腸癰湯とは?盲腸部の痛み・下腹部痛・月経痛に使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月9日 監修:堀口和彦

腸癰湯(ちょうようとう)は、盲腸部に急性または慢性の痛みがあるもの、あるいは月経痛に用いられる漢方薬です。古典の「腸癰」は、下腹部に湿熱・瘀血・腫れ・化膿傾向がこもった状態を指します。現代では、急な右下腹部痛や発熱、反跳痛がある場合は虫垂炎などの急性腹症を疑い、漢方で様子を見るのではなく医療機関受診を優先します。KanpoNowでは、この処方を「下腹部にこもった湿熱と瘀血を、排膿・消腫・活血の方向で整える漢方薬」として整理します。

腸癰湯はこんな人に向いています
  • 盲腸部、右下腹部、下腹部に痛みや違和感がある
  • 慢性的な下腹部の重だるさ、圧痛、こわばりが残る
  • 月経痛があり、下腹部に固定性の痛みや瘀血感がある
  • 下腹部に湿熱・腫れ・膿のようなこもりを感じる
  • 大黄や芒硝で強く下す処方が合いにくい場合に比較したい

右下腹部の激痛、発熱、吐き気、反跳痛、歩くと響く痛み、腹部が硬い、冷汗、血便がある場合は、漢方薬を選ぶ前に医療機関へ相談してください。

腸癰湯とは

腸癰湯は、薏苡仁冬瓜子桃仁牡丹皮から構成される漢方薬です。

大黄牡丹皮湯と同じく、古典的な「腸癰」を背景に持つ処方ですが、腸癰湯には大黄・芒硝は含まれません。強く便通をつけて下すよりも、薏苡仁・冬瓜子で排膿と消腫を助け、桃仁・牡丹皮で瘀血を動かす、比較的シンプルな4味構成です。

ポイント:腸癰湯は、強い下剤で一気に攻める処方ではありません。下腹部にこもった湿熱・腫れ・膿の傾向と、血の滞りによる痛みを、排膿・消腫・活血の方向で整える処方です。

古典における位置づけ

腸癰湯は、「腸癰」という古典病態に関係する処方です。腸癰とは、腸や下腹部に腫れ、熱、痛み、膿のようなこもりが生じた状態を指す言葉です。古典では、下腹部を押すと痛む、腫れて熱を持つ、化膿へ向かうような状態を、湿熱と瘀血が絡んだ病態として捉えました。

一方で、現代では「腸癰=虫垂炎」と単純に置き換えて、自己判断で漢方薬を使うべきではありません。急性虫垂炎、限局性腹膜炎、婦人科系の急性炎症、腸管の急性炎症などは、検査・抗菌薬・手術を含む西洋医学的対応が必要になることがあります。

したがって本ページでは、古典的な考え方を尊重しつつ、現代の安全管理として、急性腹症が疑われる場合は医療機関受診を最優先する前提で整理します。

腸癰湯らしさ:下腹部に湿熱と瘀血がこもり、押すと痛い、重だるい、月経痛が強い、炎症後の違和感が残る。こうした「下腹部のこもり」を、排膿・消腫・活血で整える処方です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、腸癰湯が合う状態を、湿熱、血瘀、腫れ、膿の傾向が下腹部にこもった状態として考えます。血が滞ると「不通則痛」とされ、通じないところに固定性の痛みが生じます。そこに湿熱が加わると、腫れ、熱感、炎症感、膿のようなこもりが強くなります。

  • 血瘀:古い血が下腹部や骨盤内に滞り、刺すような固定痛や月経痛を起こす状態
  • 湿熱:余分な湿と熱が絡み、腫れ、重だるさ、炎症感、膿のような停滞を生む状態
  • 排膿・消腫:こもったものを外へ導き、腫れや圧痛をやわらげる方向
  • 活血:血の滞りをほどき、固定性の痛みやこわばりを整える方向

薏苡仁と冬瓜子は、湿や膿のようなこもりを外へ導き、腫れを引かせる方向で働きます。桃仁と牡丹皮は、血の滞りを動かし、下腹部の固定痛や月経痛に配慮します。

そのため腸癰湯は、「膿や腫れを外へ導く」「瘀血を動かす」「湿熱のこもりをほどく」という3つの方向を持つ処方です。

最重要:右下腹部の激しい痛み、発熱、吐き気、反跳痛、歩くと響く痛み、腹部が硬い、冷汗、血便、妊娠の可能性がある下腹部痛では、腸癰湯で様子を見ず、救急外来・消化器外科・婦人科など医療機関に相談してください。

構成生薬と配合バランス

腸癰湯は、4種類の生薬で構成されます。コタロー医療用製剤では、1日量6.0g中、薏苡仁9.0g、冬瓜子6.0g、桃仁5.0g、牡丹皮4.0gの混合生薬より抽出した水製乾燥エキス3.7gを含みます。

腸癰湯の構成を、薏苡仁38%、冬瓜子25%、桃仁21%、牡丹皮16%として合計100%で示した構成イメージです。 腸癰湯
薏苡仁38%
冬瓜子25%
桃仁21%
牡丹皮16%
腸癰湯の内部構造
排膿・消腫を中心に、瘀血を動かして下腹部のこもりを整える構成です。
排膿・消腫の軸 薏苡仁・冬瓜子 湿や膿のようなこもりを外へ導き、腫れや圧痛をやわらげる方向を持ちます。
活血・駆瘀血の軸 桃仁・牡丹皮 骨盤内や下腹部の瘀血を動かし、固定性の痛みや月経痛を整えます。
穏やかに整える軸 大黄・芒硝を含まない 強い瀉下ではなく、排膿・消腫・活血を中心に下腹部の停滞をほどきます。

※円グラフは、腸癰湯の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:腸癰湯は、下腹部にこもった湿熱・腫れ・膿の傾向を、薏苡仁・冬瓜子で外へ導き、桃仁・牡丹皮で瘀血を動かす処方です。

腸癰湯の味・香り・服用時の体感

腸癰湯は、やや苦味があり、牡丹皮や桃仁に由来する独特の香りを感じる処方です。大黄牡丹皮湯のような大黄・芒硝の強い苦味や塩味感はありませんが、下腹部のこもりを動かす処方らしい、やや重く土っぽい印象があります。

やや苦い

牡丹皮・桃仁の苦味に、薏苡仁の穏やかな穀物感が重なります。

特異な漢方香

牡丹皮のツンとした香りと、桃仁の油分を思わせる香りがあります。

淡褐色

製品により異なりますが、細粒・顆粒では淡褐色寄りに見えます。

こもりが抜ける感覚

合う方では、下腹部の重だるさ、圧痛、熱っぽいこもりが少しずつ軽くなる感覚があります。

体験の流れ:やや苦味を感じる → 下腹部の重だるさやこわばりが動く → 圧痛や違和感が少しずつ抜ける感覚。腸癰湯は、強く下剤で出すというより、腫れ・湿・瘀血の停滞をほどく処方です。

症状別の向き・不向き

腸癰湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、下腹部痛、盲腸部の痛み、圧痛、月経痛、瘀血、湿熱、発熱の有無、反跳痛、妊娠可能性です。

盲腸部の慢性的な痛み・違和感

急性症状が強くなく、盲腸部や右下腹部に慢性的な痛みや圧痛が残る場合に比較します。

判断ポイント:急性腹症ではないことを確認。

月経痛・下腹部の固定痛

瘀血が絡み、下腹部に固定性の痛み、こわばり、押すと痛い感じがある場合に比較します。

判断ポイント:下腹部の瘀血と圧痛。

炎症後の下腹部の重だるさ

急性の激しい痛みは落ち着いた後も、内部にこもったような違和感や重だるさが残る場合に比較します。

判断ポイント:腫れ・湿・瘀血の残り。

便秘を伴う強い実熱の下腹部痛

便秘、熱感、張りが強い場合は、大黄・芒硝を含む大黄牡丹皮湯の領域かどうかを比較します。

判断ポイント:強く下す必要があるか。
×

右下腹部の激痛・発熱・反跳痛

虫垂炎、腹膜炎、婦人科急性疾患などの可能性があります。漢方薬ではなく医療機関を優先します。

判断ポイント:救急性のある腹痛を見逃さない。
×

冷えて痛む腹痛・水様性下痢

温めると楽になる冷え腹、水様性下痢、虚弱が中心の場合は方向が異なります。

判断ポイント:湿熱か、冷えか。

体質別の向き・不向き

腸癰湯は、下腹部に湿熱と瘀血がこもるタイプに向きます。大黄・芒硝を含まないため大黄牡丹皮湯より瀉下の印象は穏やかですが、桃仁・牡丹皮を含むため、妊娠中や妊娠可能性がある方では自己判断を避けます。

血瘀+湿熱タイプ

下腹部に固定痛、圧痛、熱っぽいこもり、腫れのような感じがあるタイプです。

判断ポイント:瘀血と湿熱が同時にある。

慢性化した下腹部違和感タイプ

急性期の激しい痛みではなく、内部に残った重だるさ、圧痛、こわばりが続くタイプです。

判断ポイント:慢性化した停滞。

月経痛・骨盤内瘀血タイプ

月経時の下腹部痛、固定痛、血の巡りの悪さがある場合に、婦人科受診も含めて比較します。

判断ポイント:月経痛と瘀血。

胃腸虚弱・下痢しやすいタイプ

大黄は含みませんが、体質により胃部不快感や下痢が出ることがあります。

判断ポイント:服用後の胃腸反応。
×

妊娠中・妊娠の可能性がある方

桃仁・牡丹皮を含むため、流早産の危険性に注意が必要です。自己判断で服用しないでください。

判断ポイント:妊娠可能性の確認が必須。

効能・効果

腸癰湯の効能・効果は、代表的には次のように整理できます。

盲腸部に急性または慢性の痛みがあるもの、あるいは月経痛のあるもの。

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

腸癰湯は、盲腸部の痛みや月経痛に用いられる処方ですが、急性腹症の見逃し、妊娠可能性、胃腸症状に注意が必要です。

急性腹症を見逃さない

右下腹部の激しい痛み、発熱、吐き気、反跳痛、歩くと響く痛み、腹部が硬い、冷汗、血便がある場合は、虫垂炎、腹膜炎、腸閉塞、婦人科急性疾患などの可能性があります。腸癰湯で様子を見ず、医療機関に相談してください。

妊娠中・妊娠の可能性がある方への注意

腸癰湯には桃仁と牡丹皮が含まれます。添付文書では、妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましいとされ、流早産の危険性が示されています。妊娠可能性がある下腹部痛では、自己判断せず婦人科を含めて確認してください。

胃腸症状への注意

体質や体調により、胃部不快感、下痢などが出ることがあります。服用後に腹痛、下痢、食欲不振、胃部不快感が強く出る場合は、服用を中止して専門家に相談してください。

授乳中・小児・高齢者

授乳中の方は、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を踏まえて、医師・薬剤師に相談してください。小児では臨床試験が実施されていないため、自己判断を避けます。高齢者では一般に生理機能が低下しているため、慎重に扱います。

相談・受診を優先したいサイン

  • 右下腹部の激しい痛み、発熱、吐き気、反跳痛がある
  • 歩くと腹部に響く、腹部が硬い、冷汗が出る
  • 血便、黒色便、強い下痢、強い腹痛がある
  • 妊娠中、妊娠の可能性がある、授乳中
  • 月経痛が急に強くなった、出血量が多い、発熱を伴う
  • 服用後に胃部不快感、下痢、腹痛が強く出る
  • 症状が改善しない、または悪化する
すぐ相談:急な右下腹部痛、発熱、反跳痛、吐き気、歩くと響く痛み、妊娠可能性がある下腹部痛は、腸癰湯ではなく医療機関を優先してください。

症状から理解を深める

腸癰湯が気になる方は、腹痛、便秘、生理不順・PMS、冷え、症状一覧から関連症状を確認すると理解が深まります。

下腹部痛や月経痛に使う漢方薬でも、便秘を伴う実熱か、湿熱・瘀血か、冷えか、虚弱かで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 腸癰湯は虫垂炎に使えますか?

古典では腸癰に関係する処方ですが、現代では虫垂炎が疑われる症状を自己判断で漢方対応するべきではありません。右下腹部痛、発熱、吐き気、反跳痛がある場合は、すぐ医療機関で確認してください。

Q. 大黄牡丹皮湯との違いは何ですか?

大黄牡丹皮湯には大黄・芒硝が含まれ、便秘と実熱を下へ通す力が強い処方です。腸癰湯は大黄・芒硝を含まず、薏苡仁・冬瓜子による排膿・消腫と、桃仁・牡丹皮による活血を中心にします。

Q. 生理痛にも使えますか?

効能・効果には月経痛が含まれます。ただし、急に強くなった月経痛、発熱、出血量の増加、妊娠可能性がある下腹部痛では、婦人科での確認を優先してください。

Q. 妊娠中に飲めますか?

自己判断で飲まないでください。桃仁・牡丹皮を含み、添付文書でも妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないことが望ましいとされています。

Q. 下痢しやすい人でも飲めますか?

慎重に考える必要があります。副作用として胃部不快感、下痢等が報告されています。胃腸が弱い方、下痢しやすい方は専門家に相談してください。

参考・出典

  • PMDA「医療用医薬品 添付文書等情報検索」
  • PMDA「N320コタロー腸癰湯エキス細粒」添付文書
  • KanpoNow「腸癰湯(ちょうようとう)」既存情報
  • 古典:『金匱要略』腸癰関連記載、および腸癰湯・瓜子仁湯関連資料
  • 公益社団法人 東京生薬協会・富山大学 和漢医薬学総合研究所等の生薬資料

腸癰湯が合うか迷った方へ

腸癰湯は、盲腸部の痛み、下腹部痛、月経痛に使われる漢方薬ですが、すべての腹痛に合うわけではありません。特に急な右下腹部痛や発熱を伴う場合は、漢方選びよりも医療機関での確認が優先です。慢性的な下腹部の違和感、瘀血、湿熱、月経痛が中心なのか、受診が必要な急性腹症なのかを見極めることが大切です。

AI漢方診断の案内

あなたに合う漢方薬を確認しませんか?

KanpoNowでは、症状と体質をもとに、あなたに合った漢方薬の候補をAIが提案します。腸癰湯が合うタイプか、大黄牡丹皮湯・薏苡仁湯・麻杏薏甘湯など別の処方を考えた方がよいタイプかを確認したい方は、【AI漢方診断】をご利用ください。

AI漢方診断をする

免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。右下腹部の激しい痛み、発熱、吐き気、反跳痛、歩くと響く痛み、腹部が硬い、冷汗、血便、黒色便、強い月経痛、妊娠可能性がある下腹部痛がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後に胃部不快感、下痢、腹痛、食欲不振などがある場合も、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、下痢しやすい方、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

FREE / AI DIAGNOSIS
体質チェック・AI漢方診断
漢方薬剤師・堀口和彦先生の理論に基づき、
AIがあなたの体質を判定し、最適な漢方薬を提案します。
AI漢方診断をはじめる

漢方薬一覧へ

堀口和彦(漢方薬剤師) 監修:堀口 和彦(漢方薬剤師)

執筆: KanpoNow編集部

※本ページは一般的な情報提供を目的としています。個別の診断・治療を目的とするものではありません。