当帰飲子とは?乾燥肌・かゆみ・分泌物の少ない湿疹に使う漢方薬を体質別に解説

更新日:2026年7月10日 監修:堀口和彦
当帰飲子(とうきいんし)

当帰飲子(とうきいんし)は、皮膚が乾燥し、分泌物が少なく、かゆみが長引く方に用いられる漢方薬です。冷え症で、体力が中等度以下、肌がカサカサして粉をふく、冬や入浴後、布団に入って温まった時にかゆみやすいタイプで比較されます。KanpoNowでは、この処方を「血を補って皮膚を内側から潤し、乾燥に絡むかゆみの風をさばく漢方薬」として整理します。

当帰飲子はこんな人に向いています
  • 皮膚がカサカサ乾燥し、粉をふきやすい
  • 分泌物は少なく、ジュクジュクより乾燥とかゆみが目立つ
  • 冬場や乾燥した季節にかゆみが悪化しやすい
  • お風呂や布団で温まると、かゆみが出やすい
  • 冷え症、顔色の悪さ、疲れやすさ、血虚傾向がある

反対に、赤みが強い、熱感が強い、ジュクジュクして分泌物が多い、夏に悪化する湿疹では、消風散・十味敗毒湯・温清飲など別の処方を比較します。

当帰飲子とは

当帰飲子は、当帰地黄蒺藜子芍薬川芎防風何首烏黄耆荊芥甘草から構成される漢方薬です。

当帰・地黄・芍薬・川芎は、四物湯の骨格として血を補い、皮膚に潤いと栄養を与えます。何首烏も血を補い、皮膚や毛髪を養う方向で働きます。防風・蒺藜子・荊芥は、体表の風、つまりかゆみをさばく生薬です。黄耆は、皮膚の回復力やバリア機能を支え、甘草は全体を調和します。

ポイント:当帰飲子は、赤くジュクジュクした湿疹を乾かす処方ではありません。皮膚の血と潤いが不足し、カサカサ乾燥してかゆいタイプを、内側から潤す処方です。

古典における位置づけ

当帰飲子は、中国宋代の医学書『済生方』に収載される処方です。処方名は、中心となる当帰と、飲み薬を意味する「飲子」に由来します。皮膚を内側から潤し、乾燥とかゆみを整える処方として位置づけられてきました。

古典的には、血が不足して皮膚を養えず、乾燥してかゆみが続く状態を考えます。皮膚に十分な血と潤いが届かないと、肌はカサつき、外からの刺激に弱くなります。そこに風が乗ると、かゆみが動き、掻くほどに皮膚が荒れ、さらに乾燥してかゆくなる悪循環が起こります。

現代では、老人性皮膚瘙痒症、乾燥性湿疹、分泌物の少ない慢性湿疹、冬場に悪化する乾燥型のアトピー性皮膚炎などで比較されます。

当帰飲子らしさ:肌が乾く。粉をふく。ジュクジュクしない。温まるとかゆい。冷え症で、疲れやすい。こうした「血虚による乾燥とかゆみ」を内側から潤す処方です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、当帰飲子が合う状態を、血虚をベースに、皮膚を養う血と潤いが不足し、そこに風が入り込んでかゆみが出ている状態として考えます。血が不足すると、肌は乾燥し、粉をふき、ひび割れや掻き傷が起こりやすくなります。

  • 血虚:皮膚を養う血と栄養が不足し、乾燥、粉ふき、色つやの低下が出る状態
  • 風:かゆみが動きやすく、急に出たり、温まると強まったりする状態
  • 冷え:巡りが弱く、皮膚の回復力が落ちやすい背景
  • 潤燥:不足した潤いを補い、乾いた皮膚を内側から養う考え方

当帰・地黄・芍薬・川芎は、血を補い、巡らせ、皮膚に潤いを届けます。何首烏は、血と精を補い、皮膚や毛髪を養います。防風・荊芥・蒺藜子は、体表のかゆみをさばきます。黄耆は、体表を支えて肌の回復力を助け、甘草は全体を調和します。

そのため当帰飲子は、「血を補う」「皮膚を潤す」「風をさばく」「体表を支える」という4つの方向を持つ処方です。

注意:赤く熱を持つ、ジュクジュクして汁が出る、化膿している、急に広がる、発熱を伴う、強い痛みがある湿疹・皮膚炎では、当帰飲子だけで考えず、医療機関に相談してください。

構成生薬と配合バランス

当帰飲子は、10種類の生薬で構成されます。構成理解としては、当帰・地黄・芍薬・川芎・何首烏の補血滋潤、黄耆の補気固表、防風・蒺藜子・荊芥の止痒、甘草の調和という骨格で見ると整理しやすくなります。

当帰飲子の構成を、当帰15%、地黄15%、蒺藜子15%、芍薬11%、川芎11%、防風11%、何首烏7%、黄耆7%、荊芥4%、甘草4%として合計100%で示した構成イメージです。 当帰飲子
当帰15%
地黄15%
蒺藜子15%
芍薬11%
川芎11%
防風11%
何首烏7%
黄耆7%
荊芥4%
甘草4%
当帰飲子の内部構造
血を補って皮膚を潤し、風をさばき、体表の回復力を支える構成です。
補血滋潤の軸 当帰・地黄・芍薬・川芎・何首烏 血を補い、皮膚に潤いと栄養を届け、乾燥や粉ふき、慢性化したかゆみを支えます。
止痒・祛風の軸 防風・蒺藜子・荊芥 体表に出るかゆみの風をさばき、温まるとかゆい、掻きむしりやすい状態を整えます。
補気・調和の軸 黄耆・甘草 皮膚の回復力とバリア機能を支え、全体の働きを穏やかに調和します。

※円グラフは、当帰飲子の構成理解用イメージです。表示比率は合計100%になるように調整しています。実際の配合量は製品により異なる場合があります。

一言でいうと:当帰飲子は、血が不足して皮膚が乾き、分泌物は少ないのにかゆみが続くタイプを、内側から潤して整える処方です。

当帰飲子の味・香り・服用時の体感

当帰飲子は、当帰・川芎のセロリのような香り、地黄の重い甘み、甘草の甘みが重なる処方です。四物湯をベースにした補血系の香りがあり、独特のえぐみと甘みを感じることがあります。

甘みとえぐみ

地黄・甘草の甘み、当帰・川芎の独特のえぐみ、何首烏の重みが重なります。

当帰・川芎の香り

セロリのような当帰・川芎の香りと、補血薬らしい深い薬草香があります。

暗褐色〜黒褐色

製品により異なりますが、粉末・顆頼では暗めの褐色から黒褐色寄りに見えます。

内側から潤う感覚

合う方では、乾燥で粉をふく肌が少しずつ落ち着き、夜や入浴後のかゆみが軽くなる感覚があります。

体験の流れ:当帰・川芎の香りを感じる → 継続するうちに皮膚の乾燥感が少しずつ落ち着く → 粉ふきや掻き壊しが減る → 温まった時のかゆみが和らぐ感覚。当帰飲子は、すぐに熱を冷ます処方ではなく、血を補って皮膚を育て直す処方です。

症状別の向き・不向き

当帰飲子は、症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、乾燥、分泌物の少なさ、冷え、温まるとかゆい、血虚、ジュクジュク、赤み、熱感、胃腸の強さです。

乾燥性湿疹・老人性皮膚瘙痒症

皮膚が乾いて粉をふき、分泌物は少なく、かゆみが慢性的に続くタイプに向きます。

判断ポイント:乾燥・粉ふき・分泌物が少ない。

冬場に悪化する乾燥型のかゆみ

空気が乾く季節、暖房、入浴後、布団で温まった時にかゆくなるタイプに比較します。

判断ポイント:乾燥と温まりで悪化。

乾燥型アトピー・慢性湿疹

赤みや分泌物より、乾燥、掻き壊し、皮膚の薄さ、冷えや疲れが目立つ場合に比較します。

判断ポイント:湿熱より血虚が主役。

冷え症で肌が荒れやすい

冷えやすく、顔色が悪く、皮膚の回復が遅く、かゆみが長引くタイプに比較します。

判断ポイント:血虚と冷えが背景にある。
×

ジュクジュクして分泌物が多い湿疹

湿って汁が出る、赤く熱い、夏に悪化する湿熱タイプでは、消風散などを比較します。

判断ポイント:乾燥ではなく湿熱が主役。
×

胃腸虚弱が強く、下痢しやすい

地黄・当帰などが胃腸に重く感じられることがあります。胃もたれ、食欲不振、下痢がある方は慎重に考えます。

判断ポイント:補血薬を消化できるか。

体質別の向き・不向き

当帰飲子は、血虚を中心に、皮膚の乾燥、冷え、体表の弱り、風によるかゆみが重なるタイプに向きます。熱を強く冷ます処方でも、湿を強く乾かす処方でもありません。

血虚タイプ

皮膚が乾く、髪や爪が弱い、顔色が悪い、疲れやすい、冷えやすいタイプです。

判断ポイント:肌に血と潤いが足りない。

冷えを伴う乾燥肌タイプ

冷え症で、冬にかゆみや乾燥が悪化し、皮膚の回復力が落ちているタイプです。

判断ポイント:冷え症で乾燥する。

風燥によるかゆみタイプ

乾燥に風が乗り、かゆみが動きやすい、温まると痒い、掻き壊しやすいタイプです。

判断ポイント:乾燥+風のかゆみ。

脾気虚・胃腸虚弱タイプ

補血・潤燥薬が胃にもたれることがあります。食欲不振、悪心、下痢がある場合は注意します。

判断ポイント:胃腸が受け止められるか。
×

湿熱・ジュクジュクタイプ

赤み、熱感、分泌物、化膿傾向が強い場合は、当帰飲子より湿熱をさばく処方を比較します。

判断ポイント:乾燥型か湿潤型か。

効能・効果

当帰飲子の効能・効果は、代表的には次のように整理できます。

体力中等度以下で、冷え症で、皮膚が乾燥するものの次の諸症:湿疹・皮膚炎(分泌物の少ないもの)、かゆみ

※医療用添付文書では「冷え症のものの次の諸症:慢性湿疹(分泌物の少ないもの)、かゆみ」と表現されます。実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

当帰飲子は、皮膚の乾燥とかゆみに用いられる処方ですが、地黄・当帰などの補血・潤燥薬と、甘草を含むため、胃腸の弱い方や長期服用では注意が必要です。

胃腸虚弱への注意

地黄・当帰などの補血・潤燥薬は、胃腸が弱い方では重く感じることがあります。食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢などが出る場合は、服用を中止して医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

甘草による偽アルドステロン症への注意

甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、体重増加、低カリウム血症、こむら返り、筋力低下、脱力感などに注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との併用では、甘草の重複にも注意してください。

妊娠中・授乳中・小児・高齢者

妊娠中または妊娠している可能性がある方は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ検討します。授乳中、小児、高齢者、持病のある方、医師の治療を受けている方も、自己判断で服用せず専門家に相談してください。

入浴とスキンケア

当帰飲子が合う乾燥型のかゆみでは、洗いすぎと温めすぎが悪化要因になります。ナイロンタオルで強くこすらず、手でやさしく洗い、熱い湯ではなくぬるめの湯にします。入浴後はすぐに保湿し、皮膚のバリアを守ります。

睡眠と血の補充

血虚タイプでは、睡眠不足が皮膚の回復を遅らせ、乾燥とかゆみを悪化させます。夜更かしを避け、日付が変わる前に眠ることを意識します。外からの保湿だけでなく、睡眠と食事で血を補うことが大切です。

相談・受診を優先したいサイン

  • 湿疹が急に広がる、強い赤み・熱感・腫れがある
  • ジュクジュクした分泌物、膿、強い痛みがある
  • 発熱、全身のだるさ、リンパ節の腫れを伴う
  • 服用後に発疹、発赤、かゆみ、蕁麻疹が出る
  • 胃部不快感、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢が出る
  • むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下が出る
  • 妊娠中、授乳中、小児、高齢者、持病や併用薬がある
すぐ相談:赤み・熱感・分泌物・化膿・痛みが強い皮膚症状、発熱を伴う湿疹、急に広がる皮膚炎では、当帰飲子で様子を見ず皮膚科など医療機関に相談してください。

症状から理解を深める

当帰飲子が気になる方は、かゆみ、アトピー、肌荒れ、冷え、症状一覧から関連症状を確認すると理解が深まります。

かゆみや湿疹に使う漢方薬でも、乾燥型か、ジュクジュク型か、赤み・熱感が強いか、化膿傾向があるかで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 当帰飲子はどんなかゆみに向いていますか?

皮膚が乾燥して粉をふき、分泌物が少なく、冬や入浴後、布団で温まった時にかゆみやすいタイプに向きます。ジュクジュクして赤く熱い湿疹では、別の処方を比較します。

Q. アトピーにも使えますか?

乾燥が強く、分泌物が少ない慢性タイプでは比較されます。ただし、赤み、熱感、ジュクジュク、化膿傾向が強い場合は、消風散や温清飲など別の処方を考えます。

Q. 消風散との違いは何ですか?

消風散は、分泌物が多く、赤みや熱感が強く、湿熱を伴うかゆみで比較します。当帰飲子は、分泌物が少なく、乾燥と血虚が中心のかゆみで比較します。

Q. 胃もたれしやすい人でも飲めますか?

注意が必要です。地黄や当帰などの補血・潤燥薬が胃に重く感じられることがあります。食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢が出る場合は、服用を中止して相談してください。

Q. 甘草の副作用は心配ですか?

甘草を含むため、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下、脱力感には注意します。他の漢方薬やグリチルリチン酸含有製剤との重複にも注意してください。

参考・出典

当帰飲子が合うか迷った方へ

当帰飲子は、乾燥肌、分泌物の少ない湿疹、かゆみに使われる漢方薬ですが、すべての皮膚炎に合うわけではありません。乾燥型なのか、湿熱型なのか、赤みや分泌物が強いのか、胃腸が受け止められるかまで含めて判断することが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。赤み・熱感・分泌物・化膿・痛みが強い皮膚症状、発熱を伴う湿疹、急に広がる皮膚炎がある場合は、医療機関にご相談ください。服用後に発疹・発赤・かゆみ、蕁麻疹、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢、むくみ、血圧上昇、こむら返り、筋力低下などがある場合は、服用を中止して専門家に相談してください。妊娠中・妊娠の可能性がある方、授乳中、小児、高齢者、著しく胃腸が弱い方、持病がある方、他のお薬や他の漢方薬を服用中の方も、自己判断を避けて専門家にご相談ください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。