58歳女性(ほてり・口の渇き・不眠・冷え)
ほてりやのぼせに加えて、口や喉の渇き、冷え、便秘、頭痛、不安感、不眠が同じ相談内で見られた相談例です。体質傾向としては「陰虚・血虚」を中心に整理され、このような更年期ホットフラッシュの相談例では、白虎加人参湯、加味逍遙散が選定されていた例が見られました。

突然、顔や上半身がカーッと熱くなり、汗が噴き出す。さらに、ほてりと冷えが交互に来る。
更年期のホットフラッシュにはいくつかのタイプがあります。その中でも、このページでは「突然カーッと熱くなる」「汗をかいた後にぐったりする」「夜にほてる」「ほてりと冷えが入れ替わる」ような、陰虚(いんきょ)・血虚(けっきょ)タイプを深掘りします。
漢方では、このタイプを単なる「暑がり」や「汗かき」として見ません。体の熱を冷ます潤いである陰、そして心身を養う血が不足し、体の内側に熱がこもりやすくなっている状態として考えます。
このページでわかること
目次
更年期のホットフラッシュは、女性ホルモンの変動に伴って、自律神経や体温調節が不安定になることで起こりやすくなります。急に顔や上半身が熱くなり、汗が噴き出す、寝汗で目が覚める、動悸や不安感を伴うこともあります。*①②③
漢方では、この状態を「熱が上がっている」と見るだけでは不十分です。なぜ熱が上がるのか、なぜ体がその熱を冷ませないのか、なぜ汗として外へ出そうとするのかを見ていきます。
陰虚・血虚タイプのキーワードは「冷却水と栄養の不足」です。
体を冷ます潤いが不足する陰虚、心身を養う血が不足する血虚があると、体はオーバーヒートしやすくなります。車でいえば、ラジエーター液が足りないままエンジンを回しているような状態です。
更年期には、エストロゲンを中心とした女性ホルモンが大きく変動します。体はその変化に対応しようとして、ホルモン分泌の司令系を忙しく働かせます。
ホルモン調整に関わる中枢の近くには、自律神経や体温調節に関わる中枢があります。そのため、ホルモンの揺らぎが、のぼせ、ほてり、発汗、動悸、不眠、イライラなどとして現れやすくなります。
漢方では、体液や潤いの働きを陰、心身を養う血液や栄養の働きを血として考えます。陰と血は、体に潤いと栄養を届けるだけでなく、熱を落ち着かせる役割も持っています。
加齢、睡眠不足、過労、目の酷使、ストレス、無理なダイエットなどが重なると、陰と血が消耗します。すると、体の中に生じた熱をうまく冷ませなくなり、突然カーッと熱くなる、顔が赤くなる、汗が噴き出す、夜にほてるといった症状につながります。
ホットフラッシュで多量の汗をかくと、一時的には熱が逃げたように感じます。しかし、汗は体の潤いを消耗します。陰虚・血虚タイプでは、汗をかくほど体を冷ます材料が減り、さらに熱がこもりやすくなる悪循環が起こります。
そのため、このタイプでは「とにかく汗を出してスッキリさせる」よりも、「潤いと血を守りながら、熱をやさしく冷ます」ことが大切です。

陰虚とは、体を潤し、熱を冷ますための水分的な働きが不足している状態です。体の内側が乾き、空焚きのように熱を持ちやすくなります。
陰虚タイプのホットフラッシュでは、体の中に「実際に余分な熱が大量にある」というより、冷ます力が足りないために熱が目立ちます。これを漢方では虚熱と考えます。
特徴的なのは、夕方から夜にかけて熱っぽさが強くなることです。寝る前に手のひらや足の裏が熱くなる、夜中に汗で目が覚める、口や喉が渇く、肌や目が乾く、不眠やイライラがある場合は、陰虚の関与を考えます。
陰虚タイプは「冷やせばよい」とは限りません。
強く冷やしすぎると胃腸が弱ったり、冷えが強くなったりすることがあります。大切なのは、熱を冷ましながら、消耗した潤いを守ることです。

血虚とは、心身に酸素や栄養を届け、体と心を落ち着かせる血の働きが不足している状態です。更年期では、ほてり、冷え、不眠、不安感、疲労感が混在しやすくなります。
血は、体を栄養するだけでなく、心を安定させ、熱の暴走を落ち着かせる働きも持つと考えます。血が不足すると、体の調節機能が不安定になり、ほてるのに冷える、汗をかいた後にぐったりする、疲れているのに眠れないといった状態が起こりやすくなります。
血虚タイプの特徴は、症状が一定しないことです。朝は冷えるのに昼はのぼせる、汗が出た後に急に寒くなる、ほてりと冷えが交互に来る、不安感や動悸を伴うなど、波のように症状が入れ替わります。
血虚タイプは「汗の後の消耗感」が重要なサインです。
汗が出ること自体よりも、その後にぐったりする、力が抜ける、冷える、眠れなくなるといった反応がある場合は、血虚や気虚の要素も見ます。
陰虚と血虚は重なって現れることが多く、完全に分けられるものではありません。ただし、症状の出方には少し違いがあります。
| 見方 | 陰虚タイプ | 血虚タイプ |
|---|---|---|
| 中心の問題 | 潤い不足で熱を冷ませない | 血の不足で心身を養えない |
| ほてり方 | 夜や寝る前に熱っぽい、手足のほてり | ほてりと冷えが入れ替わる |
| 汗の特徴 | 寝汗、ほてりに伴う汗 | 汗の後にぐったりする |
| 乾燥 | 口渇、肌・目・喉の乾燥が目立つ | 髪・肌・目の乾燥、顔色の悪さが目立つ |
| 精神症状 | イライラ、焦燥感、不眠 | 不安感、動悸、多夢、眠りの浅さ |
| 悪化しやすい要因 | 夜更かし、辛いもの、アルコール、サウナ | 過労、栄養不足、目の酷使、無理なダイエット |
実際には、「陰虚だけ」「血虚だけ」ではなく、陰虚と血虚が同時にある方も多く見られます。更年期では、ホルモン変動による自律神経の揺らぎに、潤い不足、血の不足、ストレス、疲労が重なりやすいためです。
陰虚・血虚タイプのホットフラッシュでは、単に汗を止めるのではなく、熱を冷ます、潤いを補う、血を養う、気の巡りを整える、心身の緊張を落ち着かせるといった視点で処方を考えます。
のぼせ、顔の赤み、イライラ、不眠、頭に熱がこもる感じが強い場合に検討されることがあります。体力中等度以上で、上半身の熱感がはっきりしている方に向きやすい処方です。
強い口渇、ほてり、多汗、皮膚や粘膜の乾燥がある場合に検討されることがあります。熱を冷ましながら、消耗した潤いを補う考え方の処方です。
のぼせ、動悸、不眠、不安感、イライラ、緊張感が強い場合に検討されることがあります。気の上衝や精神的な緊張を伴うホットフラッシュで候補になります。
神経過敏、不眠、動悸、疲労感があり、些細な刺激で興奮しやすい場合に検討されることがあります。潤い不足や虚弱傾向を背景にした不安定なほてりで考えます。
ほてりと冷えが交互に来る、イライラや不安がある、症状が日によって変わる、便通や睡眠も乱れやすい場合に検討されることがあります。更年期の不定愁訴でよく候補になる処方です。
のぼせ、めまい、ふわふわ感、精神不安、いらだちを伴う場合に検討されることがあります。頭部の熱感と自律神経の乱れが目立つ方で候補になります。
血の不足に加えて、水分代謝の停滞があり、冷え、むくみ、めまい、貧血傾向がある場合に検討されることがあります。ほてりよりも冷えや水滞が目立つ場合に考えます。
漢方薬は体質で選びます。
同じ「ホットフラッシュ」でも、陰虚、血虚、気滞、血瘀、湿熱、気虚では選び方が変わります。持病がある方、服薬中の方、ホルモン補充療法を受けている方は、自己判断で服用せず、医師または薬剤師に相談してください。
堀口和彦先生の過去の漢方相談データには、ほてりやのぼせだけでなく、口の渇き、不眠、冷え、不安感などが重なって見られる相談例がありました。ここでは、その中から陰虚・血虚タイプの更年期ホットフラッシュに関連する例を、読みやすく要約してご紹介します。
58歳女性(ほてり・口の渇き・不眠・冷え)
ほてりやのぼせに加えて、口や喉の渇き、冷え、便秘、頭痛、不安感、不眠が同じ相談内で見られた相談例です。体質傾向としては「陰虚・血虚」を中心に整理され、このような更年期ホットフラッシュの相談例では、白虎加人参湯、加味逍遙散が選定されていた例が見られました。
62歳女性(発汗・多汗・ほてり・のぼせ)
発汗・多汗と、ほてりやのぼせが同じ相談内で見られた相談例です。体質傾向としては「血虚・陰虚」を中心に整理され、このような発汗を伴う更年期ホットフラッシュの相談例では、柴胡加竜骨牡蛎湯、女神散が選定されていた例が見られました。
52歳女性(ほてり・頭痛・発汗・めまい・不安感)
ほてりやのぼせに加えて、頭痛、発汗・多汗、めまい、不安感が同じ相談内で見られた相談例です。体質傾向としては「陰虚・血虚」を中心に整理され、このような熱感と自律神経の揺らぎが重なる相談例では、女神散、白虎加人参湯が選定されていた例が見られました。
52歳女性(ほてり・不安感・発汗・不眠・冷え)
ほてりやのぼせ、発汗・多汗に加えて、不安感、不眠、冷え、便秘、疲労感、イライラが同じ相談内で見られた相談例です。体質傾向としては「陰虚・血虚」を中心に整理され、このような更年期ホットフラッシュの相談例では、白虎加人参湯、女神散が選定されていた例が見られました。
47歳女性(ホットフラッシュ・ほてり・のぼせ)
ホットフラッシュ、ほてり、のぼせが主な悩みとして見られた相談例です。体質傾向としては「血虚」を中心に整理され、このような更年期前後のほてり・のぼせの相談例では、加味逍遙散、女神散が選定されていた例が見られました。
52歳女性(上半身のほてり・のぼせ)
上半身のほてりやのぼせが主な悩みとして見られた相談例です。体質傾向としては「陰虚・血虚」を中心に整理され、このような熱感が目立つ更年期ホットフラッシュの相談例では、白虎加人参湯が選定されていた例が見られました。
陰虚・血虚タイプのホットフラッシュでは、日常生活で「潤いと血を減らさないこと」が非常に重要です。汗をかいて発散するより、消耗を減らして回復させる意識を持ちましょう。
陰と血は、夜の休息で回復しやすいと考えます。夜更かし、寝る直前までのスマートフォン、強い照明、深夜の仕事は、上半身の熱や不眠を悪化させやすくなります。
眠れない日でも、部屋を暗くして横になり、目を閉じる時間を作ることが大切です。「眠らなければ」と焦るより、まずは体を休ませる方向へ切り替えましょう。
陰虚タイプでは喉が渇きやすくなりますが、一度に大量の冷たい水を飲むと胃腸に負担がかかることがあります。常温の水分を少しずつ、回数を分けてとることを意識してください。
汗を多くかいた日は、水分だけでなく、食事からのミネラルや栄養も大切です。極端な糖質制限や無理なダイエットは、血虚を悪化させることがあります。
唐辛子、コショウ、アルコール、エナジードリンク、過度なカフェインは、体の内側に熱を生みやすく、ホットフラッシュを強めることがあります。
特に、夜にほてる、寝汗がある、不眠がある方は、夕方以降の刺激物を控えめにしましょう。
汗をかくと一時的にスッキリすることがあります。しかし、陰虚・血虚タイプでは、過度な発汗によって潤いと血をさらに消耗し、翌日以降にほてり、不眠、疲労感が強まることがあります。
運動は、軽い散歩、ストレッチ、ゆっくりした筋トレなど、息が上がりすぎない範囲から始めましょう。
漢方では、血は目の働きとも関係が深いと考えます。長時間のパソコンやスマートフォンは、目を通じて血を消耗し、頭の熱、不眠、肩こり、イライラを強めることがあります。
1時間に1回は画面から目を離し、遠くを見る、目を閉じる、首や肩をゆるめる時間を作りましょう。
急なほてりのときは、首元をゆるめる、深呼吸をする、涼しい場所へ移動する、汗を吸いやすい服を選ぶなど、熱を逃がす工夫が役立ちます。
ただし、冷房や冷たい飲み物で体全体を冷やしすぎると、血虚や血瘀がある方では冷えのぼせが悪化することがあります。顔は熱いのに足が冷える方は、下半身を冷やさないことも大切です。
更年期のホットフラッシュは、同じ「汗」「のぼせ」でも、背景にある体質によって考え方が変わります。以下のタイプ別ページもあわせてご覧ください。
ホットフラッシュの背景にある「気・血・水・精」や8つの体質を知ると、なぜ同じ更年期の汗でも漢方の見立てが変わるのかが理解しやすくなります。
陰虚が関係することはあります。特に、夜にほてる、寝汗がある、口や喉が渇く、手足のほてり、乾燥、不眠がある場合は、陰虚の要素を考えます。ただし、気滞、血瘀、湿熱、気虚などが重なることもあります。
血虚や血瘀が関係することがあります。血虚では、血の不足により体と心を安定させる力が弱くなり、ほてり、冷え、不安感、不眠、疲労感が混在しやすくなります。顔は熱いのに足が冷える場合は、血瘀の要素も見ます。
自己判断で汗だけを止めようとするのはおすすめできません。陰虚・血虚タイプでは、汗の背景に潤い不足や血の不足があります。汗を止めるだけでなく、熱を冷ます、潤いを守る、血を補う、気の巡りを整えるといった視点が必要です。
湿熱タイプでは適度な発汗が合う場合もありますが、陰虚・血虚タイプでは、過度な発汗がかえって潤いと血を消耗し、ほてりや不眠を悪化させることがあります。汗をかいた後にぐったりする方は注意が必要です。
併用を検討できる場合もありますが、自己判断は避けてください。ホルモン補充療法を受けている方、持病がある方、服薬中の方は、医師または薬剤師に相談したうえで判断することが大切です。
堀口先生の相談データでは、ほてり、のぼせ、発汗、口の渇き、不眠、冷えなどが同じ相談内で見られる相談例で、白虎加人参湯、女神散などが選定されていた例が見られます。実際には症状名だけでなく、冷え、胃腸の状態、不眠、不安感、便通、服薬状況などを含めた体質確認が必要です。
ほてり、寝汗、口の渇き、乾燥感がある場合、陰虚や血虚の傾向を確認することがあります。相談データでは、白虎加人参湯や女神散が選定されていた例も見られますが、同じような症状でも冷え、便秘、不眠、不安感、胃腸の状態、服薬状況によって選定は変わります。自己判断で決めるのではなく、体質全体を確認することが大切です。
以下のような症状がある場合は、更年期のホットフラッシュと決めつけず、医療機関を受診してください。
急に悪化した症状、今までにない症状は、自己判断しないでください。
更年期症状に似ていても、甲状腺疾患、循環器疾患、感染症、婦人科疾患などが隠れていることがあります。
突然カーッと熱くなるホットフラッシュは、体が「熱を冷ます潤いが足りない」「血と栄養が不足している」と知らせているサインかもしれません。
陰虚なのか、血虚なのか、気滞や血瘀が重なっているのか。まずは、汗の出方だけでなく、冷え、乾燥、不眠、疲労感、不安感まで含めて体質を確認しましょう。
※本ページは一般的な情報提供を目的としたものであり、医師・薬剤師等の専門家による個別の医療アドバイスに代わるものではありません。漢方薬は体質や症状、持病、服薬状況によって適否が異なります。持病がある方、服薬中の方、妊娠中・授乳中の方、ホルモン補充療法を受けている方は、自己判断で服用せず、事前に医師または薬剤師にご相談ください。
光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。
著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。