抑肝散とは?イライラ・不眠・歯ぎしり・神経過敏に使う漢方薬を体質別に解説
抑肝散(よくかんさん)は、神経の高ぶり、イライラ、不眠、歯ぎしり、まぶたのピクピク、小児夜泣き・小児疳症、更年期の情緒不安定などに用いられる漢方薬です。東洋医学で感情や自律神経の働きを司る「肝」が高ぶり、気の巡りが詰まり、筋肉や神経が過緊張になっている状態を、釣藤鈎と柴胡で鎮め、当帰と川芎で血を巡らせ、蒼朮・茯苓・甘草で胃腸と水分代謝を支えながら整えます。KanpoNowでは、この処方を「高ぶった神経とこわばった筋肉を、肝の緊張からゆるめる漢方薬」として整理します。
- 神経が高ぶり、イライラしやすい
- 怒りっぽく、些細なことでカーッとなる
- 眠りが浅い、イライラして眠れない
- 歯ぎしり、食いしばり、顎の力みがある
- まぶたのピクピク、チック、筋肉のこわばりがある
- 小児の夜泣き、疳の虫、神経過敏が気になる
- 更年期の情緒不安定、焦り、怒りっぽさがある
甘草を含むため、高齢者、長期服用、他の漢方薬やグリチルリチン酸製剤との併用では、むくみ、血圧上昇、低カリウム血症、筋力低下などに注意が必要です。胃腸が著しく弱い方、食欲不振・悪心・下痢がある方、妊娠中・授乳中、小児、高齢者は、専門家に相談してください。
抑肝散とは
抑肝散は、蒼朮、茯苓、川芎、釣藤鈎、当帰、柴胡、甘草から構成される漢方薬です。
釣藤鈎は、肝の高ぶりを鎮め、神経の興奮や筋肉のこわばりをゆるめます。柴胡は、ストレスで詰まった気の巡りを開きます。当帰と川芎は、血を養いながら巡らせ、緊張した筋肉に栄養を届けます。蒼朮と茯苓は、胃腸と水分代謝を整え、甘草は全体を調和します。
古典における位置づけ
抑肝散は、中国の明代の医学書『保嬰撮要』などを出典とする処方です。もともとは小児の夜泣き、疳の虫、ひきつけ、神経過敏に用いられた処方ですが、現代では成人のイライラ、不眠、歯ぎしり、更年期の情緒不安定、認知症周辺症状などにも広く応用されています。
処方名の「抑肝」は、感情や自律神経の働きを司る「肝」の高ぶりを抑える、という意味で理解できます。肝の働きが過剰になると、気が上に突き上げ、怒りっぽさ、焦り、緊張、筋肉のこわばり、チック様の動き、不眠などが現れます。
KanpoNow掲載の効能効果では、体力中等度をめやすとして、神経がたかぶり、怒りやすい、イライラなどがある方の、神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症、歯ぎしり、更年期障害、血の道症に用いる処方として整理されています。
漢方的な病態とメカニズム
東洋医学では、抑肝散が合う状態を、気滞、肝鬱、肝陽上亢、内風、血虚、脾虚として考えます。ストレスが続くと、肝の疎泄作用が乱れ、気の巡りが詰まり、神経と筋肉が過緊張になります。
- 気滞:ストレスで気が詰まり、イライラ、胸のつかえ、焦りが出る状態
- 肝鬱・肝の高ぶり:感情の制御がうまくいかず、怒りっぽさ、興奮、不眠が出る状態
- 内風:神経の高ぶりが、ピクピク、チック、痙攣、歯ぎしりとして現れる状態
- 血虚:筋肉や神経に栄養が届きにくくなり、こわばりや過敏さが出る状態
肝は、気の巡りを整え、感情をなめらかに保つ役割を持つと考えます。ところが、ストレス、緊張、睡眠不足、介護疲れ、ホルモン変動などで肝が高ぶると、気が上に突き上げ、神経が過敏になります。
また、肝は筋肉や腱の働きとも関係します。肝の緊張が強まると、首肩、顎、まぶた、手足などの筋肉がこわばり、歯ぎしり、食いしばり、チック、まぶたのピクピクとして表れることがあります。抑肝散は、釣藤鈎と柴胡で高ぶりを鎮め、当帰と川芎で血を巡らせ、蒼朮・茯苓・甘草で土台を支えることで、神経と筋肉の緊張をゆるめます。
構成生薬と配合バランス
抑肝散は、蒼朮・茯苓・川芎・釣藤鈎・当帰・柴胡・甘草の7生薬で構成されます。神経の高ぶりを鎮める軸、気を巡らせる軸、血を巡らせて筋緊張をゆるめる軸、胃腸と水分代謝を整える軸が組み合わされています。
※円グラフは、蒼朮・茯苓・川芎・釣藤鈎・当帰・柴胡・甘草の配合を、見やすく整数化した構成イメージです。実際の配合量は製品により異なる場合があります。
抑肝散の味・香り・服用時の体感
抑肝散は、当帰・川芎のセロリやパセリに似た香り、釣藤鈎や柴胡の独特な苦味、甘草のほのかな甘みが混ざった味です。甘く飲みやすいだけの処方ではなく、神経の高ぶりを鎮めながら、血と気を動かす香りがはっきりしています。
苦味・甘み・独特な辛味
釣藤鈎や柴胡の苦味、甘草の甘み、川芎の辛味が重なります。
当帰と川芎の香り
当帰・川芎による、セロリやパセリに似た漢方薬特有の香りが立ち上がります。
淡褐色〜褐色
製品により異なりますが、粉末・顆粒では淡褐色から褐色に見えます。
張り詰めがゆるむ感覚
合う方では、頭や顎、首肩に入っていた余計な力が抜け、神経の張りが落ち着く感覚があります。
体験の流れ:当帰・川芎の香りを感じる → 神経の張り詰めが少しずつ落ち着く → 顎・首肩・まぶたの余計な力が抜ける → イライラや歯ぎしり、ピクピクがやわらぐ感覚。抑肝散は、神経と筋肉の緊張を同時に見る処方です。
症状別の向き・不向き
抑肝散は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、神経の高ぶり、怒りっぽさ、イライラ、不眠、歯ぎしり、筋肉の緊張、ピクピクです。
神経過敏・怒りっぽい・イライラ
小さな刺激でカーッとなる、気持ちが張り詰める、落ち着かないタイプに向きます。
判断ポイント:肝の高ぶり。イライラして眠れない不眠
疲れているのに頭が興奮して眠れない、眠りが浅い、寝ても緊張が抜けない場合に比較します。
判断ポイント:不眠+興奮。歯ぎしり・食いしばり・顎の力み
肝の緊張が筋肉に出て、顎や首肩に力が入りやすいタイプで比較します。
判断ポイント:神経過敏+筋緊張。まぶたのピクピク・チック様の動き
神経の高ぶりが筋肉の細かな動きとして出る場合に比較します。
判断ポイント:内風のサイン。認知症周辺症状の易怒性・興奮
高齢者では安全管理が重要ですが、怒りっぽさ、興奮、落ち着かなさで比較されることがあります。
判断ポイント:本人の過敏さと介護負担。へその上の動悸・驚きやすい・高血圧・強いのぼせ
強い上衝、不安、驚きやすさ、高血圧傾向が前面に出る場合は、柴胡加竜骨牡蛎湯を比較します。
判断ポイント:鎮める重しが必要か。著しい疲労倦怠感・落ち込み・食欲不振
心脾両虚のように、脳と心を養う気血が不足している場合は、加味帰脾湯を比較します。
判断ポイント:高ぶりか、消耗か。体質別の向き・不向き
抑肝散は、気滞・肝の高ぶり・血虚が絡む神経過敏に向く処方です。胃腸が著しく弱い方、食欲不振や悪心が強い方では、当帰・川芎などが負担になる場合があります。
気滞・肝鬱タイプ
ストレスで気が詰まり、イライラ、焦り、胸のつかえ、怒りっぽさが出るタイプです。
判断ポイント:気がのびない。肝の高ぶり・内風タイプ
神経が高ぶり、歯ぎしり、チック、まぶたのピクピク、筋肉のこわばりが出るタイプです。
判断ポイント:高ぶりが筋肉に出る。血虚を伴う筋緊張タイプ
血の栄養が筋肉・神経に届きにくく、こわばりや過緊張を内側からゆるめるタイプに比較します。
判断ポイント:巡りと栄養の不足。脾気虚・胃腸虚弱タイプ
胃腸が著しく弱い方では、食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢が出ることがあります。
判断ポイント:抑肝散加陳皮半夏も比較。心脾両虚・強い消耗タイプ
イライラより、落ち込み、疲労、食欲低下、物忘れ、不安が中心なら、加味帰脾湯などを比較します。
判断ポイント:鎮めるより補う。効能・効果
KanpoNowの抑肝散ページでは、効能・効果は次のように整理されています。
体力中等度をめやすとして、神経がたかぶり、怒りやすい、イライラなどがあるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症(神経過敏)、歯ぎしり、更年期障害、血の道症
※医療用添付文書では「虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症」と記載されています。実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。
服用上の注意
抑肝散は、神経の高ぶりや不眠、怒りっぽさに使われる処方ですが、甘草を含むため、長期服用や高齢者では安全管理が重要です。認知症周辺症状などで使う場合も、自己判断で漫然と続けず、変化を確認しながら扱います。
甘草による偽アルドステロン症への注意
甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感などに注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。
心不全・体液貯留への注意
添付文書上、体液貯留、急激な体重増加、息切れ、胸水などの心不全症状・徴候が認められた場合は中止して適切な対応が必要です。高齢者や心疾患のある方では、むくみや息切れの変化を家族も確認してください。
間質性肺炎・肝機能障害への注意
まれに、咳、呼吸困難、発熱、肺音の異常などを伴う間質性肺炎、またAST・ALTなどの上昇を伴う肝機能障害・黄疸が報告されています。発熱、息苦しさ、咳、強いだるさ、黄疸、褐色尿が出た場合は中止して相談してください。
胃腸虚弱への注意
胃腸が著しく弱い方では、食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢が出ることがあります。食欲不振、悪心、嘔吐がすでにある方では悪化することがあります。胃腸が弱く疲れやすい方では、抑肝散加陳皮半夏なども比較します。
イライラを責めない説明
イライラや怒りっぽさは、本人の性格だけで片づけると、さらに気が滞ります。「気が詰まり、神経が高ぶっているサイン」と説明し、本人や家族が責め合わないことが重要です。深呼吸、睡眠、刺激を減らす環境調整も併せて行います。
認知症介護家族への説明
認知症周辺症状で使う場合は、「本人の神経の過敏さや苦痛をやわらげる目的であり、結果として介護する家族の負担も軽くなる可能性がある」と説明します。一方で、眠気、ふらつき、むくみ、食欲低下などの変化を家族が観察することも大切です。
相談・受診を優先したいサイン
- むくみ、急な体重増加、血圧上昇がある
- こむら返り、筋力低下、脱力感、四肢のけいれんがある
- 息切れ、胸水、呼吸困難、強いだるさがある
- 咳、発熱、息苦しさが出る
- 黄疸、褐色尿、食欲不振が強い
- 食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢が続く
- 幻覚、せん妄、急な性格変化、自傷他害の危険がある
- 服用しても改善しない、又は悪化する
症状から理解を深める
抑肝散が気になる方は、イライラ、ストレス、不眠、不安、動悸、更年期に漢方、症状一覧をあわせて見ると、神経の高ぶり・気滞・筋緊張の全体像がつかみやすくなります。
似ている漢方薬・構成生薬
イライラや不眠に使う漢方薬でも、神経が高ぶって筋肉がこわばるのか、不安と驚きやすさが強いのか、気血不足で落ち込むのか、胃腸虚弱を伴うのかで選び方が変わります。抑肝散は、肝の高ぶりと筋緊張を中心に考える処方です。
よくある質問
Q. 抑肝散はどんなイライラに向いていますか?
神経が高ぶり、怒りっぽく、些細なことでカーッとなり、眠れない、歯ぎしり、まぶたのピクピク、筋肉のこわばりを伴うタイプに向きます。
Q. 不眠にも使えますか?
イライラして眠れない、頭が興奮して眠りが浅い、歯ぎしりや食いしばりがあるような不眠で比較します。強い落ち込みや疲労が中心の場合は、加味帰脾湯なども比較します。
Q. 子どもの夜泣きにも使えますか?
効能効果として小児夜泣き、小児疳症が記載されています。ただし、小児では年齢・体重・症状により用量や判断が変わるため、自己判断で長く使わず専門家に相談してください。
Q. 認知症の怒りっぽさにも使えますか?
認知症周辺症状の興奮や易怒性で比較されることがあります。ただし、高齢者では甘草によるむくみ、血圧上昇、低カリウム血症、心不全徴候、眠気、ふらつきに注意が必要です。
Q. 抑肝散加陳皮半夏との違いは何ですか?
抑肝散加陳皮半夏は、抑肝散が合いそうな神経過敏に加えて、胃もたれ、吐き気、痰飲、胃腸虚弱がある場合に比較します。胃腸が弱い方では候補になります。
参考・出典
- PMDA「ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)」医療用医薬品情報
- ツムラ「ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)」添付文書
- KEGG MEDICUS「ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)」医療用医薬品情報
- MEDLEY「ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用)」添付文書情報
- 古典:『保嬰撮要』抑肝散関連記載
抑肝散が合うか迷った方へ
抑肝散は、イライラ、不眠、歯ぎしり、神経過敏、小児夜泣き、更年期の情緒不安定に使われる漢方薬ですが、すべての不眠や不安に合うわけではありません。肝の高ぶりなのか、驚きやすさが強いのか、気血不足で落ち込んでいるのか、胃腸虚弱を伴うのかを見極めることが大切です。

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AI漢方診断をする免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。強い不眠、急な性格変化、幻覚、せん妄、自傷他害の危険、強い落ち込み、認知症症状の急な悪化がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後にむくみ、血圧上昇、急な体重増加、こむら返り、筋力低下、脱力感、息切れ、咳、発熱、呼吸困難、黄疸、褐色尿、強いだだるさ、食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢、発疹、発赤、かゆみ、傾眠などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、胃腸虚弱、心疾患、腎疾患、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。
堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師
光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。
著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。






