるもの忘れや、たんの多い咳のケアに用いられてきました。頭の重さやたんが気になるとき候補になります。

判断ポイント:もの忘れやたんが気になる。
△

胃が弱い方・血液検査を控える方

のどや胃を刺激することがあり、胃の弱い方では不快が出ることがあります。また、遠志を含む漢方薬は血中1,5-AGの検査値に影響するため、検査前は医師に申し出てください。

判断ポイント:胃が弱い・検査予定があれば相談。
×

胃炎・胃潰瘍がある場合の自己判断

刺激性があるため、胃炎や胃潰瘍がある場合は症状を悪化させることがあります。自己判断での使用を避け、専門家に相談してください。

判断ポイント:胃炎・胃潰瘍があれば専門家へ。

安全性と受診の目安

遠志は比較的おだやかな生薬ですが、のどや胃を刺激する性質があり、胃の弱い方では不快が出ることがあります。また、遠志を含む漢方薬の服用は、血液検査値(血中1,5-AG)に影響することが報告されています。血糖の指標にかかわるため、検査を受ける際は服用を医師に伝えてください。

  • すぐに相談:胃部不快感や吐き気が続く、皮疹などの異常が出た
  • 服薬中:血液検査(血糖・1,5-AG)を控えている、持病や併用薬がある、妊娠・授乳中の場合は、事前に専門家に相談する
すぐ相談:胃部不快感や吐き気が続く場合、皮疹などの異常がある場合は、自己判断で続けず、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。血液検査の予定がある場合は、遠志を含む漢方薬の服用を必ずお伝えください。

※このページは一般的な情報提供を目的としています。診断や治療の決定には医療専門家の判断が必要です。

症状から理解を深める

遠志が気になる方は、不眠、不安、動悸との関係も確認すると理解が深まります。

遠志を含む漢方薬

遠志は、気血を補いながら心を落ち着ける、安神系の処方に配合されます。同じ遠志を含む処方でも、組み合わせる生薬によって向く症状は変わります。

よくある質問

Q. もの忘れに効きますか?

遠志は古くから「智を益す」とされ、近年は中年期以降の軽いもの忘れの改善を目的とした製剤にも用いられます。ただし、認知症そのものの予防・治療効果が確立しているわけではありません。

Q. 血液検査への影響とは?

遠志を含む漢方薬の服用は、血糖コントロールの指標である血中1,5-AGの測定値に影響することが報告されています。血液検査を受ける際は、服用を医師にお伝えください。

Q. 性味・帰経は?

性味は苦・辛/温、帰経は心・腎・肺とされます。心を落ち着け、心と腎のつながりを整え、たんをさばく働きがあります。

参考・出典

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遠志は、心を落ち着け頭をすっきりさせる生薬ですが、不安や不眠、もの忘れの背景は人によって異なり、向く漢方薬も変わります。自分の体質にどんな処方が合うのかを知りたい方は、AI漢方診断をご利用ください。

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免責:本ページは生薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。不安・動悸・不眠やもの忘れが続く、日常生活に支障があるといった場合は、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。症状が長引く・悪化する場合、基礎疾患がある場合、妊娠中・授乳中、他のお薬を服用中の場合も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。