山薬(さんやく)とは?脾虚の食欲不振だるさ軟便・慢性の咳口渇・頻尿夜尿遺精に使う生薬を体質別に解説

更新日:2026年7月5日 監修:堀口和彦
山薬(さんやく)

山薬(さんやく)は、とろろでおなじみのヤマイモ(ヤマノイモ・ナガイモ)を用いる、滋養の生薬です。胃腸を元気にして気を補い、肺をうるおし、腎を補って精気のもれを引きしめる働き(補気健脾・滋陰益肺・補腎固精)から、食欲不振・だるさ・軟便、慢性の咳・口渇、頻尿・夜尿・遺精のケアに用いられてきました。脾・肺・腎の三つを穏やかに補い、六味丸・八味地黄丸に欠かせない要薬です。KanpoNowでは、この生薬を「脾・肺・腎を穏やかに補う、滋養の生薬」として整理します。

まずは要点
  • 山薬(さんやく)はヤマノイモ科ヤマノイモ/ナガイモ(Dioscorea opposita)の根茎を乾燥した生薬で、補気健脾・滋陰益肺・補腎固精のはたらきが知られます。食欲不振やだるさ・軟便、慢性の咳や口渇、頻尿・夜尿などに配合されます
  • 主成分は多糖類(ペクチン様成分・ムチン)、ジオスコリン、サポニン、でん粉、消化酵素(ジアスターゼ等)などです
  • 漢方では、胃腸を元気にして気を補い(補気健脾)、肺をうるおし(滋陰益肺)、腎を補って精気のもれを引きしめる(補腎固精)働きで用いられます
  • 体質により腹部膨満や便秘・下痢などの消化器症状が出ることがあり、ヤマイモにアレルギーのある方は避けます

山薬は、体質により腹部膨満や便秘・下痢などの消化器症状が出ることがあります。ヤマイモにアレルギーのある方は使用を避けてください。長引く咳や、痛み・血尿などの尿路症状が続く場合は、自己判断で続けず医療機関へご相談ください。

山薬とは

山薬(さんやく)は、ヤマノイモ科のヤマノイモ(Dioscorea japonica Thunberg)またはナガイモ(Dioscorea opposita Thunb.)の周皮を除いた根茎を乾燥させた生薬で、日本薬局方にも収載されています。とろろ汁・山かけ・千切りでおなじみのヤマイモです。「薯蕷(しょよ)」とも呼ばれ、時の皇帝の名を避けて「山薬(山で採れる薬)」の名が使われるようになったとされます。『神農本草経』の上品に「薯蕷」として収載された、歴史の古い生薬で、「山のうなぎ」と呼ばれるほど滋養に富みます。

漢方薬剤師の視点では、山薬は「脾・肺・腎を同時に補う」めずらしい生薬です。胃腸(脾)を元気にして気を補い、肺をうるおし、腎を補って精気のもれを引きしめます。作用はおだやかで、補いながらも重くなりすぎず、幅広く用いられます。脾虚による食欲不振・だるさ・軟便、肺陰不足による慢性の咳・口渇、腎虚による頻尿・夜尿・遺精に用いられます。地黄・山茱萸とともに六味丸・八味地黄丸の「三補」を構成し、参苓白朮散・啓脾湯など胃腸を整える処方にも配合される要薬です。

ポイント:山薬は「胃腸を元気にして気を補う」「肺をうるおす」「腎を補って精気のもれを引きしめる」生薬です。食欲不振・だるさ・軟便、慢性の咳・口渇、頻尿・夜尿・遺精などが気になるタイプに用いられてきました。

基原・成分データ

山薬の基本データを整理します。多糖類(ムチン)・消化酵素を含むこと、脾・肺・腎を補う生薬であることが、用いられ方を理解する鍵になります。

山薬(サンヤク)の生薬
山薬の基礎データ
ヤマイモの根茎を用いる生薬。脾・肺・腎を穏やかに補う働きがあります。
読み サンヤク(ヤマイモ・薯蕷)
基原・由来 ヤマノイモ科ヤマノイモ/ナガイモ(Dioscorea opposita Thunb.)の根茎。日本薬局方収載 *①②
主成分 多糖類(ペクチン様成分・ムチン)、ジオスコリン、サポニン、でん粉、消化酵素 *②③

性味・帰経でみる性質

漢方では、生薬の性質を「性味(せいみ)」と「帰経(きけい)」で捉えます。性味は味と温度の傾向、帰経は主にどの臓腑に働きかけるかを示します。山薬は、甘く、偏りのない平で、脾・肺・腎に働きます。

味(五味)

「甘」は補い養う味とされます。胃腸を元気にして気を補い、肺・腎を養う働きと結びつきます。

性(四気)

「平」は温めも冷やしもしない偏りのない性質で、幅広い体質にやさしく、穏やかに補う方向に働きます。

帰経(働きかける臓腑)

脾を元気にして食欲不振・軟便をやわらげ、肺をうるおして慢性の咳をやわらげ、腎を補って頻尿・夜尿・遺精をやわらげる方向に働きます。

漢方的な働きの軸

山薬の働きは、大きく三つの軸で整理できます。胃腸を補う軸、肺をうるおす軸、腎を補う軸が重なり、脾・肺・腎の不足を穏やかに整えます。

胃腸を補う軸 補気健脾 胃腸(脾)を元気にして気を補い、食欲不振・だるさ・軟便・慢性の下痢をやわらげる方向に働きます。
肺をうるおす軸 滋陰益肺 肺をうるおして、うるおい不足による慢性の咳・から咳・口渇をやわらげる方向に働きます。
腎を補う軸 補腎固精 腎を補って精気のもれを引きしめ、頻尿・夜尿・遺精・帯下(おりもの)をやわらげる方向に働きます。
一言でいうと:山薬は「胃腸を元気にして気を補い、肺をうるおし、腎を補って精気のもれを引きしめる」生薬です。食欲不振・だるさ・軟便、慢性の咳・口渇、頻尿・夜尿・遺精のタイプに輪郭がはっきりします。

伝統的な使われ方

山薬は古くから、補気健脾・滋陰益肺・補腎固精を目的に用いられてきました。脾虚による食欲不振・だるさ・軟便・慢性の下痢、肺陰不足による慢性の咳・から咳・口渇、腎虚による頻尿・夜尿・遺精・帯下などのケアに用いられてきた歴史があります。強壮・強精・止瀉の働きから、やせて元気がない状態や、さまざまな疲労消耗、胃腸虚弱・消化不良にも応用されてきました。

地黄・山茱萸・茯苓・牡丹皮・沢瀉と組み合わせて腎陰虚を補う処方(六味丸)、六味丸に桂皮・附子を加えて腎陽虚を温め補う処方(八味地黄丸)、八味地黄丸に牛膝・車前子を加えた処方(牛車腎気丸)、六味丸に知母・黄柏を加えた処方(知柏地黄丸)に配合されます。また、人参・白朮・茯苓などと組み合わせて胃腸を元気にする処方(参苓白朮散・啓脾湯)にも配合されます。地黄丸系では脾・肺・腎を補い、胃腸の処方では消化吸収を助けます。

形状・味・使われ方の体感

山薬は、私たちのよく知るヤマイモの、見た目・味・使われ方の特徴をもちます。

白い棒状・輪切り

周皮を除いた、白色〜類白色の棒状(チョーク状)または輪切りの根茎。白色で、質が重く、なめらかなものが良品とされます。

ほのかな甘みと粘り

味はほのかに甘く、ヤマイモ特有の風味と粘りがあります。この甘みと粘り(ムチン)が、補い養う働きの中心です。

煎じる・丸薬・薬膳

煎じ液や丸薬(六味丸・八味地黄丸など)として補いの処方に配合されます。薬膳では、中国粥やスープに用いられ、滋養に供されます。

体質別の向き・不向き

山薬は脾・肺・腎を穏やかに補う、身近な滋養の生薬です。脾・肺・腎の不足があるか、逆に湿がこもって腹が張っていないかを見極めることが大切です。

脾虚の食欲不振・だるさ・軟便

胃腸が弱く、食欲不振・だるさ・軟便・慢性の下痢が出るタイプに向きます。山薬の中心的な使い道で、参苓白朮散・啓脾湯の要薬です。

判断ポイント:食欲不振・だるさ・軟便。

慢性の咳・口渇、頻尿・夜尿

肺陰不足による慢性の咳・口渇、腎虚による頻尿・夜尿・遺精のケアに用いられてきました。肺・腎の不足で候補になります。

判断ポイント:慢性の咳・口渇、頻尿・夜尿。

腹が張りやすい・便秘しやすい方

補い収める性質のため、体質により腹部膨満や便秘・下痢などの消化器症状が出ることがあります。腹が張りやすい方は用量に注意します。

判断ポイント:腹部膨満・便秘が出れば調整。
×

ヤマイモにアレルギーのある方

ヤマイモにアレルギーのある方は使用を避けてください。また、湿邪がこもって腹部膨満が強い実証タイプでは、補いが停滞を助長することがあり慎重にします。

判断ポイント:ヤマイモアレルギーは避ける。

安全性と受診の目安

山薬は食品としても親しまれる、きわめて穏やかで安全性の高い生薬ですが、体質により腹部膨満や便秘・下痢などの消化器症状が出ることがあります。ヤマイモにアレルギーのある方は使用を避けてください。長引く咳・呼吸苦、持続する尿路症状(痛み・血尿など)がある場合は、別の原因の確認が必要です。自己判断での長期連用は避け、持病や併用薬のある方は専門家に相談してください。

  • すぐに相談:息苦しさ、高熱、血尿や排尿痛が続く、強い脱力感
  • 服薬中:腹部膨満・下痢が続く、症状が改善しない/悪化する場合は中止し受診する。持病や他剤併用がある場合は専門家に相談する
すぐ相談:息苦しさ、高熱、血尿や排尿痛が続く、強い脱力感などがある場合は、自己判断で続けず、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。

※このページは一般的な情報提供を目的としています。診断や治療の決定には医療専門家の判断が必要です。

症状から理解を深める

山薬が気になる方は、食欲不振、だるさ、咳・喘息との関係も確認すると理解が深まります。

山薬を含む漢方薬

山薬は、腎を補う地黄丸系の処方や、胃腸を元気にする処方に配合されます。同じ山薬を含む処方でも、組み合わせる生薬によって向く症状は変わります。

よくある質問

Q. 参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)との関係は?

参苓白朮散は補気健脾・利湿を目的とする処方で、食欲不振・だるさ・軟便などに用いられます。山薬は脾を補い、消化吸収を助ける目的で配合されます。

Q. ふだん食べるヤマイモと同じですか?

基原は同じ、ヤマノイモ/ナガイモの根茎です。消化酵素(ジアスターゼ)や粘り成分(ムチン)を含み、消化促進・滋養強壮に役立つとされます。生薬としては、脾・肺・腎を穏やかに補う目的で用いられます。ヤマイモにアレルギーのある方は避けてください。

Q. 性味・帰経は?

性味は甘/平、帰経は脾・肺・腎とされます。胃腸を元気にして気を補い、肺をうるおし、腎を補って精気のもれを引きしめる働きがあります。

参考・出典

自分に合う漢方薬を知りたい方へ

山薬は、脾・肺・腎を穏やかに補う生薬ですが、食欲不振やだるさ、頻尿の背景は人によって異なり、向く漢方薬も変わります。自分の体質にどんな処方が合うのかを知りたい方は、AI漢方診断をご利用ください。

AI漢方診断の案内

あなたに合う漢方薬を確認しませんか?

KanpoNowでは、症状と体質をもとに、あなたに合った漢方薬の候補をAIが提案します。漢方薬剤師・堀口和彦先生の理論に基づき、AIがあなたの体質を判定します。【AI漢方診断】をご利用ください。

AI漢方診断をする

免責:本ページは生薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療・服薬指示を行うものではありません。息苦しさ、高熱、血尿や排尿痛が続く、強い脱力感などがある場合は、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。ヤマイモにアレルギーのある方は使用を避けてください。症状が長引く・悪化する場合、基礎疾患がある場合、妊娠中・授乳中、他のお薬を服用中の場合も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。