麦門冬(ばくもんどう)とは?乾いた咳や痰の少ない咳、のど口の渇きに使う生薬を体質別に解説

更新日:2026年7月11日 監修:堀口和彦
麦門冬(ばくもんどう)

麦門冬(ばくもんどう)は、ジャノヒゲの根の膨大部を乾燥した生薬です。肺を潤す働き(養陰潤肺)、肺の熱をさばき痰を整える働き(清肺化痰)、体液を生み渇きを止める働き(生津止渇)から、乾いた咳・痰が少ない咳、のどや口の渇きのケアに用いられてきました。麦門冬湯をはじめ、滋陰の代表的な処方に幅広く配合される、滋陰薬の代表的な生薬です。KanpoNowでは、この生薬を「肺と体液を潤し、乾いた咳と渇きをやわらげる生薬」として整理します。

まずは要点
  • 麦門冬(ばくもんどう)はジャノヒゲ(Ophiopogon japonicus (L.f.) Ker Gawl.)の根の膨大部を乾燥した生薬で、日本薬局方に収載されています*①②
  • 主成分は多糖類(オフィオポゴン多糖)、サポニン(ophiopogonin等)、ホモイソフラボノイドなどです*②③
  • 漢方では、肺を潤し(養陰潤肺)、肺の熱をさばき痰を整え(清肺化痰)、体液を生み渇きを止める(生津止渇)働きで用いられます*①②③
  • 湿が多く軟便・腹満が出やすい体質では悪化することがあり、用量や配合を調整します

麦門冬は半夏・人参・五味子・石膏など他の生薬と組み合わせて用いられることが多い生薬です。息苦しさ、血痰、高熱が続く、強い胸痛がある場合は自己判断で対処せず、医療機関へご相談ください。

麦門冬とは

麦門冬(ばくもんどう)は、キジカクシ科(ユリ科)ジャノヒゲ(Ophiopogon japonicus (L.f.) Ker Gawl.)の根の膨大部を乾燥させた生薬です。『神農本草経』の上品に収載される歴史ある生薬で、細い根の途中がラグビーボール状に膨らんだ塊根を用います。日本各地の林床に自生し、庭園の下草としても親しまれる身近な植物です。

漢方薬剤師の視点では、麦門冬は「滋陰薬(体液・陰を補う生薬)」に分類されます。陰液の不足による乾咳・口渇、痰が少ないが切れにくい咳、嗄声、胸の熱感などに対して用いられてきました。潤いを補いながら肺を冷まして痰を整える目的で、石膏・半夏・人参・五味子などと組み合わせます。主に肺・胃を、心を滋潤する目的として配合されることが多い生薬です。

ポイント:麦門冬は「肺と体液を潤し、乾いた咳と渇きをやわらげる」生薬です。乾いた咳・痰が少ない咳、のどや口の渇きが気になるタイプに用いられてきました。麦門冬湯をはじめ、滋陰処方に幅広く配合されるのが特徴です。

基原・成分データ

麦門冬の基本データを整理します。ジャノヒゲの根の膨大部を用いること、オフィオポゴン多糖などの成分を含むことが、用いられ方を理解する鍵になります。

麦門冬(バクモンドウ)の生薬
麦門冬の基礎データ
ジャノヒゲの根の膨大部を乾燥した生薬。肺と体液を潤し、乾いた咳と渇きをやわらげる働きがあります。
読み バクモンドウ(ジャノヒゲの根の膨大部を用いる生薬)
基原・由来 ジャノヒゲ(Ophiopogon japonicus (L.f.) Ker Gawl.)の根の膨大部(日本薬局方収載) *①②
主成分 多糖類(オフィオポゴン多糖)、サポニン(ophiopogonin等)、ホモイソフラボノイド *②③

性味・帰経でみる性質

漢方では、生薬の性質を「性味(せいみ)」と「帰経(きけい)」で捉えます。性味は味と温度の傾向、帰経は主にどの臓腑に働きかけるかを示します。麦門冬は、甘くわずかに苦く、やや冷やす性質で、心・肺・胃に働きます。

味(五味)

「甘」は体液を生み潤す味、「苦」は熱をさばく味とされます。肺と体液を潤しながら熱をさばく働きと結びつきます。

性(四気)

「やや寒」はおだやかに冷やす性質で、肺の熱をさばきながら潤いを補う方向に働きます。

帰経(働きかける臓腑)

肺に働いて乾いた咳を潤し、胃に働いて口渇を潤し、心に働いて胸の熱感をやわらげる方向に働きます。

漢方的な働きの軸

麦門冬の働きは、大きく三つの軸で整理できます。肺を潤す軸、肺の熱をさばき痰を整える軸、体液を生み渇きを止める軸が重なり、乾いた咳・のどの渇き・口渇を整えます。

肺を潤す軸 養陰潤肺 陰液を補って肺を潤し、乾いた咳・嗄声、胸の熱感をやわらげる方向に働きます。
肺の熱をさばき痰を整える軸 清肺化痰 肺にこもった熱をさばいて、痰が少ないが切れにくい咳をやわらげる方向に働きます。
体液を生み渇きを止める軸 生津止渇 体液を生んで、のどや口の渇きをやわらげる方向に働きます。
一言でいうと:麦門冬は「肺と体液を潤し、乾いた咳と渇きをやわらげる」生薬です。乾いた咳・痰が少ない咳、のどや口の渇きのタイプに輪郭がはっきりします。麦門冬湯をはじめ滋陰処方に幅広く配合されるのが持ち味です。

伝統的な使われ方

麦門冬は古くから、養陰潤肺・清肺化痰・生津止渇を目的に用いられてきました。陰液の不足による乾咳・口渇、痰が少ないが切れにくい咳、嗄声、胸の熱感などのケアに用いられてきた歴史があります。麦門冬は心・肺・胃に入り、潤いを補いながら肺を冷まして痰を整える力が特徴です。

半夏・粳米・人参・甘草・大棗などと組み合わせて、乾いた咳や痰が少ない咳、咽の渇きを整える処方(麦門冬湯)に配合されます。このほか、滋陰降火湯・辛夷清肺湯・炙甘草湯・清肺湯・温経湯など、多くの処方にも用いられます。他の生薬と組み合わせ、量や配合を調整して用いるのが一般的です。

形状・味・使われ方の体感

麦門冬は、ジャノヒゲの根の膨大部ならではの特徴をもつ生薬です。

紡錘形の塊根

細い根の途中がラグビーボール状に膨らんだ、紡錘形の塊根です。淡黄白色で、質が柔軟でやや透明感のあるものが良品とされます。

甘みとわずかな苦みでやや寒性

味は甘みがあり、わずかに苦みも感じられます。やや寒性で、肺の熱をおだやかにさばきながら潤いを補う方向に働きます。

他の生薬と組み合わせて使用

半夏・人参・五味子・石膏など、他の生薬と組み合わせて煎じ薬に配合されるのが一般的です。

体質別の向き・不向き

麦門冬は肺と体液を潤す生薬です。乾燥傾向(陰虚)の咳・渇きがあるか、逆に湿が多く軟便がちな体質でないかを見極めることが大切です。

乾いた咳・痰が少ない咳タイプ

痰が少なく粘って切れにくい咳がみられるタイプに向きます。麦門冬の中心的な使い道です。

判断ポイント:陰虚による乾いた咳。

のど・口の渇きタイプ

のどや口の渇き、嗄声のケアに用いられてきました。

判断ポイント:生津止渇の働き。

湿が多く軟便がちなタイプ

湿が多く軟便・腹満が出やすい体質では悪化することがあるため、用量や配合を調整します。

判断ポイント:配合を調整して使用。
×

血痰・重い呼吸器症状のタイプ

息苦しさ、血痰、高熱が続く、強い胸痛がある場合は自己判断で対処せず、すぐに受診してください。

判断ポイント:重症は受診優先。

安全性と受診の目安

麦門冬は処方の中で用いられる滋陰薬ですが、体質や体調により軟便・腹部不快などの消化器症状が出ることがあります。湿が多く軟便・腹満が出やすい体質では悪化することがあり、用量や配合を調整します。咳・発熱・息切れが長引く場合や、血痰・呼吸苦を伴う場合は、自己判断で対処せず医療機関へご相談ください。持病や併用薬のある方も、事前に専門家に相談してください。

  • すぐに相談:息苦しさ、血痰、高熱が続く、強い胸痛
  • 服薬中:持病や他剤を併用している場合は自己判断での継続・中止を避け、専門家へ相談する
すぐ相談:息苦しさ、血痰、高熱が続く、強い胸痛がある場合は、自己判断で続けず、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。

※このページは一般的な情報提供を目的としています。診断や治療の決定には医療専門家の判断が必要です。

症状から理解を深める

麦門冬が気になる方は、咳・喘息、口の渇きとの関係も確認すると理解が深まります。

麦門冬を含む漢方薬

麦門冬は、乾いた咳・のどの渇きを整える処方に配合されます。麦門冬の肺と体液を潤す働きが、処方の中でどう活きるかを整理しました。

よくある質問

Q. 麦門冬湯(ばくもんどうとう)との関係は?

麦門冬湯は麦門冬・半夏・粳米・人参・甘草・大棗などからなる方剤で、乾いた咳や痰が少ない咳、咽の渇きに用いられます。麦門冬は養陰潤肺・生津、半夏は痰の整え、人参・大棗は気を補う目的で配合されます。

Q. 天門冬との違いは?

どちらも滋陰潤肺の働きをもちますが、麦門冬は肺・胃・心に働き養胃生津の力もあわせもつのに対し、天門冬は肺・腎に働き滋腎の力が強いとされ、症状や体質に応じて使い分けられます。

Q. どんな体質・症状に向きますか?

乾燥傾向(陰虚)による咳やのど・口の渇き、痰が少なく粘って切れにくい場合などに向きます。湿が多く軟便がちな場合は慎重に用います。

参考・出典

自分に合う漢方薬を知りたい方へ

麦門冬は、肺と体液を潤し乾いた咳と渇きをやわらげる生薬ですが、咳や渇きの背景は人によって異なり、向く漢方薬も変わります。自分の体質にどんな処方が合うのかを知りたい方は、AI漢方診断をご利用ください。

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免責:本ページは生薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療・服薬指示を行うものではありません。息苦しさ、血痰、高熱が続く、強い胸痛がある場合は、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。症状が長引く・悪化する場合、基礎疾患がある場合、他のお薬を服用中の場合も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。