黄耆建中湯とは?虚弱・疲労・ねあせ・腹痛・冷えに使う漢方薬

更新日:2026年7月2日 監修:堀口和彦
黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)

黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)は、古典『金匱要略』に由来する「建中湯類」の処方で、小建中湯黄耆を加えたものです。「中(おなか)を建てる」、つまり胃腸を立て直して体力を支えることを中心に組み立てられています。KanpoNowでは、この処方を「体力が落ちて内側が冷え、疲れやすく汗が漏れやすい人の、お腹から立て直す漢方薬」として整理します。

黄耆建中湯はこんな人に向いています
  • 体力が弱く、疲れやすい・病後や産後で消耗している
  • お腹が冷えて、差し込むように痛むことがある
  • ねあせ(寝汗)や、ちょっとしたことで汗をかきやすい
  • 皮膚が弱く、湿疹やただれが治りにくい
  • 胃腸が弱く、食が細い・お腹に力が入りにくい

反対に、がっしりした実証タイプ、急性の発熱を伴う風邪、ほてり・口の渇きが強い熱証タイプ、胃腸に湿熱がこもっている方には合いにくい処方です。膠飴の糖分があるため、血糖の管理が必要な方も注意が必要です。

黄耆建中湯とは

黄耆建中湯は、黄耆桂皮芍薬大棗甘草生姜に、建中湯類の土台となる膠飴(こうい・水飴)を加えた構成を基本とする漢方薬です。代表的には、体力が弱く疲れやすい方の、虚弱体質、病後の衰弱、ねあせ、皮膚のただれ、腹痛、冷え症などに用いられます。

「建中湯類」とは、おなか(中焦)の力を内側から建て直す処方の系統です。黄耆建中湯は、その小建中湯に黄耆を加えることで、体力を補い、ゆるんだ体表から汗が漏れるのを引き締め、皮膚の回復にも配慮する方向を強めた処方です。症状名だけでなく、「体力の弱り」「内側の冷え」「お腹の弱さ」「汗の漏れやすさ」を確認して選ぶことが大切です。

ポイント:黄耆建中湯は「温めて、補って、お腹から立て直す」処方です。疲れやすく内側が冷え、汗が漏れやすい人に合いやすい一方、がっしりした実証や、ほてり・熱がこもるタイプには向きません。

古典における黄耆建中湯の位置づけ

黄耆建中湯は、古典『金匱要略』の血痺虚労病編に登場する処方です。古典では、消耗が続いて回復力が落ち、お腹が差し込むように痛む「虚労裏急、諸不足」といった、さまざまな不足が重なった状態が目安とされてきました。

もとになっているのは小建中湯で、これに黄耆を加えたのが黄耆建中湯です。黄耆を加えることで、体力を補い、体表を引き締めて汗を調える働きが加わると考えられてきました。ただし、古典上の「虚労」の記載を、現代の重い消耗性疾患や栄養障害の自己判断治療に置き換えることはできません。

黄耆建中湯らしさ:単なる「滋養強壮の薬」ではありません。お腹の弱さと内側の冷えを土台に、疲れ・ねあせ・腹痛・皮膚の弱さが重なるときに輪郭がはっきりする、虚証向けの建中湯です。

漢方的な病態とメカニズム

東洋医学では、黄耆建中湯が合う状態を、おおまかに「中焦虚寒」と「気虚」が重なった状態と考えます。これは、胃腸(中焦)の力が弱って内側が冷え、体を立て直すエネルギー(気)が不足している状態です。

  • 虚労:消耗が続き、回復が追いつかず、疲れやすくなっている状態
  • 中焦虚寒:胃腸が弱り、お腹の中が冷えて、差し込むように痛むことがある状態
  • 気虚・表虚:体表を守る力が弱く、ねあせや自汗として汗が漏れやすい状態
  • 皮膚の弱り:体力低下を土台に、皮膚の修復・回復が遅れやすい状態

黄耆建中湯は、膠飴と甘草の甘みでお腹をいたわって建て直し、桂皮・生姜で内側を温め、芍薬で差し込む痛みをゆるめ、黄耆で体力を補いながら汗の漏れと皮膚の回復に配慮する、という方向で組み立てられています。だからこの処方を選ぶときは、「疲れているか」だけでなく、お腹の弱さ・冷え・汗の漏れやすさがあるかを見ることが重要です。

注意:黄耆建中湯の目的は、漢方的には「内側を温めて補い、お腹を建て直す」ことです。栄養障害や貧血、慢性疾患による消耗など、医学的な評価や治療が必要な状態を置き換えるものではありません。強い腹痛、嘔吐、発熱、血便、急な体重減少、症状の長期化がある場合は医療機関への相談が必要です。

構成生薬と配合バランス

黄耆建中湯は、中を建て、力を補う軸、温めて痛みをゆるめる軸、胃腸を支える軸で構成されています。構成生薬は7つですが、全体としては「お腹を甘く建て直す小建中湯に、体力を補い汗と皮膚を支える黄耆を足した」処方です。

黄耆建中湯の構成生薬比率 膠飴49%、芍薬15%、黄耆10%、桂皮10%、大棗10%、甘草5%、生姜2%の配合比率イメージです。 黄耆建中湯 配合比率
膠飴49%
芍薬15%
黄耆10%
桂皮10%
大棗10%
甘草5%
生姜2%
黄耆建中湯の内部構造
配合量の土台は膠飴の甘みです。そこに、内側を温める力、痛みをゆるめる芍薬、体力を補う黄耆が組み合わさります。
中を建て、力を補う軸 膠飴・黄耆 甘く胃腸を建て直し、不足した気と体力を内側から補う中心です。
温めて痛みをゆるめる軸 桂皮・芍薬・生姜 冷えた内側を温め、差し込む腹痛やこわばりをゆるめます。
胃腸を支える調和 大棗・甘草 胃腸の働きを支えながら、処方全体を穏やかにまとめます。

※配合比率は、膠飴20g・芍薬6g・桂皮4g・大棗4g・黄耆4g・甘草2g・生姜1gを基準にしたイメージです。膠飴(水飴)は建中湯類の土台となる成分ですが、製品によっては膠飴を含まないものや、別に記載するものもあります。実際の配合生薬・配合量は製品により異なります。

一言でいうと:黄耆建中湯は「お腹を甘く建て直す小建中湯」に、体力を補い汗と皮膚を支える黄耆を足した処方です。疲れだけでなく、お腹の弱さ・冷え・汗の漏れやすさがあるときに輪郭がはっきりします。

黄耆建中湯の味・香り・服用時の体感

黄耆建中湯の体験は、ばらばらに「香り」「味」「見た目」を見るより、飲む前から飲んだ後までの流れで捉えると分かりやすくなります。膠飴の甘みでお腹を建て直し、内側を温めて補う処方であり、その性格は香り・味・飲後感にも表れます。

淡い飴色に広がる

顆粒をお湯に溶かすと、淡い飴色〜薄茶に。まず「甘く温める処方」の雰囲気が立ち上がります。

桂皮と生姜が穏やかに

桂皮のほんのり甘い香りに、生姜の温かみが重なります。刺激は少なく、やわらかい香りです。

はっきりした甘み

膠飴・甘草・大棗のはっきりした甘みが中心。桂皮のやわらかな辛みと、芍薬の軽い酸味・苦みがあとを追います。比較的飲みやすい味です。

お腹の奥から温まる

合っていると、お腹の奥からじんわり温まり、力が戻るような感覚があります。差し込むような痛みがやわらぐこともあります。

体験の流れ:淡い飴色の甘い湯 → 桂皮と生姜の穏やかな香り → はっきりした甘みと軽い辛み・酸味 → お腹の奥から温まり力が戻る感覚。体力が弱く、お腹が冷えているときほど、この甘く温まる流れが心地よく感じられることがあります。

症状別の向き・不向き

黄耆建中湯は、症状名だけで選ぶ漢方薬ではありません。見るべきポイントは、体力が弱っているか、お腹が冷えて弱いか、汗が漏れやすいかです。これらが揃うほど、処方の輪郭ははっきりします。

虚弱体質・病後の衰弱

もともと体力が弱い、病後や産後で消耗している、疲れやすく回復が追いつかない。黄耆建中湯の最も典型的な場面です。

判断ポイント:疲れやすく、胃腸も弱って力が出ない。

お腹の冷え・差し込む腹痛

お腹が冷えやすく、差し込むように痛む、温めると楽になるタイプの腹痛で、黄耆建中湯らしさが出ます。

判断ポイント:冷えと虚弱が、お腹の痛みと結びついている。

ねあせ・汗が漏れやすい

体表を守る力が弱く、寝汗をかく、ちょっとしたことで汗が漏れるタイプに候補になります。

判断ポイント:体力の弱りと汗の漏れやすさが一緒にある。

湿疹・皮膚のただれが治りにくい

体力低下を土台に、皮膚の回復が遅く、湿疹やただれが長引くタイプで比較されます。強い炎症が前面に出る皮膚症状は別の見立てが必要です。

判断ポイント:体力の弱りを背景に、皮膚の修復が遅い。

急性の発熱・実証の風邪

急に高熱が出る、がっしりした実証の風邪などは、黄耆建中湯が中心になる場面ではありません。状態に応じて別処方や受診を検討します。

判断ポイント:急性・実証の発熱は適応の中心ではない。
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ほてり・口渇が強い熱証

体に熱がこもり、ほてり・口の渇き・のぼせが強いタイプでは、温めて甘く補う方向が負担になることがあります。

判断ポイント:熱・ほてりが強いタイプには向きにくい。

体質別の向き・不向き

黄耆建中湯は、体力が弱く内側が冷えた「虚証・中焦虚寒」に向く処方です。発散する薬ではなく、温めて補う薬なので、体質との相性を見ることが特に重要です。

気虚・虚労タイプ

疲れやすい、力が出ない、胃腸が弱く回復が遅い、病後で消耗しているタイプです。黄耆建中湯の中心的な体質像です。

判断ポイント:消耗・回復力低下・胃腸の弱さがそろう。

中焦虚寒(お腹の冷えと弱さ)

お腹が冷えやすく、温かいものを好み、冷えると腹痛や下しやすさが出るタイプでは相性がよい傾向です。

判断ポイント:お腹の冷えと虚弱が結びついている。

表虚で汗をかきやすいタイプ

体表を守る力が弱く、ねあせ・自汗が出やすい、かぜをひきやすいタイプでは候補になります。

判断ポイント:体力の弱りと汗の漏れやすさがある。

湿熱・実証傾向

胃腸に湿熱がこもりやすい、もたれや口の粘り、ベタつく汗が強いタイプでは、甘く補う方向が合わないことがあります。

判断ポイント:甘み・温めが負担にならないか確認する。
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強い実熱・ほてり、糖分制限が必要な方

熱・ほてりが強い実証タイプには向きません。また膠飴の糖分があるため、血糖の管理が必要な方は量や適否に注意が必要です。

判断ポイント:強い熱証、糖分制限の有無を確認する。

効能・効果

黄耆建中湯の効能・効果は製品により表現が異なりますが、代表的には次のような内容が記載されています。

体力虚弱で、疲労しやすいものの次の諸症:
虚弱体質、病後の衰弱、ねあせ、湿疹・皮膚炎、皮膚のただれ、腹痛、冷え症

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

黄耆建中湯は虚弱な方に向けた穏やかな処方ですが、甘草を含むこと、膠飴の糖分があることなどから、誰でも気軽に長く使ってよいわけではありません。特に、むくみや高血圧がある方、血糖の管理が必要な方、ほかの甘草を含む漢方薬を併用している方は注意が必要です。

甘草による注意

黄耆建中湯には甘草が含まれます。甘草を含む漢方薬を複数併用したり、長期間服用したりすると、偽アルドステロン症と呼ばれる副作用に注意が必要です。

  • 手足のむくみ
  • 血圧上昇
  • 体重増加
  • だるさ、脱力感
  • こむら返り、筋肉のけいれん

膠飴の糖分による注意

黄耆建中湯は膠飴(水飴)の甘みを土台とする処方です(製品により膠飴の有無は異なります)。糖分を含むため、糖尿病など血糖の管理が必要な方は、服用の可否や量について事前に相談してください。

  • 糖尿病・血糖管理中の方は適否を確認
  • 甘い味が強いため、体質によっては胃もたれを感じることがある

受診を優先したいサイン

  • 強い腹痛、嘔吐、発熱、血便がある
  • 急な体重減少、強い倦怠感が続く
  • 皮膚症状が急に悪化する、広がる、強い炎症や化膿を伴う
  • むくみ、血圧上昇、脱力感、こむら返りが出た
  • 発疹、かゆみ、黄疸などが出た
すぐ相談:服用後に、むくみ、血圧上昇、体重増加、だるさ、脱力感、こむら返り、発疹、かゆみ、強い胃部不快感、強い腹痛などが出た場合は服用を中止し、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

症状から理解を深める

黄耆建中湯が気になる方は、疲労やお腹の症状だけでなく、汗・皮膚・冷えとの関係も確認すると理解が深まります。

黄耆建中湯と似て見える処方でも、お腹を建て直すのか、強く温めるのか、気を持ち上げるのか、体表を固めるのか、水をさばくのかで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 黄耆建中湯はどんな人に向いていますか?

体力が弱く疲れやすい方で、お腹が冷えて弱い、ねあせや汗が漏れやすい、皮膚が弱く治りにくい、といった「虚弱と内側の冷え」が重なるタイプに向きやすい漢方薬です。がっしりした実証や、ほてり・熱がこもるタイプには向きません。

Q. 小建中湯との違いは何ですか?

黄耆建中湯は、小建中湯に黄耆を加えた処方です。お腹を甘く建て直す方向は共通ですが、黄耆を加えることで、体力を補い、汗の漏れを引き締め、皮膚の回復に配慮する働きが加わると考えられています。疲れ・ねあせ・皮膚の弱さがより目立つ場合に比較されます。

Q. 黄耆建中湯は子どもや高齢の方にも使えますか?

虚弱な体質に向けて使われることがある処方ですが、年齢や体格、ほかの薬との兼ね合いで適否や量が変わります。お子さま・高齢の方・妊娠中・授乳中の方は、自己判断せず医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

Q. 糖尿病でも飲めますか?

黄耆建中湯は膠飴の甘み(糖分)を土台とする処方です。糖尿病など血糖の管理が必要な方は、服用の可否や量について事前に医師・薬剤師に相談してください。

Q. 黄耆建中湯は長く飲み続けてもよいですか?

体質改善を目的に一定期間続けることがある処方ですが、甘草を含むため、漫然と長く続けると偽アルドステロン症などに注意が必要です。経過を見ながら使い、改善しない場合や体調の変化があれば相談してください。

参考・出典

黄耆建中湯が合うか迷った方へ

黄耆建中湯は、虚弱な体質を内側から立て直す処方ですが、すべての疲れや腹痛、皮膚の悩みに合うわけではありません。体力の弱り、お腹の冷えと弱さ、汗の漏れやすさ、皮膚の状態、甘草・糖分への注意点まで含めて判断することが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。症状が強い場合、長引く場合、急な悪化がある場合、強い腹痛・嘔吐・発熱・血便・急な体重減少などがある場合、基礎疾患がある場合、妊娠中・授乳中、小児・高齢者の場合は、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。