
漢方・東洋医学の「8つの体質」についてご説明します
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著者:堀口和彦(東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師)|更新日:2025-08-30
東洋医学でいう体質とは、体内を巡る「気(き)・血(けつ)・水(すい)・精(せい)」の働きによって形成された心身の状態を指します。
「気滞体質・気虚体質・血瘀体質・血虚体質・湿痰体質・陰虚体質・湿熱体質・陽虚体質」の8つに分類されます。加えて、気血水精の偏りが少ない健康な状態と言われる「中庸体質」があります。
次の表に、8つの体質の特徴と「一言で表すとどんな感じの人」をまとめました。
この体質は、漢方や東洋医学で用いられる概念であり、患者さんへの治療を進めるための重要な判断材料になります。
よろしければ、こちらも参考にしてください。
→漢方や東洋医学で用いる「8つの健康状態」をやさしく解説します
気滞(きたい)体質とは、心身を動かす気が充満し停滞して起こった体質をいいます。
気虚(ききょ)体質とは、心身を動かす気が不足して起こった体質をいいます。
血瘀(けつお)体質とは、心身の老廃物を運ぶ血の流れが悪く、全身や部分的に血が余剰し停滞して起こった体質をいいます。
血虚(けっきょ)体質とは、心身に酸素と栄養分を供給する血が不足して起こった体質をいいます。
湿痰(しったん)体質とは、心身を潤す水が過剰となり、湿や痰が停滞して起こった体質をいいます。
陰虚(いんきょ)体質とは、心身を潤しそれらの働きを円滑にする水が不足し皮膚、筋肉、神経や内臓の細胞の働きが低下して起こった体質をいいます。
湿熱(しつねつ)体質とは、心身を維持成長させる精が過剰にあり、湿と熱が停滞して起こった体質をいいます。「ドロドロさん」
陽虚(ようきょ)心身を維持成長させる原動力となる精が不足して、身体の動きや精神活動が低下して起こった体質をいいます。
これらの8つの体質は、ご自身の心や体のバランスを整えるために重要な役割を果たします。ご自身の健康チェックの一つとしてご利用ください。
次のページでは、簡単なチェックであなたの体質を判定しグラフ化します。
所要時間は約1分・無料
ここからは、8つの体質を簡単に説明してまいります。
目次
1. 健康な体質とは
健康な体質とは、東洋医学では、「気・血・水・精」が過不足なくバランスよく存在し、体内を滞ることなく循環している状態のことで、「中庸(ちゅうよう)体質」といいます。中庸体質が、目標とする健康体質と言えます。
さて、そもそも体質はどのように形成されるのでしょうか。
一つは、生まれ持っての性質です。もう一つは、生後に形成されたもので、食生活やハードワークによる過労そして感情の起伏などが原因でできた性質です。これらが合わさって体質が形成されます。
なお、気力と体力が十分に備わっていれば、ご自身が持つ自然治癒力によってバランスを取り戻すことができますが、自然治癒力が弱かったり偏った生活が長く続いたりすれば復元が困難になっていきます。
それが進むと、病気になっていきます。病気になってから体質を改善しようとすると、とても時間がかかってしまいます。
できれば、病気が初期の状態、望ましいのは病気が発生する前(漢方では未病と言います。)に偏った体質を確認できれば、体質に合った改善方法を実践いただきながら、生活習慣を見直すなどしてバランスを取り戻すことが可能になります。
なお、生粋の体質や長い期間の偏った体質を改善しようとする場合は、漢方薬を一定期間服用するなど時間をかけて体質改善を図ることをおすすめします。
2. 体質の基礎となる4成分
生命の営みを維持するためには、食べものや空気などを外部から取込む必要があります。それを媒介する「気・血・水・精」の4成分が、バランス良く体の内外で交換することで、人は生命の恒常性を維持しています。
「気」は生命エネルギー
気は、大気中の酸素と大地から得られる栄養素から作られます。運動する筋肉や思考する大脳、血液を循環させる心臓など生命を営む働きは、すべて気によって行なわれています。
「血」は血液
血は、気と精が協力して骨髄などで作られます。全身の細胞に酸素と栄養分を送り込み、さらに二酸化炭素と老廃物を回収します。二酸化炭素は肺で大気中に、老廃物は大便として排出されます。
「水」は体液
水は、血液以外の体液で細胞内液も含みます。リンパ液や組織間液、脳脊髄液、関節腔液としての水は、皮膚や粘膜、結合組織を潤します。細胞内液としての水は、内臓や器官などの細胞を潤します。不要な水は、尿として排泄されます。
「精」はホルモン
精は、気と血が協力して脳下垂体や副腎、生殖器などで作られます。成長や代謝、生殖など生命活動を維持調整しています。
3. 体質改善に必要な漢方薬の選定
頭痛やめまいなどの症状があったり、病気になってしまっている方が漢方薬を服用したいとなった場合に、注意が必要です。
これまでお示ししたように、漢方薬は、病名や症状だけで決めるのではなく、その人の持つ根本的な原因を見出し治療していくことを本意にしているのです。現にある症状だけでなく、その人の体質に合った(その体質を改善するための)漢方薬を選ぶ必要があります。
漢方薬は、自然の生薬から構成されたものですが、薬であることに違いはありません。当然のことですが、体質に合わない漢方薬を服用すると副作用の恐れがあります。
4. 体質に合った漢方薬
また、これまで診てきた患者さんを例にすると、通常2~3の体質を併せ持っている方が多いです。
例えば、「気滞と湿熱」の体質が共存している例です。気滞の特徴であるイライラ感と湿熱の熱感が相まって、ストレス時の異常発汗が増強されることがあります。「気滞と陰虚」が共存する場合は、精神的な症状が増強され感情が激しくなります。
「気滞と気虚」が共存して、躁鬱的な状態を示すこともあります。「血瘀と血虚」が共存する場合は、頭部では血が停滞し下肢では血が不足するように身体の部分で違った状態を示します。
さらに病気の進行に伴って、体質が変化していくこともよく起こります。例えば、「気滞と湿熱」の体質が共存している方は、イライラ熱感と異常発汗が長期間続くことで、体液を消耗して水が不足した陰虚の体質に傾いていくことがあります。
「湿痰」の体質の方が風邪を引き発熱して、咽頭や気管の炎症が長引き「湿熱」の体質に変化することもあります。
このように、単純に体質は一つに割り切れるものではないということをご理解ください。
5. 体質の種類
ここからは、それぞれの体質について解説いたします。
① 気滞体質
気滞とは、こころとからだを動かす気が充満し停滞している状態です。ストレスが多く、イライラして落ち着かず、あちらこちらで痛みを感じます。さらに痛みなどの場所が変化しやすいことが特徴です。
この体質の方を一言でいうと、「イライラさん」です。
自律神経のバランスが失調して、発汗や体温調整、血圧調整、排便コントロールが乱れ、呼吸器や消化器、循環器などの臓器に影響が出ることがあります。エネルギーとなる気が多く存在するので、症状は強く激しく感じることが多いのが特徴です。
→気滞が肺・胃・大腸・肝にある方の体質改善の方法をお伝えします
主な症状
- のどの違和感
- 胸苦しさ
- 胸やけ
- お腹の張り
- げっぷ
- おなら
- 腹痛
- のぼせ
- イライラ
- 動悸
- 目の充血
- 不眠
② 気虚体質
気虚とは、こころとからだを動かす気が不足した状態です。
この体質の方を一言でいうと、「ヘロヘロさん」です。
人間が生きるために最も重要なエネルギーである気が不足しています。口数が少なく、声や表情に元気がありません。仕事や家事などですぐにだるさを感じ、ため息が出ます。過労時には動悸や息切れを感じることもあります。
平素もなんとなく手足がだるく、力が入らないことが多いのも特徴です。胃腸を働かせる力も不足して、消化不良や多く食べられないことが多いです。日ごろ元気な人でも、家族の介護や看病などで心身ともに疲れ果てた時には、気虚になることがあります。
主な症状
- 疲れやすい
- 食欲不振
- 消化不良
- 手足のだるさ
- 動悸
- 息切れ
- 風邪を引きやすい
- 立ちくらみ
- 低血圧
③ 血瘀体質
血瘀とは、こころとからだの老廃物を運ぶ血の流れが悪く、全身または部分的に血が余剰して停滞している状態です。
この体質の方を一言でいうと、「シブシブさん」です。
酸素を運ぶ赤血球や出血を防ぐ血小板は過剰な傾向があり、これによっても血液の粘性が増加して流れづらくなります。動脈や静脈、毛細血管に汚れが沈着して、血管は硬く狭くなり、心臓への負担が大きくなります。
骨盤内の血行が悪くなり古血が停滞すると、子宮や卵巣の働きを阻害します。老廃物の多い古血の影響は、肌や皮膚、歯茎などにも現れます。
→血瘀が心(血管)・三焦(骨盤)・肺(皮膚)にある方の体質改善の方法をお伝えします
主な症状
- 動脈硬化
- 高血圧
- 肩こり
- 頭痛
- 生理痛
- 生理不順
- 子宮筋腫
- 静脈瘤
- しみ
- そばかす
- ニキビ
- 歯肉炎
④ 血虚体質
血虚とは、こころとからだに酸素と栄養分を供給する血が不足した状態です。
この体質の方を一言でいうと、「フラフラさん」です。
心身に酸素と栄養分を供給する血が不足しています。酸素と栄養分を大量に必要とする臓器や器官に支障が生じます。脳では記憶力の低下や精神疲労を生じ、子宮卵巣では生理痛や月経困難、皮膚や毛髪では艶がなく肌荒れや脱毛が起こります。
主な症状
- 生理痛
- 月経過多
- 不正出血
- 貧血
- 疲れ目
- 睡眠障害
- 不眠
- 多夢
- 浅い眠り
- 精神不安
- 心配
- 不安
- 落ち着かない
- 物忘れ
- 認知
⑤ 湿痰体質
湿痰とは、こころとからだを潤す水が過剰となり、湿や痰が停滞している状態です。
この体質の方を一言でいうと、「タプタプさん」です。
湿とは、体液やリンパ液、消化液などの液体成分である水が停滞したものです。痰は、消化器や呼吸器に停滞した湿です。これら湿と痰が体内に停滞した状態が湿痰です。
湿が内耳に停滞すると、平衡感覚を阻害します。また、関節や筋肉に湿が停滞すると、運動障害を起こします。
→湿痰が肺・三焦・脾胃肝・筋肉や関節にある方の体質改善の方法をお伝えします
主な症状
- 水っぽい鼻水
- 痰
- 咳
- むくみ
- だるさ
- 悪心嘔吐
- 消化不良
- めまい
- 吐き気
- 関節痛
- 膝痛
- 腰痛
- しびれ
- 神経痛
- 麻痺
⑥ 陰虚体質
陰虚とは、こころとからだを潤しそれらの働きを円滑にする水が不足して、皮膚や筋肉、神経、内臓などの細胞の働きが低下した状態です。
この体質の方を一言でいうと、「カラカラさん」です。
心身を潤すための水分が不足しています。水は、リンパ液や細胞間液、脳脊髄液、細胞内液など体液全般を意味しますので、皮膚や粘膜だけでなく、脳や脊髄の神経細胞、肝臓など内臓の細胞などを潤しています。
乾燥に弱いので、外気と触れる皮膚やのど、気管などにまず症状が現れます。アトピー性皮膚炎、慢性扁桃腺炎、口内炎、咳喘息や気管支炎などが起こります。また、内臓の潤い不足から臓器が熱を持ちオーバーヒートして、肝炎や膵炎、腎炎、肺炎などが起こります。
こころに潤いがないと精神的な余裕がなくなり、感情的になりやすく、すぐに怒ったり、イライラしたりします。動悸や不眠、めまい、耳鳴りが起こることもあります。
→陰虚が肺・腎・肝・心・皮膚にある方の体質改善の方法をお伝えします
主な症状
- のどの渇き
- 乾燥肌
- 痒み
- 声枯れ
- 空咳
- ほてり
- 熱感
- のぼせ
- めまい
- ドライアイ
- 疲れ目
- 耳鳴り
- 発汗異常
- 排尿異常
- 不安
- 物忘れ
- イライラ
- 不眠
- 性機能異常
- 運動障害
⑦ 湿熱体質
湿熱とは、こころとからだを維持成長させる精が過剰にあり、湿と熱が停滞している状態です。
この体質の方を一言でいうと、「ドロドロさん」です。
精であるホルモンが過剰に分泌され、新陳代謝が亢進して、体内に多くの熱が産生され炎症が起こります。その熱や炎症を鎮めるために、体液やリンパ液などの体内の水が呼び込まれます。
それを鎮火できないと、水はさらに集まり停滞して、粘りのある湿となります。熱や炎症の勢いが衰えないと、さらにドロドロとした湿と熱が混ざり合った状態となります。湿熱とは、このように余分な水と熱が体内に停滞した状態です。
→湿熱が肺・腎・肝・心・皮膚にある方の体質改善の方法をお伝えします
主な症状
- 粘い痰や鼻水
- だるさ
- 腹部膨満
- 肥満
- 便秘
- 下痢
- 高コレステロール
- 中性脂肪
- 痛風
- 膀胱炎
- 結石
- 糖尿病
- 湿疹
- 化膿
- 痒み
- 関節炎
⑧ 陽虚体質
陽虚体質とは、こころとからだを維持成長させる原動力となる精が不足して、身体の動きや精神活動が低下した状態です。
この体質の方を一言でいうと、「ガクガクさん」です。
身体および精神を成長させ、さらに生命活動を維持させるためのホルモンの働きである精が不足しています。ホルモンバランスの乱れではなく、分泌腺そのものの働きが低下し、ホルモンの分泌量が減少する状態が陽虚です。
新陳代謝が低下し、体の芯まで全身の冷えがあり、生命機能も低下します。未熟児で生まれた方や生まれつき虚弱な方、要介護状態の高齢者に多いです。日ごろ元気な人でも、無理を重ねた場合や、心身への極度なストレスやショックを受けた場合も、陽虚になることがあります。
小人症や甲状腺機能低下症など病的なものもありますが、閉経や前立腺肥大など加齢による要因もあります。
主な症状
- 身体の芯まで冷える
- 低体温
- 無月経
- 不妊
- インポテンツ
- 排尿異常
- 加齢よる腰曲がり
- 未消化の下痢
- 息切れ
おわりに
現在のご自身が体調が優れないのは、生まれながらに持っている性質だからあきらめよう、というのは明らかに誤りです。どうしようもできないこともありますが、東洋医学では生活習慣を改善することで、十分に体質改善を図り中庸に持っていくことが可能と考えます。
ぜひ、ご自身の体質を見極めながら、少しずつでもいいので「気・血・水・精」のバランスの改善に努めていただければ幸いです。
東洋医学(漢方)では、体質判定を第一優先順位に考えます。目に見え感じる症状だけでなく、その人の本来持っている体質を見極め改善していくことが、効率的な健康対策だからです。
ぜひこれを機会に、あなたも体質判定をしてご自身の健康ライフの強い味方にしてみてください。
では、どうやって薬に頼らず体質改善をしていくのがよいのか?そんな疑問にお答えする記事を書きました。よろしければ、こちらもお読みください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医師・薬剤師等の専門家による個別の医療アドバイスに代わるものではありません。持病や服薬中の方、妊娠中・授乳中の方は自己判断で服用せず、事前にご相談ください。
執筆・監修:堀口和彦/編集:KanpoNow横山伸行
出典:やさしい漢方入門、体質で決まる漢方と養生
著者プロフィール
堀口 和彦(東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師)
光和堂薬局 院長
埼玉県生まれ
東京理科大学薬学部卒
同大学院修士課程修了
総合漢方研究会 学術部員
元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員
公益法人埼玉県鍼灸師会会員
さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)
一般財団法人日本漢方連盟 会員
著書:やさしい漢方入門(健友館)、パプアニューギニアの薬草文化(アボック社)、体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐(万来舎)など
販売薬局:光和堂薬局(さいたま市西区指扇領別所326-1)・許可(さ局)第7105号。
FAQ(東洋医学の古典)
証(しょう)とは?
東洋医学の「証(しょう)」とは、ここでいう体質と同意語です。専門家は漢方薬の処方を決めるための重要な要素として「証」という表現を使います。
なぜ体質判定をするのか?
体質判定は他でもやっているか?
体質は一つに限るか?
体質が改善すれば漢方薬をやめてよいか?
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