炙甘草湯とは?動悸・息切れ・脈のみだれに使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月8日 監修:堀口和彦
炙甘草湯(しゃかんぞうとう)

炙甘草湯(しゃかんぞうとう)は、『傷寒論』『金匱要略』に記される、動悸・息切れ・脈のみだれに用いられる漢方薬です。古典では「脈結代、心動悸」、つまり脈が飛ぶ・乱れる、胸がどきどきする状態に用いられてきました。KanpoNowでは、この処方を「心を動かす気、心を養う血、体を潤す津液が深く消耗したときに、胸のリズムを内側から支える漢方薬」として整理します。

炙甘草湯はこんな人に向いています
  • 疲れやすく、少し動くと動悸や息切れが出る
  • 脈が飛ぶ、乱れる、胸がバクバクする感覚がある
  • 大病後、過労後、長い消耗のあとに胸の不安定さが出る
  • 手足のほてり、口の乾き、乾燥感を伴う
  • 体力中等度以下で、気・血・潤いが不足している
  • 胃腸が極端に弱くなく、滋養性の高い処方を受け止められる

胸痛、強い息苦しさ、失神、冷汗、激しい動悸、脈の乱れが急に悪化した場合は、漢方で様子を見ず、循環器内科など医療機関に相談してください。

炙甘草湯とは

炙甘草湯は、地黄麦門冬桂皮大棗人参麻子仁生姜炙甘草(甘草)阿膠から構成される漢方薬です。

人参・大棗・炙甘草は、弱った気を補い、体力と拍動を支える土台を整えます。地黄・麦門冬・阿膠・麻子仁は、血と潤いを補い、乾いて不安定になった心身を養います。桂皮・生姜は、巡りを助け、補ったものを全身に届けます。

ポイント:炙甘草湯は、気・血・潤いが深く不足した消耗型の動悸・息切れ・脈のみだれに向く処方です。イライラ、のぼせ、便秘、実熱が中心の動悸とは分けて考えます。

古典における位置づけ

炙甘草湯は、『傷寒論』『金匱要略』に記される処方です。古典では「脈結代、心動悸」と表現され、脈が結滞する、脈が飛ぶ、胸がどきどきする状態に用いられてきました。

処方名の中心である炙甘草は、甘草を炙って補う力を高めたものです。炙甘草湯では、炙甘草を中心に、人参・大棗で気を補い、地黄・麦門冬・阿膠・麻子仁で血と潤いを補い、桂皮・生姜で巡りを助けます。

現代では、体力中等度以下で疲れやすく、ときに手足のほてりなどがある方の、動悸、息切れ、脈のみだれで比較されます。大病後や過労後、長く消耗したあとに、胸のリズムが不安定になるタイプに輪郭が出やすい処方です。

炙甘草湯らしさ:疲れている。息切れする。胸がどきどきする。脈が乱れる。手足がほてる。口が乾く。体力と潤いが同時に消耗している。この「心気虚+心血虚+陰虚」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、炙甘草湯が合う状態を、心気虚、心血虚、陰虚が重なった深い消耗状態として考えます。心臓が安定して拍動するには、動かすエネルギーである気、心を養う血、過熱を防ぐ潤いが必要です。

  • 心気虚:胸の拍動を支える力が不足し、動悸、息切れ、疲労倦怠が出る状態
  • 心血虚:心を養う血が不足し、脈の乱れ、不安感、不眠、ふらつきが出やすい状態
  • 陰虚:潤いが不足し、手足のほてり、口の乾き、熱感、乾燥感が出る状態
  • 気血津液の消耗:大病後、過労、加齢、長いストレスなどで、心身の燃料と潤滑油が足りなくなる状態

大病や過労、長い緊張状態などで気・血・潤いが消耗すると、胸の拍動を支える土台が弱り、心臓が空回りするように動悸や息切れを起こしやすくなります。炙甘草湯は、この不足した土台を補う方向で、胸の不安定なリズムを内側から支えます。

そのため炙甘草湯は、「気を補う」「血を補う」「潤いを補う」「巡りを助ける」という、滋養性の高い構成を持つ処方です。

注意:動悸や脈のみだれは、心房細動、狭心症、心不全、甲状腺疾患、貧血、電解質異常などが背景にあることがあります。急な悪化、胸痛、息苦しさ、失神、冷汗を伴う場合は、炙甘草湯で様子を見ず医療機関に相談してください。

構成生薬と配合バランス

炙甘草湯は、地黄・麦門冬・桂皮・大棗・人参・麻子仁・生姜・炙甘草・阿膠の9生薬で構成されます。人参・大棗・炙甘草で気を補い、地黄・麦門冬・阿膠・麻子仁で血と潤いを補い、桂皮・生姜で巡りを助ける、気・血・潤いを総合的に支える処方です。

炙甘草湯の構成イメージを示す円グラフです。 炙甘草湯
地黄20%
麦門冬18%
桂皮10%
大棗10%
人参10%
麻子仁10%
生姜8%
炙甘草8%
阿膠6%
炙甘草湯の内部構造
気・血・潤いを補い、巡りを助け、胸のリズムを支える構成です。
補気の軸 人参・大棗・炙甘草 消耗した気を補い、疲労、息切れ、拍動を支える力の不足を補います。
滋陰補血の軸 地黄・麦門冬・阿膠・麻子仁 血と潤いを補い、手足のほてり、口の乾き、乾燥感、心を養う不足を支えます。
温通の軸 桂皮・生姜 巡りを助け、補った気血と潤いを全身へ届け、冷えや滞りを防ぎます。

※実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:炙甘草湯は、疲労や消耗で気・血・潤いが足りなくなり、胸の拍動が不安定になった状態を、滋養しながら整える処方です。

炙甘草湯の味・香り・服用時の体感

炙甘草湯は、甘草・大棗・人参による強い甘みに、地黄・阿膠・麻子仁の重み、麦門冬の潤い感、桂皮と生姜の温かい香りが重なる処方です。軽く切れ味のある処方ではなく、滋養性が高く、どっしりした印象があります。

強い甘みと重み

炙甘草・大棗・人参の甘みに、地黄・阿膠・麻子仁のねっとりした重さが重なります。

甘く温かい香り

甘く香ばしい香りに、桂皮のシナモン様の香り、生姜の温かい香りが加わります。

褐色〜暗褐色

製品により異なりますが、粉末・顆粒では褐色から暗褐色に見えます。

胸が落ち着く感覚

合う方では、バクバク・フワフワした胸の不安定さが、内側から満たされて落ち着く感覚があります。

体験の流れ:強い甘みと重みを感じる → 胃腸が受け止めると、体がじわりと満たされる → 胸の浮き足立つ感じが落ち着く → 動悸・息切れ・脈の乱れが穏やかになる感覚。炙甘草湯は、軽い気つけ薬ではなく、深い消耗を滋養する処方です。

症状別の向き・不向き

炙甘草湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、疲労、消耗、動悸、息切れ、脈のみだれ、手足のほてり、口の乾き、胃腸が受け止められるかです。

疲労・大病後の動悸、息切れ、脈のみだれ

気・血・潤いが消耗し、胸の拍動を支える力が不足しているタイプで比較します。

判断ポイント:消耗後に胸のリズムが乱れる。

手足のほてりを伴う動悸

体力が落ち、潤いが不足し、ほてりや乾燥感を伴う動悸・息切れに向きます。

判断ポイント:気虚だけでなく陰虚がある。

甲状腺機能亢進症などに伴う消耗感

動悸、頻脈、消耗、手足のほてり、口渇などがある場合に、専門治療を前提に体質面で比較されることがあります。

判断ポイント:疾患治療を優先し、補助的に考える。

胃腸が弱く、下痢しやすい動悸

地黄・阿膠・麻子仁など滋養性の高い生薬が重く、胃もたれや下痢を起こすことがあります。

判断ポイント:補剤を消化できるか。
×

イライラ・のぼせ・便秘を伴うストレス性の動悸

気滞や実熱が中心の場合は、滋養性の高い炙甘草湯より、気を鎮め熱をさばく方向を考えます。

判断ポイント:不足か、ここもった熱か。
×

急な胸痛・強い息苦しさ・失神を伴う動悸

心疾患などの可能性があるため、漢方で様子を見ず医療機関への相談を優先します。

判断ポイント:救急性を見逃さない。

体質別の向き・不向き

炙甘草湯は、心気虚、心血虚、陰虚が重なる、深い消耗タイプに向きます。水分や老廃物が停滞しているタイプ、胃腸が極端に弱いタイプでは慎重に考えます。

心気虚+心血虚+陰虚タイプ

疲労、動悸、息切れ、脈のみだれ、ほてり、乾燥が重なる最も炙甘草湯らしいタイプです。

判断ポイント:気・血・潤いが同時に不足。

大病後・過労後の消耗タイプ

長い病気、過労、加齢などで体力と潤いが落ち、胸の拍動が不安定になったタイプです。

判断ポイント:消耗の深さ。

湿痰・湿熱タイプ

むくみ、胃もたれ、痰、舌苔が厚い、老廃物が停滞しているタイプでは、滋養が重くなることがあります。

判断ポイント:足りないのか、たまっているのか。
×

脾気虚が強く、下痢しやすいタイプ

地黄・阿膠・麻子仁が胃腸に重く、下痢や胃もたれを悪化させることがあります。

判断ポイント:胃腸が受け止められない。
×

実熱・気滞が強いタイプ

イライラ、便秘、強いのぼせ、赤ら顔、怒りっぽさが中心の場合は、補うよりさばく方向を考えます。

判断ポイント:滋養して悪化しないか。

効能・効果

炙甘草湯の効能・効果は、KanpoNowページでは次のように整理されています。

体力中等度以下で、疲れやすく、ときに手足のほてりなどがあるものの次の諸症:動悸、息切れ、脈のみだれ

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

炙甘草湯は、動悸・息切れ・脈のみだれに使われる重要な処方ですが、甘草を比較的多く含むため、安全管理が非常に大切です。また、動悸や脈の乱れは背景に心疾患や甲状腺疾患が隠れることがあるため、症状の見極めも必要です。

甘草による偽アルドステロン症への注意

炙甘草湯は甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感、不整脈などに注意します。低カリウム血症、ミオパチー、アルドステロン症がある方では特に注意が必要です。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

胃腸障害への注意

地黄、阿膠、麻子仁など滋養性・潤滑性のある生薬を含むため、胃腸が弱いい方では胃もたれ、食欲不振、悪心、下痢、腹部膨満が出ることがあります。服用後に胃腸症状が出る場合は、自己判断で続けず専門家に相談してください。

動悸・脈のみだれの受診目安

胸痛、強い息苦しさ、失神、冷汗、強いめまい、急な脈の乱れ、脈が非常に速い・遅い、動悸が急に悪化した場合は、漢方薬の適否以前に医療機関での確認が必要です。心房細動、狭心症、心不全、甲状腺機能亢進症、貧血、電解質異常などが関係することがあります。

睡眠と休息で心血を補う

炙甘草湯が合う方は、気・血・潤いが深く消耗していることが多く、薬だけでなく休息が重要です。夜更かしは血と潤いをさらに消耗し、動悸や不安感を悪化させることがあります。睡眠時間を確保し、過労を避けることが大切です。

妊娠中・授乳中・小児・高齢者

妊娠中又は妊娠している可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、医師の治療を受けている方、持病や併用薬がある方は、自己判断で服用せず専門家に相談してください。

相談・受診を優先したいサイン

  • 胸痛、圧迫感、冷汗、強い息苦しさがある
  • 失神、強いめまい、意識が遠のく感じがある
  • 脈の乱れが急に悪化した、又は動悸が長く続く
  • 脈が極端に速い、又は極端に遅い
  • 甲状腺疾患、心疾患、腎疾患、高血圧がある
  • むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、脱力感が出る
  • 胃もたれ、食欲不振、悪心、下痢が出る
すぐ相談:炙甘草湯は動悸・脈のみだれに関わる処方です。胸痛、失神、強い息苦しさ、冷汗、急な悪化がある場合は、自己判断で服用せず医療機関を優先してください。

症状から理解を深める

炙甘草湯が気になる方は、動悸、息切れ、疲労、ほてり、口の渇きとの関係を確認すると理解が深まります。

動悸に使う漢方薬でも、消耗しているのか、ストレスで高ぶっているのか、のどのつかえや不安が中心なのか、水の偏りによるめまい・動悸なのか、胃腸虚弱と疲労が中心なのかで選び方が変わります。炙甘草湯は、気・血・潤いが深く不足した消耗型の動悸に向くため、ほかの動悸・不安・疲労系の処方と比較して考えることが大切です。

よくある質問

Q. 炙甘草湯はどんな動悸に向いていますか?

体力が落ち、疲れやすく、手足のほてりや口の乾きがあり、動悸・息切れ・脈のみだれが出るタイプに向きます。気・血・潤いが不足した消耗型の動悸で比較します。

Q. 脈が飛ぶ感じにも使えますか?

古典では「脈結代、心動悸」とされ、脈が飛ぶ・乱れる状態で使われてきました。ただし、不整脈は医療機関での確認が重要です。急な悪化、胸痛、失神、強い息苦しさがある場合は受診を優先してください。

Q. 胃腸が弱くても飲めますか?

炙甘草湯は滋養性が高く、地黄・阿膠・麻子仁など胃腸に重く感じる生薬を含みます。胃もたれ、下痢、食欲不振が出る場合は、自己判断で続けず専門家に相談してください。

Q. 甘草の副作用は注意が必要ですか?

はい。炙甘草湯は甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、脱力感、低カリウム血症に注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

Q. ストレス性の動悸にも合いますか?

イライラ、のぼせ、便秘、緊張、実熱が中心の動悸では、炙甘草湯とは方向が異なることがあります。炙甘草湯は、消耗して不足した心身を補うタイプの動悸で比較します。

参考・出典

炙甘草湯が合うか迷った方へ

炙甘草湯は、動悸、息切れ、脈のみだれに使われる漢方薬ですが、すべての動悸に合うわけではありません。消耗して気・血・潤いが不足しているのか、ストレスや実熱で胸が高ぶっているのか、心疾患や甲状腺疾患など医療機関で確認すべき状態ではないかを見極めることが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。胸痛、強い息苦しさ、失神、冷汗、急な脈の乱れ、動悸の急な悪化がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後にむくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、脱力感、胃部不快感、食欲不振、悪心、下痢などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。