蝉退(せんたい)とは?かぜの初期の発熱やのど痛み、かゆみに使う生薬を体質別に解説

更新日:2026年7月5日 監修:堀口和彦
蝉退(せんたい)

蝉退(せんたい)は、クマゼミなど大型セミ類が羽化したあとの抜け殻を乾燥して用いる、動物性の生薬です。風熱の邪をさばき、のどの通りをよくする働き(疏散風熱・利咽開音)や、発疹を出しきり、かゆみを止める働き(透疹止痒)から、かぜの初期の発熱・のどの痛み、じんましんや湿疹によるかゆみ、麻疹の発疹などのケアに用いられてきました。軽やかで表(体の浅い部分)に働きかけるのが特徴です。KanpoNowでは、この生薬を「風熱をさばき、発疹とかゆみを鎮める生薬」として整理します。

まずは要点
  • 蝉退(せんたい)はセミ科の大型セミ類(クマゼミの仲間など)の幼虫が羽化したあとの抜け殻を乾燥した動物性の生薬です*①②
  • 主成分はキチン質で、詳細な薬理成分は明らかではありません*①③
  • 漢方では、風熱をさばきのどを通し(疏散風熱・利咽開音)、発疹を出しきりかゆみを止め(透疹止痒)、目の翳を退け風を鎮める(退翳明目・祛風解痙)働きで用いられます*①②③
  • 動物性生薬のため、妊娠中は自己判断を避け、専門家に相談してください

蝉退は表(体の浅い部分)の風熱をさばく生薬で、単独よりも他の生薬と組み合わせて用いられることが多いです。発疹をともなう発熱が長引く、目の症状が急に悪化する場合は自己判断で対処せず、医療機関へご相談ください。

蝉退とは

蝉退(せんたい)は、セミ科Cicadidaeのクマゼミの仲間(Cryptotympana atrata Fabr.など)をはじめとする大型セミ類が、幼虫から成虫へ羽化したあとに残る抜け殻を乾燥させた生薬です。『名医別録』に「蝉殻」の名で収載される歴史ある生薬で、日本ではアブラゼミ・クマゼミ・ヒグラシ・ニイニイゼミなど様々な種類の抜け殻が用いられてきました。黄金色で透明なものは「金蝉衣」、灰褐色で光沢のないものは「土蝉衣」と呼ばれます。

漢方薬剤師の視点では、蝉退は「辛涼解表薬(冷やしながら体表の邪をさばく生薬)」に分類されます。風熱表証(風と熱による体表の症状)による発熱・頭痛・のどの痛みをさばき、麻疹初期で発疹の出が不十分なときに透発を助け、じんましん・湿疹など風熱・風湿熱による皮膚のかゆみを鎮めます。また、風熱による目の充血・かすみをやわらげ、破傷風や小児の夜泣き・ひきつけなど、風を鎮め痙攣をやわらげる目的でも用いられてきました。

ポイント:蝉退は「風熱をさばき、発疹とかゆみを鎮める」生薬です。かぜの初期の発熱・のどの痛み、じんましんや湿疹のかゆみ、麻疹の発疹などが気になるタイプに用いられてきました。軽やかに体の浅い部分に働きかけるのが特徴です。

基原・成分データ

蝉退の基本データを整理します。セミの抜け殻という動物性の生薬であること、キチン質を主成分とすることが、用いられ方を理解する鍵になります。

蝉退(センタイ)の生薬
蝉退の基礎データ
大型セミ類の羽化後の抜け殻を乾燥した動物性の生薬。風熱をさばき、発疹とかゆみを鎮める働きがあります。
読み センタイ(セミの抜け殻を用いる生薬)
基原・由来 セミ科クマゼミの仲間など大型セミ類の幼虫の脱皮殻(抜け殻) *①②
主成分 キチン質。詳細な薬理成分は明らかではありません *①③

性味・帰経でみる性質

漢方では、生薬の性質を「性味(せいみ)」と「帰経(きけい)」で捉えます。性味は味と温度の傾向、帰経は主にどの臓腑に働きかけるかを示します。蝉退は、甘くわずかに鹹く、冷やす性質(寒)で、肺・肝に働きます。

味(五味)
辛 甘 酸 苦 鹹

「甘」はやわらげる味、「鹹」はやわらかくし通す味とされます。風熱をおだやかにさばき、発疹を出しきる働きと結びつきます。

性(四気)
熱 温 平 涼 寒

「寒」は冷やす性質で、風熱による発熱・のどの痛み・かゆみを冷まし鎮める方向に働きます。

帰経(働きかける臓腑)
肺 肝

肺に働いて風熱の邪をさばきのどを通し、肝に働いて目の症状や風による痙攣をやわらげる方向に働きます。

漢方的な働きの軸

蝉退の働きは、大きく三つの軸で整理できます。風熱をさばく軸、発疹とかゆみを鎮める軸、目の翳と風を鎮める軸が重なり、風熱表証・皮膚症状を整えます。

風熱をさばく軸 疏散風熱・利咽開音 風熱の邪を体表からさばいて、かぜの初期の発熱・頭痛、のどの痛みやかすれ声をやわらげる方向に働きます。
発疹とかゆみを鎮める軸 透疹止痒 発疹を出しきる方向に働き、麻疹初期の発疹の出が不十分なときや、じんましん・湿疹によるかゆみをやわらげます。
目の翳と風を鎮める軸 退翳明目・祛風解痙 風熱による目の充血・かすみをやわらげ、ひきつけ・痙攣など風による症状を鎮める方向に働きます。
一言でいうと:蝉退は「風熱をさばき、発疹とかゆみを鎮める」生薬です。かぜの初期の発熱・のどの痛み、じんましんや湿疹のかゆみ、麻疹の発疹などのタイプに輪郭がはっきりします。軽やかに体表に働くのが持ち味です。

伝統的な使われ方

蝉退は古くから、疏散風熱・透疹止痒・退翳明目・祛風解痙を目的に用いられてきました。かぜの初期の発熱・頭痛・のどの痛み、麻疹初期で発疹の出が不十分なとき、じんましん・湿疹など風熱・風湿熱による皮膚のかゆみ、風熱による目の充血・かすみ、小児の夜泣き・ひきつけなどのケアに用いられてきた歴史があります。蝉退は肺・肝の気分に入り、軽やかに体の浅い部分(表)に働きかける力が特徴です。

荊芥・防風・白蒺藜などと組み合わせて、じんましん・湿疹による皮膚のかゆみを整える処方(消風散)に配合されます。このほか、薄荷・牛蒡子・葛根などと組み合わせて麻疹初期の透発を助ける処方(竹葉柳蒡湯)、菊花・白蒺藜などと組み合わせて目の充血・かすみを整える処方にも用いられてきました。単独で用いるよりも、他の生薬と組み合わせて配合や量を調整して用いるのが一般的です。

形状・味・使われ方の体感

蝉退は、セミの抜け殻ならではの特徴をもつ生薬です。

形

淡黄褐色〜黄褐色の抜け殻

半透明でもろく軽い、セミの幼虫の抜け殻そのものの形をしています。黄金色で透明なものは「金蝉衣」と呼ばれ上質とされます。

味

ほぼ無味に近い

においも味もほとんどなく、甘みとわずかな鹹味がある程度です。寒性で、熱をおだやかに冷ます方向に働きます。

用

頭部・脚を除いて使用

頭部や脚を取り除いてから煎じ薬に用いるのが一般的です。他の生薬と組み合わせて配合されることが多い生薬です。

体質別の向き・不向き

蝉退は風熱をさばく生薬です。表の風熱があるか、逆に妊娠中や虚弱でないかを見極めることが大切です。

◎

風熱表証タイプ

かぜの初期で発熱・頭痛・のどの痛みがあるタイプに向きます。蝉退の中心的な使い道です。

判断ポイント:かぜの初期の発熱・咽痛。
◯

発疹・かゆみタイプ

じんましん・湿疹によるかゆみ、麻疹の発疹の出が不十分なときのケアに用いられてきました。

判断ポイント:皮膚のかゆみ・発疹。
△

目の充血・ひきつけタイプ

風熱による目の充血・かすみ、小児の夜泣き・ひきつけには他の生薬と組み合わせて用います。

判断ポイント:他の生薬と組み合わせて調整。
×

妊娠中・虚弱タイプ

動物性生薬のため、妊娠中は自己判断を避け、体力が乏しい方は専門家に相談してください。

判断ポイント:妊娠中・虚弱は慎重に。

安全性と受診の目安

蝉退は処方の中で用いられる辛涼解表薬ですが、動物性の生薬のため、妊娠中は自己判断を避け、体力が乏しい方は慎重に用います。まれに体質に合わずかゆみ・発疹などが出ることもあります。発疹をともなう高熱が続く、目の症状が急速に悪化する、ひきつけ・痙攣が続く場合は、自己判断で対処せず医療機関へご相談ください。持病や併用薬のある方も、事前に専門家に相談してください。

  • すぐに相談:発疹をともなう高熱が続く、目の症状が急速に悪化する、ひきつけ・痙攣が続く
  • 服薬中:症状が改善しない・悪化する場合は中止し受診する。妊娠中・虚弱体質の方、持病・他剤併用がある場合は専門家に相談する
すぐ相談:発疹をともなう高熱が続く、目の症状が急速に悪化する、ひきつけ・痙攣が続く場合は、自己判断で続けず、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。

※このページは一般的な情報提供を目的としています。診断や治療の決定には医療専門家の判断が必要です。

症状から理解を深める

蝉退が気になる方は、かゆみ、頭痛との関係も確認すると理解が深まります。

蝉退を含む漢方薬

蝉退は、風熱・皮膚のかゆみを整える処方に配合されます。蝉退の風熱をさばく働きが、処方の中でどう活きるかを整理しました。

よくある質問

Q. なぜセミの抜け殻が生薬になるのですか?

蝉退は動物性の生薬で、古くから『名医別録』にも収載される歴史があります。軽やかで体の浅い部分(表)に働きかける性質から、かぜの初期の症状や皮膚のかゆみに用いられてきました。

Q. 蝉花(せんか)とは違うものですか?

蝉花は、セミの幼虫にバッカクキン科の菌類が寄生してできたもので、蝉退の一種とみなされ、効能も蝉退と同じとされています。日本ではニイニイゼミの幼虫につくものが知られています。

Q. どんな体質・症状に向きますか?

かぜの初期の発熱・頭痛・のどの痛み、じんましんや湿疹によるかゆみ、麻疹の発疹などのタイプに向きます。動物性生薬のため、妊娠中は自己判断を避けてください。

参考・出典

自分に合う漢方薬を知りたい方へ

蝉退は、風熱をさばき発疹とかゆみを鎮める生薬ですが、発熱やかゆみの背景は人によって異なり、向く漢方薬も変わります。自分の体質にどんな処方が合うのかを知りたい方は、AI漢方診断をご利用ください。

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免責:本ページは生薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療・服薬指示を行うものではありません。発疹をともなう高熱が続く、目の症状が急速に悪化する場合は、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。動物性生薬のため妊娠中は自己判断を避け、症状が長引く・悪化する場合、基礎疾患がある場合、他のお薬を服用中の場合も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。