沈香(じんこう)とは?冷えの胸腹部のつかえ痛み・吐き気しゃっくり・腎の衰えの息切れに使う香木の生薬を体質別に解説

沈香(じんこう)は、白檀とともに香道で親しまれてきた高貴な香木であり、生薬でもあります。ジンチョウゲ科ジンコウの木に長い年月をかけて沈着した樹脂を用い、気をめぐらせて痛みを止め、胃を温めて吐き気を止め、腎を温めて気を納める働き(行気止痛・温中止嘔・温腎納気)から、冷えをともなう胸腹部のつかえ・痛み、胃の冷えによる吐き気・しゃっくり、腎の衰えによる息切れ・喘のケアに用いられてきました。KanpoNowでは、この生薬を「気を降ろしめぐらせ、温めて整える香木の生薬」として整理します。
- 沈香(じんこう)はジンチョウゲ科ジンコウ(Aquilaria agallocha 等)の樹脂が沈着した木材を用いる生薬で、行気止痛・温中止嘔・温腎納気(降気平喘)のはたらきが知られます。冷えをともなう胸腹部のつかえ・痛み、吐き気・しゃっくり、腎の衰えによる息切れなどに配合されます
- 主成分は精油(ベンジルアセトン、メトキシベンジルアセトン、テルペンアルコール等)で、鎮静・鎮痛作用が期待されます
- 漢方では、気をめぐらせて痛みを止め(行気止痛)、胃を温めて吐き気を止め(温中止嘔)、腎を温めて気を納め呼吸を落ち着ける(温腎納気・降気平喘)働きで用いられます
- 香道の香木「伽羅(きゃら)」としても知られ、正倉院の「蘭奢待」が有名です
沈香は温めてめぐらせる性質があり、うるおい不足で乾いて熱をもつ方(陰虚・実熱)には向きません。強い胸痛・腹痛、吐血・下血、長引く息切れ・呼吸苦などがある場合は、別の原因の確認が必要です。自己判断で対処せず、医療機関へご相談ください。
沈香とは
沈香(じんこう)は、ジンチョウゲ科のジンコウ(Aquilaria agallocha Roxb.)や白木香(Aquilaria sinensis)などの材のうち、黒色の樹脂が沈着した部分を乾燥させた生薬で、香木としても知られます。ジンコウ属の木は、風雨・病気・害虫などで木部を傷つけられると、防御のために内部に樹脂を分泌します。この樹脂が長い年月をかけて沈着した部分を、木部を削り取って用います。原木は軽くて水に浮きますが、樹脂が沈着した部分は比重が増して水に沈むことから「沈香」と名づけられました。樹齢30年を経ないと樹脂の沈着は起こらず、良質なものには100年以上を要します。とくに質の良いものは「伽羅(きゃら)」と呼ばれ、非常に貴重です。
漢方薬剤師の視点では、沈香は「行気薬(気をめぐらせる生薬)」に分類されます。気をめぐらせて痛みを止め(行気止痛)、胃を温めて吐き気を止め(温中止嘔・降逆調中)、腎を温めて気を納め呼吸を落ち着けます(温腎納気・降気平喘)。冷えと気の滞り(寒凝気滞)による胸腹部のつかえ・脹痛、胃の冷えによる嘔吐・しゃっくり、腎の衰え(下元虚冷・腎不納気)による虚の喘息・息切れなど、上が実して下が虚した状態(上盛下虚)に用いられます。丁香柿蒂湯・喘四君子湯などに配合されます。日本書紀には、推古天皇の時代に淡路島に沈香が漂着した記録があります。
基原・成分データ
沈香の基本データを整理します。精油を含むこと、行気薬に分類されることが、用いられ方を理解する鍵になります。

性味・帰経でみる性質
漢方では、生薬の性質を「性味(せいみ)」と「帰経(きけい)」で捉えます。性味は味と温度の傾向、帰経は主にどの臓腑に働きかけるかを示します。沈香は、辛く苦く、ほんのり温かい微温で、脾・胃・腎に働きます。
「辛」は発散させめぐらせる味、「苦」は下げる味とされます。芳香とともに、気をめぐらせ、逆上した気を降ろす働きと結びつきます。
「微温(ほんのり温)」は穏やかに温める性質で、冷えて滞った気・胃・腎をあたためて、めぐらせ納める方向に働きます。
脾・胃を温めて気をめぐらせ吐き気を止め、腎を温めて気を納め呼吸を落ち着ける方向に働きます。胸腹部のつかえ・痛み・吐き気・息切れに関わります。
漢方的な働きの軸
沈香の働きは、大きく三つの軸で整理できます。気をめぐらせて痛みを止める軸、胃を温めて吐き気を止める軸、腎を温めて気を納める軸が重なり、冷えと気の滞り・逆上を整えます。
伝統的な使われ方
沈香は古くから、行気止痛・温中止嘔・温腎納気を目的に用いられてきました。冷えと気の滞り(寒凝気滞)による胸腹部のつかえ・脹痛、胃の冷えによる嘔吐・しゃっくり・げっぷ、腎の衰え(下元虚冷・腎不納気)による虚の喘息・息切れ・呼吸のせわしさなど、上が実して下が虚した状態(上盛下虚)のケアに用いられてきた歴史があります。精油には鎮静・鎮痛作用が期待され、近年はアロマや線香としても、気持ちを落ち着けるものとして親しまれています。
丁香(丁子)・柿蒂などと組み合わせて、胃の冷えによるしゃっくり・嘔吐を整える処方(丁香柿蒂湯)、四君子湯に沈香などを加えて、気虚に気の逆上をともなう喘・息切れを整える処方(喘四君子湯)に配合されます。また、木香・縮砂などとともに沈香降気湯・沈香湯として、気の滞りによる胸腹部のつかえ・痛みに用いられてきました。香りが命の生薬であり、精油が飛ばないよう、粉末にして煎じ液に振り込む、または後から加えるなどの工夫がされます。
形状・香り・使われ方の体感
沈香は、香りが最大の特徴の、貴重な香木の生薬です。
樹脂の沈着した重い木片
黒褐色〜暗褐色の、樹脂が沈着した重い木片。樹脂が多く、質が重く、水に沈むものが良品とされます。良質のものは「伽羅(きゃら)」と呼ばれます。
深く上品な芳香
温めると、深く上品な独特の芳香が立ちます。白檀とともに香道で最も尊ばれる香木で、この香り(精油)が、気をめぐらせ落ち着ける働きの中心です。
粉末・後入れで香りを生かす
香りが飛びやすいため、粉末にして服用する、煎じ液に振り込む、後から加えるなどして香りを生かします。線香・アロマとしても親しまれています。
体質別の向き・不向き
沈香は温めてめぐらせ、気を納める生薬です。冷えと気の滞り・逆上があるか、逆にうるおい不足で乾いて熱をもっていないかを見極めることが大切です。
冷えの胸腹部のつかえ・痛み、吐き気・しゃっくり
冷えと気の滞りによる胸腹部のつかえ・脹痛、胃の冷えによる吐き気・しゃっくりが出るタイプに向きます。沈香の中心的な使い道です。
判断ポイント:冷えのつかえ・痛み・吐き気。腎の衰えによる息切れ・虚の喘
腎の衰え(腎不納気)による虚の喘息・息切れ・呼吸のせわしさのケアに用いられてきました。上盛下虚のタイプで候補になります。
判断ポイント:動くと息切れ・呼吸がせわしい。気の巡りは良いが体力が乏しい方
めぐらせ降ろす性質があるため、気虚が強い場合は補気薬とあわせて用います。単独では用いず、証に応じて組み合わせるのが一般的です。
判断ポイント:体力が乏しければ補気薬と併用。うるおい不足で乾いて熱をもつ方
温める性質のため、うるおい不足で乾いて熱をもつ方(陰虚・実熱)、のぼせ・ほてり・から咳の強い方には向きません。
判断ポイント:乾き・ほてりが強ければ向かない。安全性と受診の目安
沈香は芳香性の行気薬として穏やかに用いられますが、温める性質があり、うるおい不足で乾いて熱をもつ方(陰虚・実熱)には向きません。強い胸痛・腹痛、吐血・下血、長引く息切れ・呼吸苦、体重減少をともなう症状などがある場合は、心臓・消化管・呼吸器の病気が背景にあることもあるため、自己判断で対処せず、医療機関へご相談ください。妊娠・授乳中や持病・併用薬のある方は、事前に専門家に相談してください。
- すぐに相談:強い胸痛・腹痛、吐血・下血、安静時の息切れ、体重減少
- 服薬中:症状が改善しない/悪化する場合は中止し受診する。妊娠・授乳中・持病・他剤併用がある場合は専門家に相談する
※このページは一般的な情報提供を目的としています。診断や治療の決定には医療専門家の判断が必要です。
症状から理解を深める
沈香が気になる方は、腹痛、食欲不振、咳・喘息との関係も確認すると理解が深まります。
沈香を含む漢方薬
沈香は、冷えと気の滞り・逆上を整える処方に配合されます。沈香の気を降ろしめぐらせ温める働きが、処方の中でどう活きるかを整理しました。
※お使いの製品にどの生薬が含まれるかは、製品の添付文書・成分表示をご確認ください。処方の選択や併用については、薬剤師・登録販売者など専門家にご相談ください。
よくある質問
Q. 「伽羅(きゃら)」と沈香は違うものですか?
伽羅は、沈香のうち、とくに質の良いものを指す呼び名です。沈香は香りや産地によって「伽羅」「奇楠香」などに分類され、伽羅は最上級とされ、非常に貴重です。生薬としては、いずれも沈香として同様に扱われます。
Q. なぜ「沈む香」と書くのですか?
ジンコウの原木は軽く水に浮きますが、樹脂が沈着した部分は比重が増して水に沈みます。この「水に沈む香木」であることが、沈香の名の由来です。樹脂の沈着には30年以上、良質なものには100年以上を要します。
Q. 性味・帰経は?
性味は辛・苦/微温、帰経は脾・胃・腎とされます。気をめぐらせて痛みを止め、胃を温めて吐き気を止め、腎を温めて気を納め呼吸を落ち着ける働きがあります。
参考・出典
自分に合う漢方薬を知りたい方へ
沈香は、気を降ろしめぐらせ、温めて整える生薬ですが、つかえや痛み、吐き気、息切れの背景は人によって異なり、向く漢方薬も変わります。自分の体質にどんな処方が合うのかを知りたい方は、AI漢方診断をご利用ください。

あなたに合う漢方薬を確認しませんか?
KanpoNowでは、症状と体質をもとに、あなたに合った漢方薬の候補をAIが提案します。漢方薬剤師・堀口和彦先生の理論に基づき、AIがあなたの体質を判定します。【AI漢方診断】をご利用ください。
AI漢方診断をする免責:本ページは生薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療・服薬指示を行うものではありません。強い胸痛・腹痛、吐血・下血、長引く息切れ・呼吸苦、体重減少をともなう症状などがある場合は、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。うるおい不足で乾いて熱をもつ方には向きません。症状が長引く・悪化する場合、基礎疾患がある場合、妊娠中・授乳中、他のお薬を服用中の場合も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。
堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師
光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。
著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。