呉茱萸湯とは?頭痛・吐き気・冷えに使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月7日 監修:堀口和彦
呉茱萸湯(ごしゅゆとう)

呉茱萸湯(ごしゅゆとう)は、胃腸の芯が冷え、上へ突き上げるような頭痛、吐き気、嘔吐、しゃっくりが出るタイプに用いられる漢方薬です。特に、手足が冷えやすく、頭痛に吐き気を伴い、温めると少し楽になるような方で候補になります。KanpoNowでは、この処方を「胃寒・寒邪を温め、上逆した気を下げ、頭痛と吐き気を同時に整える漢方薬」として整理します。

呉茱萸湯はこんな人に向いています
  • 頭痛が強く、吐き気や嘔吐を伴いやすい
  • 手足が冷えやすく、寒さや冷たい飲食で不調が悪化しやすい
  • みぞおちが張る、胃が冷える、胃の動きが弱い感じがある
  • しゃっくり、こみ上げる感じ、胸や胃から上へ突き上げる感じがある
  • 雨の日の重だるい頭痛よりも、冷えで突き上げるように痛む頭痛が目立つ

反対に、顔が赤い、のぼせが強い、便秘、口渇、血圧上昇を伴う熱性の頭痛や、雨の日に頭が重い、めまい・むくみが中心となる水滞の頭痛では、別の処方を比較します。

呉茱萸湯とは

呉茱萸湯は、呉茱萸人参生姜大棗から構成される、非常にシンプルな漢方薬です。

中心となるのは、冷えを散らし、上へ逆流した気を下へ降ろす呉茱萸です。そこに、胃を温めて吐き気を鎮める生姜、胃腸の気を補う人参、処方全体を調和し胃腸を支える大棗が加わります。

ポイント:呉茱萸湯は、単なる頭痛薬ではありません。頭痛、吐き気、嘔吐、しゃっくりを「胃腸の冷え」と「気の上逆」からまとめて見る処方です。

古典における位置づけ

呉茱萸湯は、中国の古典『傷寒論』および『金匱要略』に記載される代表的な処方です。古典では、病が深く進み、体の内側が冷えきった状態や、胃の冷えにより嘔吐・頭痛が起こる状態に用いられてきました。

特に有名なのが、冷えが深く入った「厥陰病」の頭痛です。厥陰の頭痛では、体の内側、とくに胃腸の冷えを背景に、本来は下へ降りるべき気が頭部へ突き上げ、激しい頭痛、吐き気、嘔吐を起こすと考えます。

現代では、手足が冷えやすい人の習慣性頭痛、片頭痛、嘔吐、頭痛に伴う吐き気、しゃっくりなどに応用されます。ただし、頭痛であれば何でも呉茱萸湯というわけではなく、「冷え」「胃寒」「気逆」があるかを確認することが重要です。

呉茱萸湯らしさ:手足が冷える。胃が冷える。吐き気を伴う頭痛がある。みぞおちが張る。こみ上げる。温めると楽。この「胃寒+気逆」が中心です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、呉茱萸湯が合う状態を、寒邪や胃寒を土台に、気逆が重なった状態として考えます。胃腸が冷えると、胃の気が下へ降りにくくなり、逆に上へ突き上げるように乱れます。

  • 寒邪・胃寒:体の芯、特に胃腸が冷え、消化の動きが鈍り、痛みや吐き気が出やすい状態
  • 気逆:本来は下へ降りるべき気が上へ逆流し、頭痛、吐き気、嘔吐、しゃっくりとして現れる状態
  • 中焦虚寒:胃腸の温める力と支える力が弱り、手足の冷え、胃の張り、疲れやすさが出る状態
  • 寒による痛み:冷えで気血の巡りが縮こまり、突き上げるような頭痛や胃の不快感につながる状態

胃腸が芯から冷えると、気の巡りが下へ降りず、頭部へ突き上げます。これが、ガンガンする頭痛、こみ上げる吐き気、嘔吐、しゃっくりとして現れます。呉茱萸湯は、内側を温めることで冷えを散らし、上に逆流した気を下へ降ろす方向へ働きます。

水分停滞による重い頭痛や、肝陽上亢のようなのぼせ・高血圧傾向の頭痛とは、処方の方向が異なります。呉茱萸湯は「冷えを温める」処方であり、「熱を冷ます」処方でも「水だけをさばく」処方でもありません。

注意:突然の激しい頭痛、今までにない頭痛、麻痺・ろれつが回らない・意識障害・高熱・首の硬直・反復する強い嘔吐がある場合は、漢方で様子を見ず、すぐに医療機関で確認してください。

構成生薬と配合バランス

呉茱萸湯は、冷えを散らして気逆を下げる呉茱萸を中心に、胃を温める生姜、胃腸の気を補う人参、調和して支える大棗で構成されます。生薬数は4つだけですが、温める、吐き気を止める、胃腸を支える、気を下げるという方向性がはっきりしています。

呉茱萸湯の構成を、呉茱萸29%、人参19%、生姜14%、大棗38%として合計100%で示した構成イメージです。 呉茱萸
呉茱萸29%
人参19%
生姜14%
大棗38%
呉茱萸湯の内部構造
胃腸を温め、上逆した気を下げ、吐き気を伴う頭痛を整える構成です。
寒を散らす軸 呉茱萸・生姜 胃腸の芯の冷えを温め、冷えによる痛み、吐き気、嘔吐を鎮める方向へ働きます。
胃気を支える軸 人参・大棗 胃腸の気を補い、冷えで弱った中焦を立て直し、強い温め作用を受け止めやすくします。
気逆を下げる軸 呉茱萸・生姜 上へこみ上げる気を下へ降ろし、頭痛、吐き気、しゃっくりをまとめて見ます。

※円グラフは、呉茱萸湯の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:呉茱萸湯は、胃腸の冷えを温め、上へ突き上げる気を下げることで、吐き気を伴う頭痛や嘔吐を整える処方です。

呉茱萸湯の味・香り・服用時の体感

呉茱萸湯は、漢方薬の中でも苦みと辛みが強く、独特の香りがあります。特に呉茱萸の苦み・辛みが前面に出るため、「かなり苦い」「飲みにくい」と感じる方もいます。一方で、胃腸の冷えと気逆が強く, 処方が合う方では、苦いはずなのに不思議と受け入れやすい、飲むと胃のあたりが温まる、と感じることがあります。

強い苦みと辛み

呉茱萸由来のはっきりした苦み、辛みがあります。甘く飲みやすい処方ではありません。

独特でツンとする香り

呉茱萸と生姜の香りが重なり、やや刺激感のある特異なにおいがあります。

淡灰褐色〜褐色

現代のエキス製剤では、淡灰褐色から褐色系の粉末・顆粒として流通します。

胃から温まる

合う方では、みぞおちから胃のあたりが温まり、こみ上げる吐き気が下がる感覚があります。

体験の流れ:強い苦みと辛み → 胃のあたりがじんわり温まる → こみ上げる吐き気が少しずつ落ち着く → 頭に突き上げる痛みが下へ降りるように和らぐ感覚。冷えと気逆が合っているかを、味や体感から確認しやすい処方です。

症状別の向き・不向き

呉茱萸湯は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、頭痛や吐き気の背景に、冷え・胃寒・気逆があるかです。

吐き気・嘔吐を伴う激しい頭痛

頭痛と同時に吐き気や嘔吐があり、手足が冷え、温めると楽になるタイプで候補になります。呉茱萸湯の中心像です。

判断ポイント:頭痛+吐き気+冷え。

胃の冷えによる嘔吐・しゃっくり

みぞおちが張る、胃が冷える、こみ上げる、しゃっくりが出るタイプで比較します。胃の気が逆流しているかを見ます。

判断ポイント:胃寒・みぞおちの膨満・上逆。

冷えを伴う肩こり・首のこわばり

手足が冷え、頭痛や吐き気に肩こり・首こりが重なる場合に候補になります。肩こり単独より、頭痛と胃寒の有無を重視します。

判断ポイント:肩こりだけでなく冷え・頭痛・吐き気がある。

雨の日に悪化する重だるい頭痛

頭が重い、めまい、むくみ、雨天で悪化するタイプでは、水滞・湿痰を考えます。呉茱萸湯より五苓散や苓桂朮甘湯などを比較します。

判断ポイント:冷えの痛みか、水の重さか。
×

のぼせ・高血圧傾向・イライラを伴う頭痛

顔が赤い、のぼせる、血圧が高い、朝方に頭が痛い、イライラするタイプでは、熱や肝陽の上亢を考えます。温める呉茱萸湯は合わないことがあります。

判断ポイント:熱・のぼせ・高ぶりが主役なら不向き。
×

突然の激しい頭痛・神経症状を伴う頭痛

今までにない頭痛、麻痺、ろれつが回らない、意識障害、発熱、首の硬直、反復する強い嘔吐を伴う場合は、漢方より受診を優先します。

判断ポイント:危険サインがあれば医療機関へ。

体質別の向き・不向き

呉茱萸湯は、寒邪・胃寒・陽虚傾向に、気逆が重なる方に向きます。体の熱が強いタイプ、炎症が強いタイプ、のぼせが主役のタイプでは慎重に考えます。

胃寒+気逆

胃が冷え、みぞおちが張り、吐き気・嘔吐・しゃっくりが出るタイプです。呉茱萸湯の中心となる体質像です。

判断ポイント:胃の冷えとこみ上げ。

陽虚・寒邪による頭痛

手足が冷え、寒さで頭痛が悪化し、温めると楽になるタイプです。冷えで気血が縮こまり、痛みが起こると考えます。

判断ポイント:冷えると悪化、温めると楽。

気虚・胃腸虚弱

人参と大棗が胃腸を支えるため、疲れやすく胃腸が弱い方にも使いやすい面があります。ただし、熱感やのぼせが強い場合は別です。

判断ポイント:胃腸虚弱に冷えが重なるか。

胃もたれ・胃炎傾向が強い方

呉茱萸や生姜の刺激が合わないことがあります。胃の冷えではなく、胃の熱・炎症・痛みが主役の場合は慎重に考えます。

判断ポイント:冷えの胃か、熱をもつ胃か。
×

実熱・のぼせ・便秘傾向

体に熱がこもり、顔が赤い、口が渇く、便秘、イライラ、血圧上昇を伴うタイプでは、温める方向が過剰になることがあります。

判断ポイント:熱を冷ますべき状態では不向き。

効能・効果

呉茱萸湯の効能・効果は製品により表現が異なる場合がありますが、KanpoNowでは代表的に次のように整理しています。

体力中等度以下で、手足が冷えて肩がこり、ときにみぞおちが膨満するものの次の諸症:頭痛、頭痛に伴うはきけ・嘔吐、しゃっくり

医療用製剤では、手足の冷えやすい中等度以下の体力の方における、習慣性偏頭痛、習慣性頭痛、嘔吐などが効能・効果として記載される製品もあります。

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

呉茱萸湯は、甘草・麻黄・大黄・附子を含まない比較的シンプルな処方ですが、呉茱萸と生姜による温め・刺激、人参による体質差には注意が必要です。特に、熱がこもる体質、のぼせが強い方、胃の炎症が強い方では合わないことがあります。

「冷えの頭痛」かどうかを確認する

呉茱萸湯は、頭痛一般に機械的に使う処方ではありません。吐き気を伴うか、手足が冷えているか、温めると楽になるか、みぞおちの張りや胃寒があるかを確認します。改善が見られない場合は、漫然と継続しないことが大切です。

呉茱萸・生姜による温まりすぎ、刺激への注意

服用後に、のぼせ、口渇、胃部不快、胃痛、動悸、ほてりが強まる場合は、体質や病態が合っていない可能性があります。非常に苦くて飲みにくいだけでなく、飲むと不快感が強い場合も無理に続けないでください。

人参を含む処方としての注意

人参は胃腸の気を補う重要な生薬ですが、体質によっては不眠、動悸、のぼせ、胃部不快などが出ることがあります。服用中の薬がある方、持病がある方は、事前に専門家へ相談してください。

妊娠中・授乳中・小児・高齢者

妊娠中または妊娠の可能性がある方、授乳中の方、小児、高齢者、基礎疾患がある方は、自己判断で服用せず、医師または薬剤師に相談してください。高齢者では一般に生理機能が低下しているため、少量からの確認や慎重な判断が必要です。

相談・受診を優先したいサイン

  • 突然の激しい頭痛、今までに経験したことのない頭痛がある
  • 麻痺、しびれ、ろれつが回らない、意識がぼんやりする
  • 高熱、首の硬直、強いめまい、視野異常を伴う
  • 嘔吐を繰り返し、水分が取れない、脱水が疑われる
  • 黒色便、血便、強い腹痛、発熱を伴う
  • 服用後に発疹、蕁麻疹、肝機能異常を疑う症状、強い胃部不快が出る
すぐ相談:危険な頭痛サイン、反復する嘔吐、脱水、血便・黒色便、発熱、神経症状がある場合は、呉茱萸湯で様子を見ず医療機関に相談してください。

症状から理解を深める

呉茱萸湯が気になる方は、頭痛、冷え、肩こり、めまい、腹痛との関係も確認すると理解が深まります。

頭痛や吐き気に使う処方でも、冷えが主役か、水滞が主役か、熱や高ぶりが主役か、末端の冷えが主役かで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 呉茱萸湯はどんな頭痛に向いていますか?

吐き気や嘔吐を伴い、手足が冷えやすく、胃が冷えている感じがあり、温めると楽になる頭痛で候補になります。雨の日の重だるい頭痛や、のぼせ・高血圧傾向の頭痛では別処方を比較します。

Q. 片頭痛なら呉茱萸湯でよいですか?

片頭痛という病名だけでは判断できません。冷え、胃寒、吐き気、嘔吐、みぞおちの張りがあるタイプでは候補になりますが、熱・のぼせ・水滞・血瘀などが主役の場合は別の考え方になります。

Q. とても苦いのですが、続けるべきですか?

呉茱萸湯は苦みと辛みが強い処方です。ただし、強い不快感、胃痛、のぼせ、口渇、動悸などが出る場合は、体質に合っていない可能性があります。無理に続けず相談してください。

Q. 甘草は入っていますか?

呉茱萸湯には甘草は含まれません。したがって、甘草由来の偽アルドステロン症リスクはこの処方単独では中心的な注意点ではありません。ただし、他の漢方薬を併用する場合は、生薬の重複に注意してください。

Q. 吐き気があれば呉茱萸湯でよいですか?

吐き気の原因はさまざまです。冷えによる胃寒と気逆であれば候補になりますが、胃腸炎、食中毒、妊娠、薬剤性、脳神経系の病気などもあります。強い嘔吐、発熱、脱水、激しい頭痛を伴う場合は受診を優先してください。

参考・出典

呉茱萸湯が合うか迷った方へ

呉茱萸湯は、吐き気を伴う頭痛、嘔吐、しゃっくり、胃の冷え、手足の冷えに使われる漢方薬ですが、すべての頭痛や吐き気に合うわけではありません。冷えが主役なのか、水滞が主役なのか、熱やのぼせが主役なのか、胃腸の状態まで含めて判断することが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。突然の激しい頭痛、麻痺、ろれつが回らない、意識障害、高熱、首の硬直、反復する嘔吐、脱水、血便・黒色便、強い腹痛、服用後の発疹・蕁麻疹・胃部不快・のぼせ・動悸などがある場合は、医療機関にご相談ください。妊娠中・授乳中、小児、高齢者、基礎疾患がある方、他のお薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。