麦門冬湯とは?からぜき・喉の乾燥・長引く咳に使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月10日 監修:堀口和彦

麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、『金匱要略』に記される、肺と喉を潤す代表的な漢方薬です。喉の乾燥感、コンコンと続く乾いた咳、顔が赤くなるほどの咳き込み、しわがれ声などを、内側から潤すことで整えます。KanpoNowでは、この処方を「乾いて過敏になった喉・気管支に潤いを戻し、突き上げる咳を鎮める漢方薬」として整理します。

麦門冬湯はこんな人に向いています
  • 痰が少ない、又は痰が切れにくい乾いた咳が続く
  • 喉がイガイガ、カサカサして、少しの刺激で咳き込む
  • 顔が赤くなるほど強く咳き込むことがある
  • 風邪の後に咳だけが長引いている
  • エアコン、乾燥、会話、夜間などで咳が出やすい
  • しわがれ声、咽頭炎、気管支炎、気管支ぜんそくが気になる

発熱、息苦しさ、胸痛、血痰、黄色〜緑色の濃い痰が多い、喘鳴が強い、咳が長期間続く場合は、漢方だけで様子を見ず医療機関に相談してください。

麦門冬湯とは

麦門冬湯は、麦門冬粳米半夏大棗甘草人参から構成される漢方薬です。

麦門冬は、肺や喉を潤す中心生薬です。半夏は、突き上げる咳や気逆を下ろす方向で働きます。人参・粳米・甘草・大棗は、胃腸を支えながら気と潤いを補い、乾いて過敏になった気道を内側から整えます。

ポイント:麦門冬湯は、乾いた咳・喉の乾燥・痰が少ない咳に向く処方です。水っぽい鼻水や薄い痰が多い寒飲タイプ、黄色〜緑色の濃い痰が多い痰熱タイプとは分けて考えます。

古典における位置づけ

麦門冬湯は、中国の古典『金匱要略』を出典とする処方です。処方名は、肺や胃を潤す主薬である麦門冬の名を冠しています。

古典的には、肺や胃の潤いが不足し、気が上に逆上して、咳が止まりにくくなる状態を考えます。肺は乾燥に弱い臓器とされ、潤いが不足すると、少しの刺激で咳き込みやすくなります。

現代では、体力中等度以下で、たんが切れにくく、ときに強くせきこみ、又は咽頭の乾燥感がある方の、からぜき、気管支炎、気管支ぜんそく、咽頭炎、しわがれ声で比較されます。

麦門冬湯らしさ:喉が乾く。イガイガする。痰は少ない。咳が込み上げる。一度出ると止まりにくい。顔が赤くなるほど咳き込む。この「肺陰虚+気逆」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、麦門冬湯が合う状態を、肺陰虚と気逆が重なった乾燥性の咳として考えます。肺の潤いが不足すると、喉や気管支の粘膜が乾いて過敏になり、少しの刺激で咳が込み上げます。

  • 肺陰虚:肺や喉の潤いが不足し、乾いた咳、喉の乾燥感、しわがれ声が出やすい状態
  • 気逆:本来下へ降りるべき気が上へ突き上げ、咳き込みが止まりにくくなる状態
  • 津液不足:体を潤す水分が不足し、粘膜が乾き、痰が少ない又は粘って切れにくくなる状態
  • 胃陰不足:胃腸の潤いも不足し、口渇や乾燥感、体力低下を伴いやすい状態

風邪の後、加齢、乾燥した空気、エアコン、話しすぎ、睡眠不足などで肺の潤いが失われると、喉の粘膜が乾いて刺激に敏感になります。その結果、咳が突き上げるように出て、止まりにくくなります。

麦門冬湯は、麦門冬で肺と喉を潤し、半夏で咳の突き上げを下ろし、人参・粳米・甘草・大棗で胃腸を支えながら潤いを生む力を補います。

注意:咳は感染症、喘息、肺炎、COPD、逆流性食道炎、心不全、薬剤性咳嗽などが背景にあることもあります。発熱、息苦しさ、胸痛、血痰、咳の長期化がある場合は医療機関で確認してください。

構成生薬と配合バランス

麦門冬湯は、麦門冬・粳米・半夏・大棗・甘草・人参の6生薬で構成されます。麦門冬で肺と喉を潤し、半夏で突き上げる咳を下ろし、人参・粳米・甘草・大棗で胃腸を支えながら気と潤いを補う、乾いた咳に特化した処方です。

麦門冬湯の構成イメージを示す円グラフです。 麦門冬湯
麦門冬40%
粳米18%
半夏12%
大棗12%
甘草10%
人参8%
麦門冬湯の内部構造
肺と喉を潤し、突き上げる咳を下ろし、胃腸から潤いを支える構成です。
滋陰潤肺の軸 麦門冬 肺と喉を潤す中心生薬です。乾いた咳、喉の乾燥、しわがれ声を内側から支えます。
降逆の軸 半夏 上へ突き上げる咳、喉のつかえ、切れにくい痰をさばき、呼吸のリズムを整えます。
補気生津の軸 人参・粳米・甘草・大棗 胃腸を支え、気と潤いを補い、乾燥して過敏になった粘膜の回復を助けます。

※実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:麦門冬湯は、乾いて過敏になった喉・気管支を潤し、突き上げる咳を鎮める処方です。

麦門冬湯の味・香り・服用時の体感

麦門冬湯は、麦門冬・粳米・甘草・大棗・人参による甘みがあり、漢方薬の中では比較的飲みやすい印象があります。半夏のやや薬草らしい風味はありますが、全体としては穏やかで、甘く香ばしい方向の味です。

やさしい甘み

麦門冬、粳米、甘草、大棗、人参による甘みがあり、比較的飲みやすい味です。

甘く香ばしい香り

強い匂いは少なく、穏やかな薬草香と、お米のようなやさしい香ばしさがあります。

淡褐色〜黄褐色

製品により異なりますが、粉末・顆粒では淡い褐色から黄褐色に見えます。

乾きがほどける感覚

合う方では、イガイガしていた喉や気管支が潤い、咳の突き上げが落ち着く感覚があります。

体験の流れ:甘く穏やかな味を感じる → 喉のカサカサ感が少しずつほどける → こみ上げる咳の勢いが弱まる → 乾いた咳やしわがれ声が落ち着く感覚。麦門冬湯は、痰を強く出す処方ではなく、乾いた粘膜を潤して咳を鎮める処方です。

症状別の向き・不向き

麦門冬湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、乾いた咳、喉の乾燥感、痰が少ない又は切れにくい、強くせきこむ、顔が赤くなる、体力中等度以下です。

痰が少ない乾いた咳・からぜき

喉や気管支が乾いて過敏になり、コンコンと乾いた咳が続くタイプで比較します。

判断ポイント:乾燥感があるか。

顔を赤くして強くせきこむ

咳が突き上げるように出て、一度出ると止まりにくい場合に、気逆を下ろす方向で考えます。

判断ポイント:咳の勢いが上へ突き上げる。

風邪の後の長引く咳・咽頭の乾燥感

風邪の熱や咳で潤いを消耗し、喉のイガイガ、しわがれ声、咳だけが残る場合に比較します。

判断ポイント:感染後の乾燥と過敏。

エアコン・乾燥による咳

乾いた空気、冷暖房、話しすぎで喉が乾き、咳が出やすくなる場合に合いやすい方向です。

判断ポイント:乾燥で悪化する。
×

透明で水っぽい鼻水・薄い痰が多い咳

冷えと水の偏りが中心の場合は、潤す麦門冬湯ではなく、水を温めて動かす処方を比較します。

判断ポイント:乾燥ではなく水っぽい。
×

黄色〜緑色の濃い痰が多い咳

肺に熱と痰がこもる痰熱タイプでは、潤すだけでは足りず、熱と痰をさばく処方を比較します。

判断ポイント:痰の色・量・粘り。

体質別の向き・不向き

麦門冬湯は、肺陰虚を中心とした乾燥タイプに向きます。余分な水や痰がたまる湿痰タイプ、冷えて水っぽい鼻水や痰が多いタイプでは慎重に考えます。

肺陰虚タイプ

喉や肺の潤いが不足し、乾いた咳、咽頭の乾燥感、しわがれ声が出やすいタイプです。

判断ポイント:カラカラした乾き。

気逆を伴う咳タイプ

咳が込み上げる、顔が赤くなる、発作的に咳き込む場合に、気を下ろす視点で考えます。

判断ポイント:咳が上へ突き上げる。

体力中等度以下・胃腸が弱り気味の乾燥咳

人参・粳米・甘草・大棗で胃腸を支えながら、内側から潤いを作る力を助けます。

判断ポイント:潤いを生む土台が弱い。

湿痰タイプ

痰が多い、胃もたれ、舌苔が厚い、体が重いタイプでは、潤す力が重く感じることがあります。

判断ポイント:乾いているのか、たまっているのか。
×

寒飲・水様鼻汁タイプ

透明な鼻水や薄い痰が多く、冷えで悪化する場合は、潤すより温めて水を動かす方向を考えます。

判断ポイント:水っぽさと冷え。

効能・効果

麦門冬湯の効能・効果は、KanpoNowページでは次のように整理されています。

体力中等度以下で、たんが切れにくく、ときに強くせきこみ、又は咽頭の乾燥感があるものの次の諸症:からぜき、気管支炎、気管支ぜんそく、咽頭炎、しわがれ声

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

麦門冬湯は、乾いた咳や咽頭の乾燥感に使われる重要な処方ですが、咳の背景には感染症、喘息、肺炎、逆流性食道炎、心不全、薬剤性咳嗽などが隠れることがあります。また、甘草を含むため、長期連用や併用薬にも注意が必要です。

間質性肺炎への注意

添付文書上、麦門冬湯では間質性肺炎が重大な副作用として記載されています。咳嗽、呼吸困難、発熱、肺音の異常などがあらわれた場合は、服用を中止し、速やかに医療機関へ相談してください。咳の薬を飲んでいるのに咳や息苦しさ、発熱が悪化する場合は注意が必要です。

甘草による偽アルドステロン症への注意

麦門冬湯は甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感などに注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

胃腸虚弱・湿痰タイプへの注意

麦門冬湯は潤す力が強い処方です。痰が多い、胃もたれしやすい、下痢しやすい、舌苔が厚い、体が重だるいタイプでは、胃もたれや痰の増加を感じることがあります。

受診を優先したい咳

発熱、息苦しさ、胸痛、血痰、黄色〜緑色の濃い痰が多い、喘鳴が強い、夜間に息苦しい、咳が3週間以上続く、体重減少を伴う場合は、漢方薬の適否以前に医療機関で確認してください。

潤す生活指導

麦門冬湯が合う方は、喉や肺の潤いが不足していることが多いため、加湿器やマスクで喉を保湿し、水分は一度に大量ではなく、少量ずつこまめに摂ることが大切です。

肺を乾燥させる習慣を控える

唐辛子などの強い辛味、アルコール、喫煙、夜更かし、話しすぎ、乾燥した室内は、喉や肺の乾燥を助長します。梨、蜂蜜、百合根、白きくらげなど、潤いを意識した食材も補助になります。

睡眠で陰を補う

体の潤いは、夜の休息で回復しやすくなります。睡眠不足が続くと、喉や肺の乾燥が進み、乾いた咳が長引きやすくなります。日付が変わる前の就寝を意識し、回復の時間を確保しましょう。

相談・受診を優先したいサイン

  • 発熱、息苦しさ、胸痛、血痰がある
  • 咳が長引き、悪化傾向がある
  • 黄色〜緑色の濃い痰が多く出る
  • ゼーゼー、ヒューヒューする喘鳴が強い
  • 服用後に咳、呼吸困難、発熱が悪化する
  • むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下がある
  • 胃もたれ、下痢、食欲不振が出る
すぐ相談:咳は長引くほど背景疾患の確認が大切になります。発熱、息苦しさ、胸痛、血痰、急な悪化がある場合は、自己判断で服用せず医療機関を優先してください。

症状から理解を深める

麦門冬湯が気になる方は、からぜき、喉の乾燥、しわがれ声、長引く咳、痰の性質を確認すると理解が深まります。今回は未確認の個別症状ページリンクを増やさず、確認済みの導線を中心に整理しています。

咳に使う漢方薬でも、乾いているのか、水っぽいのか、熱と濃い痰があるのか、のどの痛みが中心なのか、声枯れが中心なのかで選び方が変わります。麦門冬湯は、乾いた咳と喉の乾燥に向くため、痰の性質と喉の状態を見て比較します。

よくある質問

Q. 麦門冬湯はどんな咳に向いていますか?

痰が少ない乾いた咳、喉の乾燥感、イガイガ、強い咳き込み、しわがれ声を伴うタイプに向きます。乾燥で気道が過敏になっている咳で比較します。

Q. 痰がある咳にも使えますか?

痰が少ない、又は粘って切れにくい場合は比較されます。ただし、黄色〜緑色の濃い痰が多い場合や、透明で水っぽい痰が多い場合は、別の処方を考えます。

Q. 風邪の後の咳にも使えますか?

風邪の後に喉や気道の潤いが失われ、咳だけが長引く場合に比較されます。発熱、息苦しさ、胸痛、血痰がある場合は受診を優先してください。

Q. 胃腸が弱くても飲めますか?

人参・粳米・大棗・甘草で胃腸に配慮された構成ですが、潤す力が強いため、痰が多い方や胃もたれしやすい方では重く感じることがあります。

Q. 甘草の副作用は注意が必要ですか?

はい。麦門冬湯は甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、脱力感、低カリウム血症に注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

参考・出典

麦門冬湯が合うか迷った方へ

麦門冬湯は、からぜき、咽頭の乾燥感、しわがれ声に使われる漢方薬ですが、すべての咳に合うわけではありません。乾いている咳なのか、水っぽい咳なのか、熱と濃い痰があるのか、喘息や肺炎など医療機関で確認すべき状態ではないかを見極めることが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。発熱、息苦しさ、胸痛、血痰、喘鳴、咳の長期化、急な悪化がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後に咳、呼吸困難、発熱が悪化する場合、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、脱力感、胃部不快感、食欲不振、下痢などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。