芎帰膠艾湯とは?痔出血・不正出血・貧血に使う漢方薬を体質別に解説

芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)は、出血を止めるだけでなく、その背景にある血の不足(血虚)と冷え(虚寒)を同時に整える漢方薬です。古典『金匱要略』では、流産後や妊娠中の出血など、婦人科系の出血に用いられてきた処方として知られています。KanpoNowでは、この処方を「冷えと血虚を背景に、だらだら続く出血を温めながら止め、失われた血を補う漢方薬」として整理します。
- 痔出血、不正出血、月経過多などが長引き、顔色が悪く疲れやすい
- 出血後に立ちくらみ、めまい、息切れ、だるさが出やすい
- 下腹部や腰まわりが冷え、温めると楽になる
- 経血量が多い、出血がだらだら続く、血虚の症状を伴う
- 胃腸は比較的保たれており、補血薬を受け止められる
反対に、顔が真っ赤にのぼせ、血圧が高く、便秘が強く、熱で血があふれるような実熱タイプの出血には向きにくい処方です。また、原因不明の血尿・下血・不正出血を、漢方薬だけで止めようとするのは危険です。出血の原因確認を優先してください。
芎帰膠艾湯とは
芎帰膠艾湯は、川芎、甘草、艾葉、当帰、芍薬、地黄、阿膠の7種類から構成される漢方薬です。補血の基本処方である四物湯の方向性に、阿膠・艾葉・甘草を加え、血を補いながら止血と温めを行う構成になっています。
漢方薬剤師の視点では、芎帰膠艾湯は単なる「止血薬」ではありません。出血によって血が失われ、血虚になり、さらに冷えによって血をとどめる力が弱くなっている状態に用います。つまり、「血を止める」「血を補う」「冷えを温める」を同時に行う処方です。
古典における位置づけ
芎帰膠艾湯の原型である膠艾湯は、古典『金匱要略』婦人妊娠病編などに記載される処方です。古典では、流産後に出血が続く状態や、妊娠中に腹痛を伴って出血する胎動不安のような状態に対し、血を止め、胎を安んじる目的で用いられてきました。
現代的には、婦人科領域の出血だけでなく、痔出血、皮下出血、月経過多、不正出血など、冷えと血虚を伴う出血傾向に応用されます。KanpoNow既存ページでも、古典『金匱要略』に記載される処方として、出血を防ぐだけでなく、その背景の血虚と冷えを同時に整える処方として整理されています。
ただし、現代では「出血を止める」前に、「なぜ出血しているのか」を確認することが非常に重要です。血尿、下血、不正出血、月経過多、痔出血の背後には、腫瘍、炎症、ポリープ、婦人科疾患、消化管疾患などが隠れることがあります。
漢方的な病態とメカニズム
東洋医学では、芎帰膠艾湯が合う状態を、血虚と虚寒を背景にした出血として考えます。
- 血虚:出血が長引き、全身を養う血が不足して、顔色が悪い、立ちくらみ、疲労、冷えが出やすい状態
- 虚寒:体を温める力が落ち、下腹部や腹部が冷え、血をとどめる力が弱くなった状態
- 固摂不足:血を血管内に保つ力が弱まり、出血がだらだら続きやすい状態
出血が続くと、血の絶対量が不足し、顔色が悪い、ふらつく、疲れやすい、冷えやすい状態になります。さらに冷えが強いと、血管や子宮・肛門周囲の組織を引き締める力が弱くなり、出血が止まりにくくなります。
芎帰膠艾湯は、当帰・芍薬・地黄・川芎で血を補い、阿膠で粘膜を潤して止血を支え、艾葉で下腹部や下半身を温めながら止血を助け、甘草で痛みや緊張を緩めて全体を調和します。
構成生薬と配合バランス
芎帰膠艾湯は、血を補う生薬群、止血と粘膜修復を担う生薬、冷えを温めて出血を止める生薬が組み合わさった処方です。
※配合比率は、地黄5g、芍薬4g、当帰4g、艾葉3g、甘草3g、川芎3g、阿膠3gとした医療用漢方製剤の構成目安をもとにしたイメージです。実際の配合量は製品により異なります。
芎帰膠艾湯の味・香り・服用時の体感
芎帰膠艾湯は、地黄・当帰・阿膠を含むため、漢方薬の中でも重みとコクのある味わいです。艾葉のヨモギ様の香り、当帰・川芎の強い芳香も加わり、補血薬らしい存在感があります。
もったり甘い
地黄や阿膠の重い甘みとコクに、艾葉のややえぐみのある苦み、当帰・川芎の独特な風味が重なります。
ヨモギと当帰
艾葉のヨモギ様の香りに、当帰・川芎のセロリに似た強い香りが加わります。
濃い茶褐色
地黄や阿膠を含むため、粉末・顆粒は灰褐色から濃い茶褐色の印象になります。
腰腹が温まる
合う方では、下腹部や腰まわりがじんわり温まり、出血後のふわふわした立ちくらみが落ち着いていく感覚があります。
体験の流れ:地黄・阿膠の重い甘み → 艾葉のヨモギ様の香り → 当帰・川芎の芳香 → 下腹部や腰がじんわり温まり、血虚によるふらつきが支えられる感覚。冷えて出血が続き、顔色が悪いときほど、芎帰膠艾湯らしさを感じることがあります。
症状別の向き・不向き
芎帰膠艾湯は、症状名だけで選ぶ漢方薬ではありません。見るべきポイントは、出血に冷えと血虚が重なっているかです。だらだら続く出血、顔色の悪さ、冷え、ふらつきが揃うほど、処方の輪郭ははっきりします。
痔出血・下血傾向(貧血を伴うもの)
痔出血が続き、顔色が悪い、ふらつく、冷えるといった血虚・虚寒を伴うタイプに向きます。ただし、血便・黒色便・下血がある場合は、原因確認が必要です。
判断ポイント:冷えて、血が足りず、出血が続く。月経過多・不正出血・皮下出血
月経量が多い、出血がだらだら続く、皮下出血が出やすいなど、血をとどめる力が弱いタイプに向きます。貧血傾向や冷えがあるかを確認します。
判断ポイント:月経量が多く、冷えと血虚を伴う。出血後の貧血・立ちくらみ
出血後に顔色が悪い、立ちくらみ、息切れ、疲労感が出るタイプでは、補血の軸が活きます。実際の貧血の有無は血液検査で確認することが大切です。
判断ポイント:出血後の血虚症状がある。妊娠中の出血・切迫流産の文脈
古典的には安胎薬として知られますが、現代では妊娠中の出血は必ず医師の判断が必要です。自己判断で服用せず、医療機関の指示に従ってください。
判断ポイント:妊娠中の出血は必ず受診。胃腸虚弱・食欲不振が強いタイプ
地黄・当帰・阿膠など重い補血・滋潤の生薬が多いため、胃腸が弱い方では胃もたれ、腹部膨満、下痢が出ることがあります。
判断ポイント:胃腸が受け止められるか確認。顔が赤く、便秘し、熱で噴き出すような出血
実熱・湿熱が強く、顔が赤い、便秘、のぼせ、高血圧傾向、炎症が強いタイプでは、温める艾葉や補血薬が合わないことがあります。黄連解毒湯などが比較対象になります。
判断ポイント:実熱・湿熱の出血には不向き。体質別の向き・不向き
芎帰膠艾湯は、血虚と虚寒を背景にした出血に向く処方です。補血薬が多く、胃腸への負担もあるため、脾胃の状態も確認します。
血虚
顔色が悪い、立ちくらみ、疲れやすい、冷えやすい、月経量が多いなど、血の不足が前面にあるタイプです。芎帰膠艾湯の中心的な体質像です。
判断ポイント:出血後に血虚症状が出る。虚寒・陽虚傾向
下腹部や腰が冷え、温めると楽になり、冷えると出血や痛みが悪化しやすいタイプです。艾葉が温めて止血を支えます。
判断ポイント:冷えで出血・腹痛が悪化する。脾気虚・胃腸虚弱
胃腸が極端に弱い方では、地黄・当帰・阿膠が重く、食欲不振、胃もたれ、下痢が出ることがあります。服用後の胃腸症状を確認しながら考えます。
判断ポイント:胃もたれ・軟便が出たら相談。湿熱・実熱
熱感、炎症、便秘、強いのぼせ、出血色が鮮紅で勢いがあるようなタイプでは、温補・補血の方向が合わないことがあります。
判断ポイント:熱と炎症が強い場合は別処方。効能・効果
芎帰膠艾湯の効能・効果は製品により表現が異なりますが、KanpoNow既存ページでは代表的に次のように整理されています。
体力中等度以下で、冷え症で、出血傾向があり胃腸障害のないものの次の諸症:
痔出血、貧血、月経異常・月経過多・不正出血、皮下出血
※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。
服用上の注意
芎帰膠艾湯は、血虚と冷えを伴う出血に用いられる処方ですが、出血の原因確認、地黄・当帰・阿膠による胃腸障害、甘草による偽アルドステロン症には注意が必要です。
原因不明の出血は必ず確認
血尿、下血、不正出血、過多月経、痔出血、皮下出血が続く場合は、漢方薬で止める前に原因を確認することが大切です。悪性腫瘍、ポリープ、炎症、婦人科疾患、消化管疾患、血液疾患、薬剤性出血などが隠れていることがあります。
地黄・当帰・阿膠による胃腸障害への注意
芎帰膠艾湯には、地黄、当帰、阿膠など、補血・滋潤の生薬が多く含まれます。胃腸が弱い方では、胃もたれ、食欲不振、腹部膨満、悪心、嘔吐、下痢が出ることがあります。
妊娠中・妊娠の可能性がある場合
古典的には妊娠中の出血に関係する処方として知られますが、現代では妊娠中の出血は必ず医師の診察が必要です。自己判断で服用せず、産婦人科医・薬剤師に相談してください。
甘草による注意
芎帰膠艾湯には甘草が含まれます。甘草を含む漢方薬を複数併用したり、長期間服用したりすると、偽アルドステロン症と呼ばれる副作用に注意が必要です。
- 手足のむくみ
- 血圧上昇
- 体重増加
- だるさ、脱力感
- こむら返り、筋肉のけいれん
相談・受診を優先したいサイン
- 血尿、下血、黒色便、不正出血がある
- 出血量が多い、止まらない、繰り返す
- 妊娠中または妊娠の可能性がある状態で出血している
- 強い腹痛、発熱、失神、動悸、息切れがある
- 服用後に胃もたれ、食欲不振、下痢が出る
- むくみ、脱力感、こむら返り、血圧上昇が出る
症状から理解を深める
芎帰膠艾湯が気になる方は、貧血、生理不順、冷え、めまい、だるさとの関係も確認すると理解が深まります。
似ている漢方薬・構成生薬
出血や月経異常に使われる処方でも、冷えと血虚を補うのか、瘀血を動かすのか、熱を冷まして止血するのか、胃腸を立て直すのかで選び方が変わります。
よくある質問
Q. 芎帰膠艾湯はどんな出血に向いていますか?
冷えと血虚を伴い、出血がだらだら続くタイプに向きます。痔出血、月経過多、不正出血、皮下出血などで、顔色の悪さ、ふらつき、冷えがあるかを確認します。
Q. 痔出血に使えますか?
効能・効果として痔出血が挙げられます。ただし、便に血が混じる、黒い便が出る、出血が続く場合は、痔と決めつけず医療機関で確認してください。
Q. 妊娠中の出血にも使えますか?
古典的には妊娠中の出血や安胎に関係する処方ですが、現代では妊娠中の出血は必ず医師の診察が必要です。自己判断で服用しないでください。
Q. 胃腸が弱くても飲めますか?
地黄、当帰、阿膠など重い補血・滋潤の生薬が多いため、胃腸が弱い方では胃もたれ、食欲低下、下痢が出ることがあります。服用後に胃腸症状が出た場合は相談してください。
Q. 長く飲んでもよいですか?
甘草を含むため、長期服用ではむくみ、血圧上昇、低カリウム血症、脱力感、こむら返りに注意が必要です。また、出血が続く場合は原因確認が優先です。
参考・出典
- PMDA「医療用医薬品 添付文書等情報検索」
- PMDA「一般用医薬品・要指導医薬品 添付文書等情報検索」
- 古典:『金匱要略』婦人妊娠病編などにおける膠艾湯関連条文
- 一般用漢方製剤製造販売承認基準
芎帰膠艾湯が合うか迷った方へ
芎帰膠艾湯は、痔出血、不正出血、月経過多、貧血傾向に使われる漢方薬ですが、すべての出血に合うわけではありません。冷え、血虚、胃腸の状態、実熱か虚寒か、出血の原因、妊娠の可能性、甘草の重複まで含めて判断することが大切です。

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AI漢方診断をする免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。血尿、下血、不正出血、過多月経、黒色便、原因不明の出血、妊娠中の出血がある場合は、医師・薬剤師など専門家にご相談ください。症状が長引く・悪化する場合、基礎疾患がある場合、妊娠中・授乳中、他のお薬を服用中の場合も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。
堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師
光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。
著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。






