温経湯とは?冷えのぼせ・月経不順・更年期の乾燥に使う漢方薬

更新日:2026年6月27日 監修:堀口和彦
温経湯(うんけいとう)

温経湯(うんけいとう)は、下腹部や足腰の冷えがある一方で、手足がほてる、唇が乾く、夕方に熱っぽくなる、月経が乱れるといった「冷え」と「乾燥・ほてり」が同時に見られるときに用いられる漢方薬です。KanpoNowでは、この処方を「冷えた骨盤内を温め、血と潤いを補い、滞った血を巡らせる婦人科系の漢方薬」として整理します。

温経湯はこんな人に向いています
  • 下腹部や足腰は冷えるのに、手のひらや足先がほてる
  • 唇や口の中が乾きやすく、肌もカサつきやすい
  • 月経不順、月経困難、こしけ、更年期の不調がある
  • 生理後半から終了後に、シクシクした痛みやだるさが出やすい
  • 冷え、血の不足、潤い不足、瘀血が重なっている

反対に、便秘が強く、体力があり、のぼせ・イライラ・下腹部の張りが激しい実証タイプでは、温めて補う温経湯よりも、瘀血と便秘を下へ通す桃核承気湯などを比較します。

温経湯とは

温経湯は、麦門冬(ばくもんどう)、半夏(はんげ)、当帰(とうき)、甘草(かんぞう)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、人参(にんじん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)、阿膠(あきょう)の12種類から構成される漢方薬です。

構成生薬が多い処方ですが、目的は明確です。冷えた下腹部を温め、足りない血と潤いを補い、骨盤内に滞った血を巡らせ、胃腸も支える。単純な「冷え」だけでも、単純な「のぼせ」だけでもなく、冷え・乾燥・ほてり・血の滞りが入り混じった複雑な状態を見ます。

ポイント:温経湯は、下腹部は冷えるのに手足がほてり、唇が乾くような「冷えのぼせ+血虚+陰虚+瘀血」を考える処方です。温めるだけでなく、潤し、補い、巡らせることが特徴です。

古典における温経湯の位置づけ

温経湯は、古典『金匱要略』の婦人雑病編に登場する処方として知られています。古典では、50歳前後の女性で、出血が長引き、夕方に熱っぽくなり、下腹部が張って、手のひらがほてり、唇や口が乾く状態に用いる考え方が示されています。

また、下腹部が冷えて妊娠しにくい、月経が多い、月経が来ない、崩漏のように出血が乱れる状態にも触れられています。現代的には、月経不順、月経困難、更年期障害、足腰の冷え、手足のほてり、唇の乾燥、不眠、湿疹・手荒れなどを、婦人科系の冷え・血虚・瘀血・潤い不足として見る処方です。

温経湯らしさ:下腹部は冷える、手のひらはほてる、唇は乾く、月経や更年期の不調がある。この一見矛盾した組み合わせが、温経湯を考える重要なサインです。

漢方的な病態とメカニズム

漢方では、温経湯が合う状態を「衝任虚寒」「血虚」「陰虚」「瘀血」が重なったものとして考えます。衝任とは、月経・妊娠・婦人科の働きに深く関わる経絡や機能のまとまりです。ここが冷えて弱り、血と潤いが不足し、古い血が滞ることで、冷えとほてりが同時に出ます。

  • 衝任虚寒:下腹部や骨盤内が冷え、月経や婦人科系の働きが弱っている状態
  • 血虚:血の栄養が不足し、だるさ、乾燥、月経後の痛み、肌のつや不足につながる状態
  • 陰虚:潤いが不足し、唇の乾燥、手足のほてり、夕方の熱感が出やすい状態
  • 瘀血:骨盤内の血の巡りが滞り、下腹部の張り、月経痛、不正出血、しこり感につながる状態

温経湯は、桂皮・呉茱萸・生姜で冷えた下腹部を温め、当帰・川芎・芍薬で血を補いながら巡らせ、麦門冬・阿膠で潤いを補います。牡丹皮は骨盤内の瘀血と虚熱をさばき、人参・甘草・半夏が胃腸を支えて、補う処方を受け止めやすくします。

注意:強い炎症、赤み、熱感、便秘、がっちりした実証の瘀血が前面にある場合、温経湯の「温めて潤す」方向は合わないことがあります。症状が強い場合や不正出血が続く場合は、婦人科での確認を優先してください。

構成生薬と配合バランス

温経湯は12味で構成され、温める、補う、潤す、巡らせる、胃腸を守るという複数の役割を同時に持ちます。下腹部の冷えと、手足のほてり・唇の乾燥が同時にある複雑な状態に対応するための設計です。

温経湯の構成生薬比率 麦門冬、半夏、当帰、甘草、桂皮、芍薬、川芎、人参、牡丹皮、阿膠、呉茱萸、生姜の配合比率イメージです。 温経湯 12味
麦門冬14.8%
半夏14.8%
当帰11.1%
甘草7.4%
桂皮7.4%
芍薬7.4%
川芎7.4%
人参7.4%
牡丹皮7.4%
阿膠7.4%
呉茱萸3.7%
生姜3.7%
温経湯の内部構造
温める・補血する・潤す・瘀血を動かす・胃腸を支える、という複合処方です。
下腹部を温める軸 呉茱萸・桂皮・生姜 骨盤内や下腹部の冷えを温め、冷えによる痛みや巡りの停滞をほどく方向です。
血を補い巡らせる軸 当帰・川芎・芍薬・牡丹皮 血の不足と滞りを同時に見て、月経痛、月経不順、下腹部の張りを整えます。
潤いと胃腸の軸 麦門冬・阿膠・人参・甘草・半夏 唇や肌の乾燥を潤しながら、補う処方を受け止める胃腸の働きも支えます。

※配合比率は、麦門冬4g・半夏4g・当帰3g・甘草2g・桂皮2g・芍薬2g・川芎2g・人参2g・牡丹皮2g・阿膠2g・呉茱萸1g・生姜1gを基準にしたイメージです。実際の配合量は製品により異なります。

一言でいうと:温経湯は「冷えた下腹部を温めながら、血と潤いを補い、滞った血を巡らせる」処方です。冷えとほてり、乾燥と瘀血が同時にあるかを見ます。

温経湯の味・香り・服用時の体感

温経湯は、桂皮の甘く温かい香り、呉茱萸や当帰の漢方らしい香り、麦門冬や甘草の甘み、阿膠のもったりしたコクが重なる、非常に複雑な味わいの処方です。

淡い褐色〜黄褐色

温める生薬と補血・潤燥の生薬が混ざり、やわらかい褐色から黄褐色の印象になります。

甘い桂皮香と薬草香

桂皮のシナモン様の香りに、呉茱萸や当帰の独特の香りが加わります。温める処方らしい香りです。

甘み・辛み・コク

麦門冬や甘草の甘み、桂皮・呉茱萸の辛み、阿膠のもったりしたコクが重なります。

下腹部が温まる印象

合っている場合、胃から下腹部にかけて温かさが広がり、乾いた口唇や喉が潤うように感じることがあります。

体験の流れ:淡い褐色の湯 → 桂皮の甘い香りと漢方らしい香り → 甘み・辛み・コクのある複雑な味 → 下腹部がじんわり温まり、乾きがほどける印象。冷えと乾燥が同時にあるときに、処方の方向性が合いやすくなります。

症状別の向き・不向き

温経湯は、月経不順や更年期という症状名だけで選ぶ処方ではありません。見るべきポイントは、下腹部の冷え、手足のほてり、唇の乾燥、血虚、瘀血が同時にあるかです。

生理後半〜終了後の痛み・だるさ

生理で血を失った後に、シクシク痛む、だるい、冷える、疲れるような場合に候補になります。血虚と冷えが中心です。

判断ポイント:生理の後半から終了後に、栄養不足のような痛みが出る。

手足のほてり・唇の乾燥を伴う月経不順

下腹部は冷えるのに、手のひらがほてり、唇が乾き、月経が乱れる場合に温経湯らしさが出ます。

判断ポイント:冷えとほてり、乾燥と月経異常が同時にある。

更年期の冷えのぼせ・乾燥

足腰は冷えるのに、上半身や手足はほてり、肌や唇が乾く更年期の不調で比較します。

判断ポイント:更年期の熱感だけでなく、下腹部や足腰の冷えもある。

冷えを伴う不妊・婦人科の不調

下腹部の冷え、月経不順、乾燥、血の不足がある場合に、婦人科領域で検討されることがあります。医療的な不妊検査や治療と併せて考える領域です。

判断ポイント:冷えた骨盤内を温め、血と潤いを補う必要がある。

胃腸虚弱が強い人

人参・甘草・半夏で胃腸を支えますが、阿膠や麦門冬、当帰などの補血・潤燥薬が重く感じることがあります。

判断ポイント:胃もたれ、食欲不振、下痢が出る場合は見直す。
×

実熱・湿熱が強いタイプ

便秘が強く、がっちり体型で、のぼせやイライラ、炎症が激しい場合には、温めて潤す温経湯は合いにくいことがあります。

判断ポイント:赤い・熱い・便秘・実証なら別処方を比較する。

体質別の向き・不向き

温経湯は、血と潤いが不足し、下腹部が冷え、血が滞っている体質に向きやすい処方です。単純な冷えだけでなく、乾燥やほてりがあることが重要です。

血虚+陰虚

血の栄養と潤いが不足し、乾燥、手足のほてり、唇の乾き、月経後のだるさが出るタイプです。

判断ポイント:乾く、ほてる、疲れる、血が足りない。

陽虚+血瘀

骨盤内や下腹部が冷え、その冷えで血の巡りが滞っているタイプです。月経痛、冷え、下腹部の張りで考えます。

判断ポイント:下腹部が冷え、血の巡りが悪い。

冷えのぼせ

足腰や下腹部は冷えるのに、手足や顔はほてるタイプです。更年期の不調でも見られます。

判断ポイント:下は冷え、上や末端は熱い。

気虚・胃腸虚弱

胃腸を助ける生薬は入っていますが、補血・潤燥薬が重く感じられることがあります。下痢や胃もたれに注意します。

判断ポイント:補う力を受け止める胃腸があるか。
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湿熱

赤み、炎症、粘り、におい、熱感が強いタイプです。温めて潤す処方が炎症を助長することがあります。

判断ポイント:炎症と熱が強い場合は慎重に。
×

実証の瘀血・便秘

体力があり、便秘、強いのぼせ、強い下腹部の張りがある瘀血タイプでは、温経湯よりも下へ通す処方を比較します。

判断ポイント:補うより、強く動かして下す必要があるか。

効能・効果

温経湯の効能・効果は製品により表現が異なりますが、代表的には次のような内容が記載されています。

体力中等度以下で、手足がほてり、唇がかわくものの次の諸症:
月経不順、月経困難、こしけ、更年期障害、不眠、神経症、湿疹・皮膚炎、足腰の冷え、しもやけ、手あれ など

※実際の効能・効果、用法・用量、注意事項は、購入する製品の添付文書・外箱表示を必ず確認してください。

服用上の注意

温経湯は、補血・潤燥・温め・活血を併せ持つ処方です。比較的穏やかな印象を持たれやすい一方で、阿膠・麦門冬・当帰などによる胃腸負担、甘草による偽アルドステロン症、出血や婦人科症状の見逃しには注意が必要です。

阿膠・麦門冬・当帰などによる胃腸負担

  • 胃もたれ、食欲不振
  • 腹部膨満感
  • 腹痛、軟便、下痢
  • 吐き気、胃部不快感

甘草を含むことによる注意

温経湯には甘草が含まれます。甘草を含む他の漢方薬や医薬品との重複により、偽アルドステロン症のリスクが高まることがあります。

  • むくみ
  • 血圧上昇
  • 手足のだるさ、筋力低下
  • こむら返り
  • 低カリウム血症に関連する症状

婦人科受診を優先したいサイン

  • 不正出血が続く、出血量が多い
  • 閉経後に出血がある
  • 強い下腹部痛、発熱がある
  • 月経痛が急に強くなった
  • 妊娠の可能性がある、または不妊治療中である
  • 貧血、めまい、息切れがある
すぐ相談:服用後に、発疹・かゆみ、強い胃部不快感、腹痛、下痢、むくみ、血圧上昇、筋力低下、不正出血の悪化などがある場合は、服用を中止し、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

症状から理解を深める

温経湯が気になる方は、月経不順、更年期の不調、肌荒れ・乾燥肌など、KanpoNow内の関連症状ページもあわせて確認すると、処方の見立てが整理しやすくなります。

温経湯は、婦人科系の不調や冷えのぼせでよく比較される処方です。ただし、同じ月経痛や更年期でも、血虚が中心なのか、瘀血が強いのか、便秘があるのか、冷えが強いのかで選び方が変わります。

よくある質問

Q. 温経湯は更年期のほてりに使いますか?

足腰や下腹部は冷えるのに、手足や顔がほてり、唇や肌が乾くタイプの更年期症状で候補になります。熱感だけが強く、赤みや炎症が強いタイプでは別の処方を比較します。

Q. 月経痛にはいつ向いていますか?

生理後半から終了後に、血を失った後のようなシクシクした痛み、だるさ、冷えが出る場合に向きやすいです。月経前から強く張って痛み、便秘や強いのぼせを伴う場合は、別処方を比較します。

Q. 不妊治療中に使うことはありますか?

下腹部の冷え、月経不順、血虚、潤い不足がある場合に婦人科領域で応用されることがあります。ただし、不妊治療中は自己判断で併用せず、主治医や薬剤師に相談してください。

Q. 胃腸が弱くても飲めますか?

胃腸を助ける人参・甘草・半夏は含まれますが、阿膠・麦門冬・当帰などが重く感じることがあります。胃もたれ、下痢、腹部膨満が出る場合は服用を中止し相談してください。

Q. 甘草は入っていますか?

温経湯には甘草が含まれます。他の漢方薬や医薬品との重複により、むくみ、血圧上昇、筋力低下、こむら返りなどが出ることがあるため、併用時は確認が必要です。

参考・出典

温経湯が合うか迷った方へ

温経湯は、冷え性、月経不順、更年期という症状名だけで選ぶ漢方薬ではありません。下腹部の冷え、手足のほてり、唇の乾燥、血虚、瘀血、胃腸の強さまで含めて判断することが大切です。

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免責:本ページは漢方薬に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、診断・治療・服薬指示を行うものではありません。不正出血が続く場合、閉経後出血がある場合、強い下腹部痛・発熱・貧血症状がある場合、妊娠中・妊娠の可能性がある場合、不妊治療中の場合、基礎疾患がある場合、服薬中の薬がある場合、小児・高齢者の場合は、医師・薬剤師・登録販売者に相談してください。

監修者プロフィール
堀口和彦

堀口 和彦 東洋医学・漢方薬剤師/鍼灸師

光和堂薬局 院長。埼玉県生まれ。東京理科大学薬学部卒、同大学院修士課程修了。総合漢方研究会 学術部員。元東京大学大学院医学系研究科 客員研究員。公益法人埼玉県鍼灸師会会員。さいたま市学校薬剤師(指扇中学校)。一般財団法人日本漢方連盟 会員。

著書に『やさしい漢方入門』(健友館)、『パプアニューギニアの薬草文化』(アボック社)、『体質で決まる漢方と養生‐気精血水‐』(万来舎)など。